遺留分制度に関する民法(相続法)の重要改正点

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遺留分制度とは、生前贈与や遺言により被相続人から特定の者だけに不均衡に財産が贈られた場合、兄弟姉妹以外の相続人に認められる最低限の財産の取り分(遺留分)の取戻しを認める制度です。遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間行使しなければ時効に拠り消滅します。相続開始から10年を経過した場合も同様です(民法第1048条)。従って遺留分の権利行使を行うためにはタイムリーな手続きを執ることが必要になります。具体的手順ですが、一般には内容証明郵便で請求します。相手方が応じない場合は、家庭裁判所に調停の申立てを行います。
因みに相続財産の分割に当り特定の贈与財産を分割協議の対象から外すため、遺言で特別受益額の持ち戻し免除の意志表示を行うことがあります。然しながら遺留分については制度の主旨から、持ち戻し免除の意思表示の効果が及びませんので御留意下さい。
今回の民法改正では、(1)遺留分減殺請求権(改正後は遺留分侵害額請求権)の金銭債権化及び支払い期限の許与(2)遺留分の算定方法(3)遺留分侵害額の算定に於ける債務の取扱い その他に関する大幅な見直しが行われました。以下簡単にご説明します。

1.遺留分減殺請求権の金銭債権化及び支払期限の許与
遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対して侵害額に相当する金銭の支払いを要求することができる。つまり遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することになった。この変更に伴い、金銭の支払いに代えて相続財産である不動産等の分与が行われた場合は、代物弁済として譲渡所得の課税対象になることが所得税通達で明らかにされた。
これに関連して遺留分権利者が代物弁済で取得した宅地等について、小規模宅地等の特例を適用することが出来るかどうかが問題になる。これに就いては国税庁質疑応答事例で、相続又は遺贈により取得したものではないので認められないとの見解が出されている。一方被請求者側だが、遺言通りに宅地等を取得したものとして特例を適用して問題ない。但し申告期限前に代物弁済を行うと特例適用要件を充たさなくなる場合があるので注意が必要だ。
(注)平成元年7月1日前に開始した相続に就いては、遺留分減殺請求により取得した宅地等に就いての特例適用が認められていた。
②請求を受けた時点で被請求者に十分な資力がない場合、裁判所は受遺者または受贈者の請求に基づき負担支払いにつき相当の期限を許与することができる。
③金銭債権化された遺留分は期限の定めのない債務であり遺留分権利者により金額を特定して請求された場合は、当該請求の日の翌日から履行遅滞となり遅延損害金(5%⇒令和2年4月から3%)や利息が発生する。裁判所により期限が定められた場合は、この期限まで遅延損害金が発生しない。

2.減殺請求権の現金化に伴う対応策
同居する長男に主たる相続財産である自宅を遺贈した場合に、他の兄弟から遺留分の減殺請求が起こされると多額の金銭支払が必要になるため苦慮することが多い。この様な場合に備えて生命保険金の活用をお薦めしたい。生命保険金はみなし相続財産として、相続人が受取人となるものは500万円X法定相続人数迄の金額が非課税になる。また民法上の相続財産に該当しないため、遺産分割協議や遺留分減殺請求の対象外となる利点も大きい。

3.遺留分の算定方法に関する見直し
相続人に対する贈与は、相続開始前10年間になされたものに限り、遺留分を算定する為の財産の価額に算入する。相続人以外の者に対する贈与は、相続開始前1年間にされたものに限る。但し、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、これより前になされた贈与であっても財産の価額に算入する(民法第1044条)。
②遺産分割の対象財産が有る場合には、遺留分から第900条から904条までの規定に拠り算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額を控除する。但しこの場合に寄与分による修正は考慮しない。

4.遺留分侵害額の算定に於ける債務の取扱いに関する見直し
①遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者が、遺留分権利者が承継する相続債務について弁済等を行った場合は、その金額内に於いて負担額を消滅させることができる。つまり遺留分侵害額の支払いに代えて、遺留分権利者の相続債務を負担することが出来るとの主旨である。

5.遺留分侵害請求により金銭を取得した場合の相続税申告の要否
慰留分侵害額請求により金銭支払い額が確定した場合の、当該支払者と受取人の相続税申告は次の通りである。
①支払者
期限内申告等に係る相続税額が過大になったときは、遺留分減殺請求の支払額が確定した日の翌日から4ヶ月以内に限り、その課税価格及び相続税額につき更正の請求をすることが出来る。但しこれは義務ではなく任意なので、諸般の事情に因り更正の請求をしないことも考えられる。
②受取者
慰留分減殺請求に係る金銭受取り額の確定に伴い新たに期限内申告書の提出要件に該当したときは、期限内申告書を提出することが出来る。これは義務ではなく任意である。一方の支払者が更正の請求を行ったにも拘わらず、受取者が期限内申告書を提出しない場合は、所轄税務署長が課税価格又は相続税額の決定を行うことになる。但し更正の請求があった日から1年を経過した日、又は申告書の提出期限から5年を経過した日の何れか遅い日以降は決定をすることが出来ない。

 
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