非上場株式の評価に配当還元方式を用いる際の株式保有割合の判定者と時期が相続税と所得税では異なります

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相続や贈与により取得する取引相場のない株式(非上場株式)の評価方法は、株式保有割合と評価対象会社の規模等に応じて、原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式)または特例方式(配当還元方式)の何れに拠るかが財産評価通達で決められています。このうち配当還元方式は一定の少数株主だけに適用される簡易な評価方法で、株式の実質価値に関わりなく次の計算式で評価額を算出します。若しこの金額が原則的評価方式による金額を超えた場合は後者が評価額になります。

(直前2年間の年平均配当額÷0.1)×(1株当たり資本金等の額÷50円)=評価額 
(注)無配の場合は年平均配当額を2円50銭で計算する

直前の2年間は配当をしなければ会社の内部留保等に拘わらず額面の2分の1が評価額になりますので、中小法人の同族株主が節税対策として用いることがあります。ところで株式保有割合は、被相続人(贈与者)或いは相続人(受贈者)の何れが、何時保有する株式の議決権割合に依り判定すれば良いのでしょうか。
24.9%の非上場株式を保有する祖父が4.9%の株式を孫に生前贈与するケースを考えて見ます。発行会社の株主に中心的な同族株主に該当する者はいません。原則的評価方式で計算した1株当り評価額は6000円(額面は500円)と仮定します。贈与者の贈与前保有割合で判定すれば、原則的評価方式が適用されますので課税価格は6000円になります。一方受贈者の贈与後保有割合で判定すれば、配当還元方式が適用され課税価格は250円に止まります。結論から言えばこの場合は後者になります。評価通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)で、株式を取得した株主の議決権割合に依り配当還元方式を用いるか否かを判定することになっている為です。
次に当該株主が法人に所有株式を低額で譲渡したケースを考えて見ましょう。所得税法第59条(贈与等の場合の譲渡所得の特例)に、居住者が著しく低い対価で法人に資産の譲渡を行った場合は、時価で資産の譲渡があったものと見做して譲渡所得の金額を計算する旨が定められています。譲渡資産が株式であった場合に著しく低い対価で資産の譲渡を行ったか否かの時価に関しては、所基通59-6で”「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」は原則として「財産評価基本通達」の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする”と定めています。また財産評価基本通達の関係個所には、「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すると書かれています。そうすると当該株主の見做し譲渡所得課税の計算の基となる時価は、原則的課税方式で算出した6000円と言うことになります。
斯様に相続税や贈与税の課税価格と、所得税の見做し譲渡所得とでは、配当還元方式の適用可否の基となる株式保有割合の判定者と時期が異なるため注意が必要です。
 
*本稿は週間税務通信No.3599に掲載された非上場株式の見做し譲渡課税に係る最高裁判決記事の事実関係を参照しています。
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