中国の民法典(夫婦間の不動産共同共有名義)の規定に該当するマンションを売却されたご夫婦から日本の所得税確定申告に関するご相談

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日本籍の私と中国籍の妻で夫婦ともに現在は日本の居住者です。15年前に私の中国在勤時に、結婚を機に妻名義で中国広東省の中古マンションを購入しました。半額(頭金)は私が拠出し、残りは妻名義でローンを組み二人で弁済しています。不動産関係の手続き書類や不動産権利書のほか建物評価額を記載した資料等も保存しています。私の本邦への帰任を機に、リフォーム工事を施し第三者に賃貸していましたが、海外不動産に係る日本の所得税確定申告書や国外財産調書の提出は行っておりません。他人に貸すと痛みが早いとのことなので、途中から賃貸を中止し売りにも出していない状況が続いています。私が急死した場合に妻は帰国するでしょうし、中国側の戸籍の都合もありますので其の儘にしています。その後子供が生まれ、妻側の親族から中国不動産市況が不透明なので早く売った方が良いとのアドバイスもあり、再度リフォームを実施しこの春売却に漕ぎ着けました。マンションは妻名義になっていますが、中国では結婚後の不動産取得は夫婦の共同共有になるとの民法典の規定がありますので、日本では妻と私の何方が申告すれば良いのか判断が着きません。譲渡所得申告の他にも私から妻への贈与、帰国後の不動産所得の無申告、国外財産諸種の提出漏れなどの懸案事項があるため、この辺りに就きご支援を頂けませんでしょうか。

 

所得税申告ですが、売却時点での不動産権書の所有者名義が奥様であれば、日本での譲渡申告は奥様が出されるべきであろうと考えます。日本への帰国後の賃貸にかかる不動産所得の申告漏れですが、”その更正に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後(課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があったものに係る賦課決定(納付すべき税額を減少させるものを除く。)については3年)は更正をすることができない(通則法70①)”と定められていますので、既に期限を徒過している不動産所得に付いては申告不要です。期限を徒過していないものに就いては期限後申告書を提出する必要があります。
贈与税に就いては、中国では贈与税に相当する税制がありません。日本の贈与税ですが、頭金及び帰国前の住宅ローン返済に係る夫の負担分に就いては、贈与税10年以内に夫が日本に住所を有していたとしても妻は非居住制限納税義務者となりますので国外財産の贈与に就いては課税の対象外です。帰国後のローン返済負担分に就いては、状況に応じて日本の贈与税が課せられる場合(更正の期間制限6年以内の部分のみ)があります。
最後に国外財産調書の不提出ですが、期限内(翌年6月末)に提出がなく、且つその国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れがある場合は過少申告加算税等が5パーセント加重されます。但し提出期限後に国外財産調書を提出した場合でも、その国外財産に関する所得税等又は相続税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでなければ提出期限内に提出されたものと見做され、過少申告加算税等の特例適用になりますので速やかな提出をお勧めします。

日本での譲渡所得の納税義務者が誰になるかですが、2021年から施行された中国民法典第五編第三章の関連規定を斟酌する必要があろうかと思います。
第1062条 夫婦の共有財産
 夫婦が婚姻関係存続期間に得た賃金・労務報酬・生産・投資収益・相続又は受贈に拠り得た財産(第1063第三号を除く)・その他一定の共同所有に帰すべき財産は、夫婦の共有財産として夫婦の共同所有に帰する
第1063条 夫婦の個人財産 
 一方の婚姻前の財産・遺言又は贈与契約中に一方にのみ帰すると確約された財産・その他一方に帰すべき財産は、夫婦の一方の個人財産とする
第1064条 夫婦の共同債務
 夫婦双方が共同で署名すること又は夫婦の一方が事後追認など共同の意思表示をすることによって負った債務、夫婦の一方が婚姻関係存続期間に個人の名義で家庭の日常生活の必要の為に負った債務は、夫婦の共同債務に属する
第1065条 夫婦財産約定制
 男女双方は、婚姻関係存続期間に得た財産及び婚姻前の財産を各自の所有・共有又は一部各自の所有・一部共同所有とすることを約定することが出来る。約定が無いか又は約定が不明確な場合は、第1062条、第1063条の規定を適用する
第1087条 離婚時の夫婦の共同財産の処理
 離婚の際、夫婦の共同財産は、双方が協議して処理する。協議が整わない場合は、人民法院が財産の具体的状況に応じて、子・女の側・又は過失の無い側を配慮する原則に基づいて判決する
因みに、持分共有では共有者間の持分割合が定められるが、共同共有では持分が定められていないものがあり、その場合は自動的に不動産の半分の権利を持つと言うのが通説でした。これに関して2023年に、①結婚前に夫婦の何れかが全額支払いをして所有者名義を購入者単独とする場合、離婚の際には結婚前の財産と見做される ②結婚後に夫婦の共同共有財産として共有名義に変更した場合、夫婦の共有財産にはなるものの財産分与の割合は必ずしも2分の1とは限らないとの判例が出ています。
本事案は取得から売却まで変わらず奥様の単独所有名義で有ったとのご説明です。夫婦財産約定制の規定により、共同共有とすることもできましたがその様な事実はありませんでした。従って日本での譲渡所得の納税義務者は、中国での個人所得税と同様に奥様になります。
資金の拠出者と所有者名義が異なることに起因して日本では贈与の問題が生じます。日本への帰国前の資金拠出ですが、受贈者たる奥様が非居住制限納税義務者に該当するため、中国にある不動産に関連する贈与は課税の対象外になります。帰国後の住宅ローン返済に係る負担分ですが、贈与者・受贈者とも居住者なので贈与税の課税が生じることがあり得ます。日中間の贈与税に就いての建付が全く異なるため、課税当局が彼我制度間の相違をどう判断するのか知りたい処です。因みに弊稿(アメリカに在る合有財産権(ジョイント テナンシー)として登記した不動産を賃貸されている方から所得税確定申告のご相談)でも触れていますが、現地での法制に基づく任意での国外不動産の所有権移転に就ては日本で贈与税の課税対象となるとの考え方があります。これを悪用すれば夫婦間の無償財産移転を容認する結果となりますので分らぬでもありませんが。

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