令和2年の税制改正で、令和2年10月1日以降に取得した居住用賃貸建物(令和2年3月31日までに結んだ契約により取得したものをの除く)に係る消費税額に就いては仕入税額控除の対象外になりました。この結果、金地金取引等を利用した消費税還付スキームが略封じられたことは皆さんご存知の通りです。ところがもう一つの改正項目に就いては存外に良くご存じない方が多い様です。理由はアパート等の居住用不動産の賃貸を専らにしている事業者は、自分(自社)には関係がないと思い込んでいるからではないでしょうか。或いは改正に拠る規制が効きすぎて、居住用賃貸建物に係る消費税は須らく仕入税額控除が受けられないと誤解されているからかも知れません。そうとは限らないのです。還付要件に適合していれば還付できるにも関わらず、必要手続きを失念して権利が失効するのは勿体ない話です。そこで今回は令和2年税制改正のうち後者の「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整」に就いて、アパート経営事業者がどの様な場合に適用が受けられるか、その際の留意点は何かを掻い摘んでご説明します。
1.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除の制限
事業者が国内に於いて行う居住用建物に係る仕入れ消費税額に就いては、仕入税額控除の対象としないことになりました。
居住用建物とは、住宅用途の貸付でないことが明らかな建物以外の建物で、その税抜き仕入価額が1千万円以上のもの(特定固定資産等)をいいます。
2.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整
取得等に係る第三年度の課税期間末日に上記①の適用を受けた居住用賃貸建物を有し且つ調整期間中に課税賃貸を行った場合、若しくは調整期間中にその居住用賃貸建物を他の者に譲渡した場合は、第三年度の課税期間若しくは譲渡を行った課税期間の仕入控除税額に一定額を加算します。
先ず居住用賃貸建物を課税賃貸する時期、若しくは他の者に譲渡をする時期に就いての要件です。何れも調整期間中でなければなりませんので、居住用賃貸建物を取得等した日の属する課税期間の初日から3年を経過するまでに、課税賃貸若しくは他の者への譲渡を行わなければなりません。
次は還付手段が仕入税額控除の上乗せになっていることです。課税賃貸については第三年度の課税期間、他の者への譲渡に就いては譲渡をした日の属する課税期間の仕入消費税額に一定額を加算して還付を受ける必要があります。ここで注意が必要なのは、還付を行ける為には当該課税期間に於いて課税事業者でなければならない点です。免税事業者は消費税の確定申告をすることが出来ませんので、仕入税額控除の加算による還付は理論的に不可能です。
課税事業者になるためには、基準期間の課税売上高が1千万円超であるか、又は1千万円以下の場合は消費税課税事業者選択届出書を提出する必要がありますが、居住用不動産賃貸を専らにしている事業者の多くは基準期間の課税売上高が1千万円以下と思われます。消費税課税事業者選択届出書は適用を受ける課税期間の前課税期間の末日までに提出しなければなりませんので、該当不動産の譲渡を検討されている方は事前手続きを失念しないことが肝要です。
*第三年度の課税期間とは
居住用賃貸建物の仕入れ等を行った課税期間の初日以降3年を経過する日の属する課税期間を言います。例えば個人事業者が令和5年4月1日にアパートを取得した場合であれば、令和7年1月1日から令和7年12月31日までが第三年度の課税期間になります。
*調整期間とは
居住用賃貸建物の仕入れ等を行った日から第三年度の課税期間の末日までの期間を言います。前の事例では令和5年4月1日から令和7年12月31日までが調整期間になります。
*課税譲渡等調整期間とは
居住用賃貸建物の仕入れ等を行った日からその居住用賃貸建物を他の者に譲渡した日までの期間を言います。
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