本節税スキームを利用するためには、幾つか理解して置かねばならないことがあります。
1.どの様なケースに利用すれば良いか?
①第一次発生後の配偶者の住居確保と生活資金を優先して考えたい
②相続財産の大半を実家の不動産が占めている
③第一次相続と第二次相続を通じて相続税の負担を出来るだけ少なくしたい
2.配偶者居住権の取得には、遺産分割に関する一定の手続きと不動産登記が必要になる
①取得だが、特別の事情がない限り被相続人の遺言書により配偶者に遺贈するケースと共同相続人が遺産分割協議書で合意分割するケースの2つが考えられる
②配偶者居住権は登記しないと第三者に対抗できない。従って登記を失念したまま所有権者が第三者に売却すると配偶者は想定外の立ち退きを迫られることになりかねない
③登記に係る司法書士報酬のほか配偶者居住権に関する税務申告に要する税理士報酬が必要になる
3.配偶者居住権付き所有権の売却は可能か?
配偶者居住権者が自宅不動産を処分・売却することはできません。所有権者は配偶者居住権者の同意なしに売却することが出来ますが、制約付きの不動産を売却することは現実には難しいと思われます。配偶者居住権を消滅させ負担のない一般所有権として売却することが考えられますが、この為には配偶者居住権者に相当の対価を支払い合意のうえ消滅させることが必要になります。
4.配偶者居住権は如何なる場合に消滅するか?
①配偶者居住権は配偶者の死亡又は期間の満了と共に自動消滅する。制度は通常これを前提に考えられている。配偶者居住権と敷地利用権に相当する権利は所有権者に移転するが、これに伴う相続税や所得税の課税関係は生じない。
②このほか、建物の全部が滅失等により使用就役することが出来なくなった場合・用法違反に基づき建物所有者が配偶者居住権の消滅請求をした場合・配偶者が配偶者居住権を放棄した場合・配偶者と建物所有者が合意解除した場合が配偶者居住権の消滅事由に該当する。滅失等により建物の全部が使用収益できなくなった場合を除き、贈与税や所得税の課税関係が発生することに留意する必要がある。
5.配偶者居住権に係る敷地利用権、配偶者居住権付き敷地所有権について居住用小規模宅地等の特例の適用が認められるか?
敷地利用権及び配偶者居住権付き所有権は夫々独立した土地に関する権利ですから、配偶者と所有権者ごとに特例適用要件を判定します。設例のケースでは配偶者の敷地利用権は適用対象、長女の配偶者居住権付き所有権は適用対象外になります。
6.応用問題:第二次相続発生後に相談者が実家の不動産を売却した場合に、自動消滅により取得した配偶者居住権等に係る財産の譲渡所得課税はどうなる?
配偶者居住権と敷地利用権の自動消滅に伴う権利移転に就いては相続税や所得税の課税対象外となることから、第二次相続発生後に所有権者が売却した場合も課税対象外と考えていました。然しこれは間違いの様です。建物及び敷地全体に譲渡所得課税が行われ、取得費は父の取得費を引き継ぐことになると考えます。(筆者私見)
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