非居住者が日本で納税申告書の提出及びそれに係る納付又は還付金の受領、若しくは申請・請求・届出を行うためには、納税管理人の選任が必要です。ところがクロスボーダー取引が活発化する中で、こうした手続きを取らずに申告及び納付義務を履行しない非居住者が少なくありません。このため税務当局は令和3年度の税制改正で、納税管理人の届出がない場合は特定納税管理人を指定する制度を設けました。今回は改正内容と併せ、納税管理人の業務範囲・納税管理人の権限と義務・具体的な人選基準・リスクその他に就いてご説明することに致します。
1.令和3年税制改正-特定納税管理人の指定制度
①納税管理人の届出をすべきとの求め
納税管理人の届出をすべき納税者がこれをしなかったとき、所轄税務署長はその納税者(特定納税者)に特定事項を明示して、指定日までに届出をするよう求めることが出来ます。
②国内便宜者に対する納税管理人となることの求め
所轄税務署長は、①の特定事項の処理に便宜を有する居住者(国内便宜者)に、その納税者の納税管理人となることを求めることが出来ます。
③税務当局による特定納税管理人の指定
所轄税務署長は、②の国内便宜者の中から、特定納税管理人を指定することができます。
納税者が個人の場合は次に定める者が指定されます。
イ.特定納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で成人に達した者
ロ.特定納税者と国税に関する契約により密接な関係を有する者(税理士・公認会計士)
2.納税管理人制度の概要
ⅰ)納税管理人の届出が必要となる具体的なケース
・非居住者が国内に所有する不動産の貸付や譲渡を行った場合の所得税申告
・非居住者が日本に所有する株式等の譲渡を行った場合は、短期滞在中の株式等の譲渡や特定の不動産関連法人株式等の譲渡その他一定のものを除き、国内源泉所得には該当しないため課税対象外です
・非居住者が相続や贈与により国内に在る資産や一定の海外資産を取得した場合の相続税・贈与税申告
・非居住者がその年1月1日現在で国内に所有する不動産に係る固定資産税・都市計画税
・非居住者がその年1月1日現在で国内に居住していた場合の前年所得に係る住民税
ⅱ)納税管理人届出書
国税については税目ごとに納税地の所轄税務署長あてに「納税管理人届出書」を提出します。地方税については1月1日時点の住所地を管轄する都道府県税事務所又は市区町村税務課あてに「納税管理人申告書」を提出します。
ⅲ)納税管理人の事務範囲と人選基準
申告・申請・請求・届出その他の書類の作成及び提出が主要な事務になります。そのほか税務署長が発する書類の受領や、税金の納付又は還付金の受領も行います。人選ですが上記1③に該当する者が就任するのが一般的です。
非居住者については居住地国での申告が必要ですので、必然的に二重課税が生じます。これを排除するには居住地国での外国税額控除の適用が不可欠ですが、これに必要な納税証明証(英文表記)の取付が納税管理人の重要業務になります。
ⅳ)税務調査や連帯納付に係る納税管理人の責任及びリスク
納税管理人は税務署からの質問や書類の提出要求に対応する義務があります。この場合に税理士法に抵触する可能性がありますので、税理士以外の者が就任する場合は充分に注意が必要です。税理士が受任する場合でも、相応の信頼関係がなければトラブルの原因になります。>納税義務者が支払を履行しない場合ですが、納税管理人には連帯納付義務がありません。
3.令和5年10月から開始のインボイス制度との関連
国内に住所等がない個人や国内にP/Eがない外国法人であっても、その課税期間の基準期間に於ける課税売上高が1千万円を超える場合は消費税の納税義務者になります。この場合には「消費税課税事業者届出書」と共に、消費税関連事務を行うための「消費税納税管理人届出書」を提出する必要があります。
一方令和5年10月1日からインボイス制度が開始されます、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れに就いては、段階的に仕入税額控除が受けられなくなります。これを回避するためには適格請求書発行事業者の登録申請を行わなければなりませんが、登録時に納税管理人を定めていない場合は登録が拒否されます(新消法57の2)。納税管理人届出を失念すると取引から除外されることに繋がりかねませんので注意が必要です。
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