京都市左京区浄土寺 白沙村荘ほか 

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初冬の京都・奈良を訪れた。今年は暑い日が続いた所為か紅葉の見頃が半月ほど後ろにずれた様だ。ここ数年、紅葉とは名ばかりの褐色がかった殺風景な景観ばかり眼にした。だが今年のそれは全く違う。正に真紅と言うべき錦秋が、手入れの行き届いた庭園のみならず街中の其処彼処に見られる。
京都・奈良の名所旧跡も粗方行き尽くした感が有る。今回は古都通を自負する嫁さんの発案で、未だ訪れたことのない神社仏閣を中心に探訪ルートを設定した。全て取り上げる訳には行かぬが、印象深くまた訪れたいと、夫婦意見が合致したものを2-3選んでご紹介したい。
先ずは左京区浄土寺にある白沙村荘だ。日本画家の橋本関雪が大正から昭和の30年余を掛けて造営した池泉回遊式庭園で、3つの池を囲む形で画室・茶室・仏堂・東屋が並ぶ。庭園内には平安時代から桃山時代に作られた石塔・石灯籠・石仏の逸品が巧みに配置されている。敷地南端の渉月池の畔には、茅葺屋根の四阿(アズマヤ)如舫亭が建つ。如舫とは「もやい船」の意味らしいが、四畳半程の和室に寝そべると小舟に乗る心地にて水面を渡る風が実に心地好い。関雪記念ミュージアム2Fのテラスからは邸内竹林と混然一体となった東山36峰が借景で望める。夏に東方の法然院山上にある大文字山に送り火が灯れば嘸かし見応えが有ろう。
関雪の作品には中国の古典や風物を題材にした物が多い。19歳の時に描いた達磨大師像がある。稚気豊かな達磨大師の表情が何とはなく愛嬌を感じさせる。達磨大師の絵としては白隠禅師のそれが有名だが、禅画特有の精神性が問われる難解な作品ではないので気軽に鑑賞できる。
奈良県桜井市郊外の急峻な山中に多武峰談山神社が在る。飛鳥京の東方に位置し、寧ろ距離的には此方の方が近いかも知れない。蘇我の入鹿の専横を心良しとしない中大兄皇子と中臣鎌足が、人目を憚り多武峰の山中で誅殺の謀議を図った史実で知られる。大化の改新を契機に永きに渡る藤原氏の栄華へと繋がる、中世史に多大の影響を及ぼした場所だ。楓や桜の名所としても有名で、荘厳な社殿や十三重の塔は見応えがある。
奈良県橿原は最古の正史日本書紀で日本建国の地とされる場所だ。橿原神宮は畝傍山東南麓の橿原宮創建の地に、大和朝廷初代と言われる神武天皇を祭神として、明治23年に京都御所賢所他を移築して創建された神社で比較的に歴史は新しい。戦時色が濃い昭和15年に紀元2600年奉祝事業が営まれるなど国家神道的色彩が強い宗教組織であった点が引っ掛かるが、荘厳な社殿や広大な池は一見の価値がある。経済的な事情で全国の神社数が減少していると言われて久しい。手入れが行き届いた古社の境内には心の安寧を求めることが出来る場所が多い。政治向きのことは兎も角として文化遺産として大事にしたいと思う。境内入り口に建つ崇敬会館は垢抜けした現代建築で、施設内のCafé橿乃杜(かしの森)で頂いたbeef curryは絶品であった。閑静な歴史的佇まいを感じさせる街で是非再訪したい地である。

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