日本国籍でオーストラリア永住権をお持ちの方が、日本帰国後に現地の所有不動産を売却した場合の所得税課税に就いてのご相談

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2005年に結婚を機にオーストラリアに移住して、2018年11月迄現地に住んでいました。国籍は日本ですが、2022年10末まで有効な永住権を保有しています。諸般の事情で2018年11月に一時帰国し、その後は医療従事者として職を得て、日本で居住しています。帰国のタイミングに合わせ現地に所有する自宅不動産を売却に出し、2019年3月に引渡及び代金決済を完了しました。この間、2016年5月から2018年11月迄は賃貸しており、これに係る現地での申告・納税は適正に行っています。この売却代金を2022年4月に日本へ取寄せた処、「国外送金に関するお尋ね」と題する書類が送付されてきて、税務署から納税者となる可能性があるとのことで書類提出や説明を求められています。現地CPAからはオーストラリアのcapital gain taxは非課税となる旨の説明を受けていたのに、何故日本で課税されるのか理解出来ません。若し課税が避けられないのであれば、極力節税できる形で早期に決着したいと思います。遠隔地で恐縮ですがご依頼出来ませんでしょうか。

 

一時帰国であったとのご説明ですが、帰国に合わせて不動産を売りに出されていること、帰国以降今日まで継続して日本に居住され且つ医療従事者として勤務されていることから、非居住者であった(=拠って日本での課税なし)との主張は難しいと思います。オーストラリアで課税されないものが何故日本で課税されるのかとのお話は、心情的に分からぬでもありませんが税の専門家としては同意できません。全く別次元の話で、そもそも一国の課税裁量権が、他国の税制に左右されることが有ってはならないからです。
一つ、節税の可能性があるlogicを思い付きました。租税特別措置法35条に定める3千万円控除が受けられないかと言うことです。制度の詳細は国税庁のHPで「居住用財産を譲渡した場合の特別控除」をご覧下さい。確か小職の記憶では居住用家屋が海外に在る場合にも適用があったと思います。居住用家屋を居住の用に供さなくなった日以降、3年を経過する日の属する年の12月31日までに親族その他の特殊関係者以外に譲渡した場合に、譲渡所得の金額から3千万円を限度に特別控除をする制度です。この期間中に賃貸していたとしても要件には抵触しないと思いますので、challengeする価値があろうかと思います。お申し越しのサポート依頼はお引受けします。

1.日本の居住者となるのかオーストラリアの居住者となるのか?双方居住者となる場合はどの様な取扱いになるのか?
①日本の所得税法の規定
・居住者とは、国内に住所を有し又は現在まで引き続き1年以上居所を有する個人で非永住者以外の者と、居住者のうち日本国籍を有せず且つ過去10年以内に日本に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下の個人を言います。
②日豪租税条約の規定
・日本の居住者とは、日本の法令の下で住所・居所・事務所の所在地その他の基準に拠り日本で課税を受けるべき者を言います。
・オーストラリアの居住者とは、オーストラリアの租税に関しオーストラリアの居住者とされる者を言います。
・日本とオーストラリア双方の居住者に該当する個人に就いては、使用する恒久的住居が所在する国の居住者と見做します。双方に所有する場合又は所有しない場合は、人的及び経済的関係がより密接な国の居住者と見做します。重要な利害関係国が決定できない場合は当該個人が国民である国の居住者と見做します。双方の国民である場合又は国民でない場合は、両締約国が合意に拠り解決します。
③国内法と租税条約の規定が異なる場合
日本では憲法第98条②の規定により、国内法よりも国際間で締結した条約が優先適用されると一般的に解されています。ところが例えばアメリカでは、憲法第6条に拠り国内法と国際間の条約は同位で有ることから何れか後方になるものが他に対して優先適用になります。従って何れか後に制定された規定が適用される場合が有るため注意が必要です。
2.不動産の譲渡に関する日豪租税条約の規定
一方の締約国の居住者が条約第6条に定める不動産であって他方の締約国内に存在するもの譲渡に因って取得する所得等に対しては、当該他方の締約国に置いて租税を課することが出来る旨定められています。従ってご相談者のケースは日本のほか、オーストラリアでも課税することが出来ます。この結果二重課税が生じた場合は、条約第25条に拠り当該所得について納付されるオーストラリアの租税の額を日本国の租税の額から控除します。ただし、控除の額は、日本国の租税の額のうち当該所得に対応する部分を超えないものとします。
3.居住用家屋の譲渡に係る軽免税措置
①日本の優遇措置
本件に適用が考えられる優遇措置としては「措置法第35条の居住用財産を譲渡した場合の3千万円の特別控除の特例」と「措置法第31条の3の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の適用」があります。何れも以前に住んでいた家屋や敷地の譲渡の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが必要です。前者は居住用財産が日本国内に在るものに限られませんので、その他の要件を充たす限り3千万円控除の適用が受けられます。後者は国内に在るものに限られますので適用がありません。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が求められていますが、この間に賃貸した場合も適用除外にはなりません。但し、適用を受けることだけを目的に入居したと認められる場合や別荘等として使用した場合は適用除外になります。
②オーストラリアの優遇措置
多くの国で居住用財産を譲渡した場合の税負担軽減措置を設けていますが、オーストラリアでも一定のcapital gain tax(CGT)について居住用控除制度(MRE)が設けられています。ところが本事案で注意を要するのは、2019年12月の改正でCGTイベント時点(主な住居であった住宅を売却する契約を締結したときを言う)において、税務上の非居住者である納税者に対してはMREの不適用措置が講じられたことです。
これに関連して2018年8月に、豪州のCPAから相談者に送られたメールの抜粋をご紹介します。
・原則としてMREは主たる住居について適用され、転出後に賃貸していた場合でも賃貸期間が6年未満であれば認められる
・税制改正が行われ、2017年5月17日以前に取得した住居に就いては、居住者であると非居住者であるとを問わず2019年6月30日までに売却すればMREが適用されるとの経過措置が取られる
・契約日ベースで2019年6月30日を超えると、居住者のみにMREが適用され、非居住者には適用されなくなる
・因みに相談者はオーストラリアからの転出を考えて居られるが、MREの適用を受ける為には以下の3つの選択肢が考えられる
 ⅰ)非居住者になるとならざるとに拘わらず2019年6月30日より前に資産を売却すること
 ⅱ)売却日は何時でも良いので貴方が非居住者になる前に資産を売却すること
 ⅲ)転出後に豪州に帰り再び居住者となってから居住の用に供した後で資産を売却すること

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