上場株式等の譲渡損益や配当に係る確定申告で良く目にする課税方式選択ミスのパターン

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証券税制は複雑です。特に上場株式等については特例措置が多く、また頻繁に改正が行われるため証券会社に訊いても要を得ない場合があります。上場株式配当については、国税と地方税で異なる課税方式が選択できるため一層話がややこしくなります。この場合は所得税・住民税・社会保険料のトータルで有利判定をしなければなりませんが、必要な比較計算が正確にできる方は少ない様です。尤も選択ミスをしても申告そのものは間違いではないので、税務署から何か言われることはありませんが、余分な税負担を余儀なくされます。
ミスの原因には幾つかパターンがあります。紙面の都合がありますので、その概しと具体的事例をご紹介します。

1.上場株式等の譲渡損失には損益通算や繰越控除が出来るものと出来ないものがある
  ①上場株式等の譲渡利益と譲渡損失の通算(措置法37条の10、11)
   その年に売買した上場株式等の譲渡所得は全ての売却益と売却損を集計して求めます。上場株式等の範囲ですが、国内商品取引所で売買されている株式等のほか「外国金融商品市場で売買されている株式等・公募投資信託・国債及び地方債・公募公社債」などが含まれます。従って同一年度内に生じた上場株式等の譲渡損益であれば全て損益通算が出来ます
  ③上場株式等に係る譲渡損失と上場株式等の配当等との損益通算並びに3年間の繰越控除(措置法第37条の12の2)
   上場株式等の一定の取引により生じた譲渡損失のうち、①でその年の譲渡所得の計算上控除しきれなかった金額は、上場株式等の配当等と損益通算をすることができます。この要件として、配当等や利子等の課税方式は申告分離課税を選択しなければなりません。総合課税や源泉分離課税を選択した場合には適用がありません。勘違いしがちですが、特定公社債の利子は上場株式等の配当等に含まれるため、譲渡損失で控除できます
   一定の取引とは金融商品取引法に規定する金融商品取引業者や登録金融機関への上場株式等の売委託その他に限定されています。金取法の登録をしていない国外証券会社を通じての売買や相対取引による譲渡損失は、配当等との損益通算や3年間の繰越控除が出来ません
   この適用を受けるためには、継続して確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)を提出しなければなりません。
  ③特定口座における損益通算
   特定口座(源泉徴収あり)に上場株式等の配当等を受け入れている場合は、自動的に損益通算が行われ、通算後の利益に対して源泉徴収が行われます。
   
2.配偶者が受取る上場株式等の配当等を確定申告すると配偶者(特別)控除が受けられなくなるとの思い込み
  配偶者に確定申告義務(⇒所得税支払いが必要)が生じるのは、所得税の額の合計額が配当控除の額を超える場合です。仮に専業主婦のケースですと、上場株式等配当収入が基礎控除額以下であれば所得税支払いの必要はありません。若し超えたとしても総合課税方式を選択すれば配当控除が適用されるため、所得税支払いの必要がないケースが考えられます。配当等の支払時には必ず源泉徴収されるので、確定申告に拠り税額還付が受けらる可能性があります。
  夫の配偶者(特別)控除との兼ね合いですが、先の改正で夫と妻の合計所得金額に応じて適用が受けられることになりました。この場合に誤解しやすいのが妻の合計所得金額で、配偶者控除の適用は38万円(令和2年以降は48万円)以下と思い込んで居られる方が少なくありません。そうではなく、妻の合計所得金額が85万円(令和2年以降は95万円)以下であれば、配偶者控除と同額の配偶者特別控除が適用されます

3.有利判定のためのシミュレーションが複雑である
  上場株式の配当に係る課税方式は、総合課税・申告分離課税・源泉分離課税(申告不要)の3つから任意に選択できます。申告をするかどうかは、特定口座(源泉徴収有り)毎に、それ以外は1回に支払いを受ける配当毎に選択できます。国税と地方税で異なる課税方式を選択できますが、それには別途市区町村に住民税申告書と課税方式選択届けを提出しなければなりません。当初の申告で選択した課税方式を、修正申告や更正の請求で変更することも出来ません。
  有利比較計算ですが、所得税・住民税(所得割)・社会保険料のトータルで判定する必要があります。この場合過年度からの繰越譲渡損失(1の②ご参照)があると、相当レベルの証券税制知識が要求されます。例えば過年度の繰越譲渡損失を、申告年度の譲渡利益と配当等の何れで控除した方が有利か検証しなければなりません。原則的に譲渡利益との通算が優先されますので、配当等から控除するには譲渡利益は源泉分離課税(申告ナシ)を選択し、配当等は申告分離課税を選択しなければなりません(措置法8条の4、5)。この場合の配当等に係る所得税適用税率は15%になります。これに対し譲渡利益から控除するには、譲渡利益は申告分離課税(申告アリ)を選択し、配当等は総合課税で申告します。そうすれば所得税の限界税率が適用されると共に、配当控除も受けられます。仮に限界税率を20%とすると、配当控除適用後の実効税率は10%になりますので明らかに此方が有利です。この判定に於いては同一納税者であっても、去年と今年では所与の条件が異なると結論が逆転する場合がありますので留意が必要です。
  一方地方税は10%の単一税率が適用されるため、通常は総合課税ではなく源泉分離課税(申告ナシ)の方が有利になります。地方税で源泉分離課税を選択すると、自動的に配当所得が社会保険料の算定基礎額(前年の総所得金額等)から外れますので社会保険料負担も少なくなります
  こう書くと如何にも簡単そうですが、税理士でも手作業で比較計算をするのは大変です。当事務所では税務ソフトと独自開発したエクセル表を利用しますが、手間が掛かる割には報酬に反映できる訳ではありませんので、痛し痒しと言った処です。
  
 
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