複数の法定相続人がいて、主たる相続財産が長男等が同居する居住用不動産の場合に必ず生じる問題です。誠に厄介ですが、相続税の支払いがあるため確定申告期限までには遺産分割の決着を付けねばなりません。これが出来ない場合は、共同相続人が法定相続分に応じて相続税を(仮)納付することになりますが、未分割の場合は小規模宅地等の特例が受けられないため相続税が多額になります。共同相続人の中に相続税が納められない方が居られる場合は、連帯納付義務があるため他の相続人が立替納付をしなければなりません。そうなると益々話がややこしくなります。
1.遺言書
2人以上の証人の立会いと費用が必要ですが、被相続人の意思が正確に反映される点で公正証書遺言の方が勝っています。自筆証書遺言を選択する場合は、被相続人に遺言書作成の意思があること、内容が被相続人の希望に合致していること、様式が法定要件を満たしていることが必須です。これ等に関して無理強いをしてはいけません。遺言の有効性を疑われることにも成り兼ねません。遺言書は被相続人が全文(財産目録を除く)を自書し、加除その他の変更がある場合には該当個所に署名押印をしなければならないため、存外に高齢者の負担になることがあります。
2.遺留分
兄弟姉妹以外の相続人には遺留分権があります。総対的遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は被相続人の財産の3分の1、その他の場合は2分の1です。遺留分が侵害された場合の減殺請求権ですが、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った日から1年間行使しないとき、又は相続開始の時から10年を経過した時に消滅します。減殺請求の方法は、口頭・手紙・Eメールなどの手段で相手方に意思表示をすれば足り、多くの場合に内容証明郵便が用いられます。協議が纏まらない場合は、調停⇒訴訟の順序で法的手続きに移行します。
重要なのは、平成30年の民法改正で遺留分減殺請求権の金銭債権化が行われたことです。金銭の支払いに代えて相続財産である不動産等の分与が行われた場合は、代物弁済として譲渡所得の課税対象になるため注意が必要です。
3.小規模宅地等に係る課税価額の特例適用との兼ね合い
ご長男は、相続財産の過半が自宅兼賃貸マンションの敷地なので小規模宅地の特例適用が必須だが、この場合に適用要件を満たす親族は自分しかいない。また相続割合に就いても、相続税評価額で計算した取得割合が略3分の1になるため、遺留分についての侵害はない筈だとお考えの様です。果たしてそうでしょうか?
当該マンションは被相続人の自宅兼賃貸マンションとして使用されていましたので、凡そ敷地全体の3分の1が特定居住用宅地等(評価減80%)、3分の2が貸付事業用宅地等(同50%)に該当します。特例の適用が受けられる被相続人の親族の要件ですが、特定居住用宅地等についてはご長男だけが同居親族として適用要件を充たしています。ところが貸付事業用宅地等については、全ての相続人が親族としての適用要件を充たします。当該宅地等に係る貸付事業を申告期限までに承継し、且つ申告期限まで貸付事業を継続して当該宅地等を保有すれば良い訳ですから要件を充たすのは至って簡単です。ご長男の、自分が不動産持分の全てを相続することが相続税対策に適うとの主張には合理性がありません。また相続税評価額ベースでの取得割合は3分の1となり、法定相続割合と同じなので遺留分を侵害していないとの主張は誤りです。遺留分の計算の基礎となるのは、相続財産に特別受益額(遺贈財産+生前贈与財産)を加えたものですが、何れも相続時の時価で計算することになっています。
4.実際の対応
制度上の留意点は上記の通りですが、実際の対応を如何すれば良いでしょうか。ご長男の希望とお母様のご意向が一致しているのであれば、自筆証書遺言書を作成しその通り進めるのが宜しいかと思います。甥姪から遺留分の減殺請求が起こされるかどうかは分かりませんが、仮に起こされたとしても16百万円(4億円X1/3X1/2-1億円X1/2=16百万円)程度には収まると思います。
*質問や相談をご希望の方は、ホームの「ご質問/お問い合せ」をご利用下さい。ビデオ通話での打合せも可能です。
*申告その他の実務をご希望の方は、ホームの「料金のご案内」をご参照下さいます様お願い申し上げます。