ご相談者は某最高学府で教鞭を取って居られた方です。我々凡俗と異なり頭の良い方ですが、高名な評論家からのアドバイスと言うこともあり専門外の分野で少し混乱された様です。
平成28年以降の株式等の譲渡については分離課税方式が採られて居り、上場株式等の譲渡所得等はこれ以外の所得との損益通算が不可(申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得との損益通算は可)、一般株式等の譲渡所得等はこれ以外の所得との損益通算が不可と定められています。
関係条文は租税特別措置法第37条の11(上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)で、第2項に「上場株式等とは、株式等のうち次に掲げるものをいう」と規定されており、外国金融商品市場において売買されている株式等も上場株式等に含まれます。従って売買が海外支店で行われたか日本の支店で行われたかに拘らず、分離課税が適用されます。総合課税云々のアドバイスは間違いです。
次に上場株式等の譲渡損失と上場株式等の配当所得との損益通算ですが、根拠となる措置法第37条の12の2で「上場株式等に係る譲渡損失とは、上場株式等の一定の譲渡をしたことに因り生じた損失のうち・・」と規定されています。この該当要件の一つに金融商品取引業者への売り委託による上場株式等の譲渡がありますが、金融商品取引業者が金融商品取引法に拠り内閣総理大臣の登録を受けた者に限られています。従って海外支店への売り委託で生じた譲渡損失にはこの特例が適用されません。
少し話がややこしくなりましたので設例を使ってご説明しましょう。
Aさんの所得は以下の通りです。
1.日本の支店の口座を通じたものが
①上場株式等の譲渡益(所得税源泉徴収済み)200万円
②上場株式等の利子配当所得(所得税源泉徴収済み)が30万円
2.海外支店の口座を通じたものが
①上場株式等の譲渡損失▲400万円
②上場株式等の利子配当所得(海外所得税源泉徴収済み)60万円
損益通算ですが2①と1①の譲渡損益は通算が認められます。この結果200万円に対する源泉所得税の還付が受けられます。通算後の譲渡損失200万円と1②及び2②の利子配当所得との損益通算は認められません。1①の配当所得は申告不要又は確定申告何れかを選択することになります。2②は所得税が源泉徴収されていないため確定申告が必要ですが、外国税額控除の適用を受けることが出来ます。なお配当を確定申告するかどうかですが、特定口座(源泉徴収あり)に就いては特定口座毎に、それ以外の配当に就いては1回に支払いを受ける配当毎に選択をすることが出来ます。
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