具体的にどの様な不都合があるのか簡単に整理してみましょう。まず不動産所得に付いてです。個人が国外に所有する中古建物から生じる不動産所得の損失の額があるときは、国外中古建物の償却費に相当する一定の損失が生じなかったものと見做されます。加えて不動産所得の損失がある場合には、必要経費に算入した金額のうち不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地等を取得するために要した借入金利子に相当する部分の金額が生じなかったものとみなされ不動産所得以外の所得の金額との損益通算をすることができません(租税特別措置法41条の4)。踏んだり蹴ったりで節税どころの話ではありません。国外中古建物の減価償却が終わっていない方の場合の不都合はこうですが、逆に減価償却が終わった方については想定外の不動産所得が発生します。償却が終わっていようが無かろうが、不都合であることに変わりはないのです。海外の不動産市況や為替動向を見ながら早期に売却のご検討をすることをお勧めします。長期譲渡所得税率が適用される保有期間5年超をクリアしなければならないことは言うまでもありません。
本事案の税務に関する検討で重要なのが、日米通算で税負担を如何に少なく済ませるかです。尤もこれは難題です。日米間の税制相違(加えて米国は州により税制が異なる)が大きく、また納税者に条件差異があるため一律の対応が難しいからです。卑近な話ですが、金額が張るだけに税理士としても職業賠償責任リスクを考えると些か躊躇します。ましてや安直に税務相談に応じることなどあり得ません。以上の理由で、今回は日米の不動産譲渡に関する汎用的な税制の説明に止めさせて頂きます。
土地、建物等にかかる日本の分離課税の仕組みは皆さん良くご存じですので此処では説明を省きます。敢えて付言するならば措置法41の4」の3に拠り、国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の一定額で損失が生じなかったものと見做された金額については、譲渡所得の計算上で取得費から控除する償却費相当額に含まれないこととされています。
次に米国側での課税の仕組みです。米国非居住者の不動産の売却損益は事業余であるか否かを問わず全てUSIEC所得(米国ビジネスに関連する所得)に区分されます。例えばハワイの賃貸不動産の売却益がこれに該当します。非居住者はFORM1040NRで申告し(F4797を添付)、米国居住者と同様に累進税率が適用されます。申告に拠り源泉徴収との差額が生じた場合は、納税又は還付を受けることになります。譲渡損益は保有期間に応じて短期(1年以内)と長期(1年超)に区分されますが、事業用長期資産の譲渡については過去の減価償却費の取り戻し(Depreciation Recapture)が行われます。譲渡益と譲渡損があった場合は損益通算が行われますが、長期事業用資産の譲渡益が譲渡損を超える場合は長期キャピタルゲインとして取り扱われ、区分に応じて0%/15%/20%の税率が適用されます。
日米の税負担の何れが重いかですが、売却益にも拠るものの一般的には米国での課税が重いと思います。但し本件の場合は日本での減価償却が進んでいるため日本の課税が重いことも十分考えられます。何れにせよ日米の二重課税が発生した場合は、日本の所得税申告で外国税額控除の適用申請を行うことが肝要です。
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