2018年の新会計基準導入とそれに伴う法人税改正 中小法人が抑えるべきポイントは?

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我が国では企業会計原則に、「売上高は実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限り計上する」と定められているのみで、収益認識に関する包括的な基準が存在しません。一方IASBやFASB等海外の会計基準審議会は共同で収益認識基準を開発し、既にIFRSやTopicとして公表・適用を開始しています。これを受け企業会計基準委員会(ASBJ)は、我が国企業財務諸表の国際間比較を可能ならしめるため、平成30年3月にIFRS第15号の内容を取り入れた「収益認識に関する会計基準」を公表し、平成33年4月以降開始事業年度から本格適用することにしました。以下その概要と関連する法人税の改正点を、中小法人の実務に立脚して解説致します。

1.新会計基準の導入
(1)適用範囲
①顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示について適用されます。
②重要性が乏しい取引には適用しないことが出来ます。
③金融商品取引やリース取引など一定の取引については適用範囲から除外されています。
中小企業については、会社法に定める一般に公正妥当と認められる会計慣行として「中小企業の会計に関する指針」に従うことが認められていますので、今回の新会計基準は適用されません
なお中小企業とは、以下に該当する会社以外の会社を言います。
ⅰ)金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社
ⅱ)会計監査人を設置する会社(大会社以外で任意で会計監査人を設置する会社を含む)及びその子会社
(2)新会計基準の概要
①収益認識会計基準においては、約束した財またはサービスの顧客への移転につき、交換に権利を得る対価の額で描写する様に認識することを基本原則としており、契約に基づく履行義務の対価を収益として認識するとの考え方を採用しています。
②具体的には次の5ステップに従い収益を認識します。
契約の識別⇒履行義務の識別⇒取引価格の算定⇒履行義務に取引価格を分配⇒履行義務の充足による収益の認識
③収益認識基準は、IFRS第15号の基本原則を取り入れていますが、我が国で行われてきた実務にも配慮して、代替的な取扱いを追加的に定めています。例えば、契約変更に伴う処理・出荷基準による収益認識・有償支給取引・短期の工事契約やソフトウエア制作等がこれに該当します。
一方、変動対価の収益額修正・金利相当分の区分経理・売上高に基づくロイヤルティ・商品券の発行等に付いては代替的な取扱いが定められていません。

2.対応する法人税の改正
(1)適用範囲と適用時期
後述の法人税法改正で、新たに第22条の2の規定が設けられました。同上第2項の会計処理(収益認識会計基準)を行っていない場合は、第1項の原則処理に戻ることになりますので、中小企業については一部を除き従来の取扱いが変更されません
今回の税制改正は平成30年4月1日以降に終了する事業年度から適用されます。
(2)法人税法の改正内容
第22条第4項で ”一般に公正妥当と認められる会計処理の基準” の前に、”別段の定めがあるものを除き” との語句が挿入されました。これは所得金額の計算に当っては、企業会計基準よりも先ず法人税法の規定が優先されることを明らかにしたものと解されています。
第22条の2が新設されました。第1項で資産の販売等に係る収益の額は、目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の益金の額に算入するとの原則が明らかにされています。第2項では公正妥当と認められる会計処理の基準に従い確定決算で処理されている場合は、第1項の規定に拘らず契約効力が生じる日その他近接日の属する事業年度の益金の額に参入する旨が定められました。第3項で申告調整で益金参入した場合でも、会計上で収益に計上したものと見做されることになりました。これに拠り決算〆後に会計上の計上漏れが判明した場合は、申告調整による対応が可能になります。
第4項で収益の額は、資産の引渡しの時価であり、役務提供から通常得られる対価の額である旨が明記されています。第5項には債権の貸倒れや資産の買戻しの可能性が有る場合でも、それを反映しないグロス金額を第4項の金額とする旨が定められました。このため会計上でこれ等の蓋然性を反映したネット金額により計上した場合は、申告調整が必要になります。
(3)基本通達の改正内容
法第22条の2の新設を受け、具体的な事例に即した基本通達の改正が行われました。今後の法人税実務ではこの理解が不可欠になりますので、幾つか重要項目に絞りご説明します。
①返品調整引当金制度及び長期割賦販売等
経過措置が講じられた上で、返品調整引当金制度及び長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例が廃止されました。
②個別取引についての通達の新設
イ.変動対価
値引き・値増し・割戻し等の事実に拠り契約金額に変動の可能性がある場合、相手方への通知や内部決定その他の要件を満たすときは、引渡し事業年度で引き渡し時の時価を増減額することが出来ます。
ロ.役務の提供に係る収益
役務の提供が一定期間に亙る場合は、履行義務が充足されていく事業年度の益金の額に参入し、一時点で充足されるものは引渡し等の事業年度の益金の額に参入します。
ハ.請負に係る収益
請負に係る収益の額は、原則として引き渡し事業年度の益金の額に参入するものとし、その履行義務が一定の期間に亙り充足されるものは進捗度に応じて益金に参入することが出来ます。
ニ.返金不要の支払の受領
取引開始に当り中途解約の如何に拘らず返金不要の支払を受ける場合は、原則として取引開始事業年度の益金の額に参入しますが、特定期間の役務提供との対応関係が認められるときは特定期間の経過に応じて益金に参入することが出来ます。
ホ.ポイントの付与
一定の要件を満たす自己ポイント等を発行する場合、継続適用を条件として将来の取引に係る収入の前受として処理することが出来ます。

 
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