不動産賃貸事業では、税法規定に従い減価償却費を正しく計上しなければなりません。然し乍ら納税者ご自身が作成された申告書を拝見すると、見様見真似で良くこれで通ったものだと驚くことが有ります。
それはさて置き、今回は必要経費の中でも特に税務調査で目を付けられ易い、建物・建物付属設備に係る減価償却費についてポイントを絞って説明します。
1.建物の減価償却費
①耐用年数の決定
建物の耐用年数は、「構造又は用途」と「細目」により決定されます。アパートやマンションの賃貸であれば、該当する「細目」は”住宅用”しか有りませんので、「構造又は用途」のみをチエックすれば良いことになります。
「構造又は用途」は、先ず木造建築と非木造建築に分類します。木造建築のうち、”木造又は合成樹脂造のもの” の耐用年数は22年、”木造モルタル造のもの”は20年です。モルタルとは、セメントに砂を混ぜ水で練ったもので、以前は外壁材として使用されていましたが、強度がなく耐震性に欠けるため現在は殆んど使われていません。建物登記簿を見て、”木造亜鉛メッキ鋼鈑葺き2階建て”と表示があれば、22年を適用することになります。
非木造建築は、レンガ造や石造など特殊建築を除けば、金属造(S)・鉄筋コンクリート造(SR)・鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)の何れかに区分されます。”鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの”の耐用年数は、一律に47年ですから、敢えて両者を区分する必要は有りません。
これに対し”金属造のもの”は、骨格材の肉厚に応じて耐用年数が、34年・27年・19年の3通りに分かれます。不動産登記規則では、金属造に相当する建物の構造は、”鉄骨造”としか表示されませんので、登記簿を見ても税務上の耐用年数を判定することが出来ません。いわゆる軽量鉄骨アパートについては、メーカーの設計書類により柱や梁など骨格材の肉厚を調べる必要があります。この際に、3mm超(以下)乃至4mm超(以下)の骨格材の何れもが使用されている場合は、建物の主要部分の構造を基に判定する(耐用年数通達1-2-1)ことになります。
②取得価額に算入する経費
イ.取得価額に含めなければならないもの
購入代金・建築費用や設計料・仲介手数料・一定の立退き料・住民対策費・起工式や上棟式費用・設置費用・その他の取得に直接要した費用は、取得価額に含めなければなりません。
ロ.必要経費とするか取得価額に含めるかは任意のもの
租税公課(不動産取得税/特別土地保有税/登録免許税/登録費用)・建物の使用開始までの借入金利子・設計変更料・解約違約金などは、取得価額に含めるかどうかが任意です。
ハ.特殊な経費の取扱い
ⅰ)補助金や助成金
補助金等は収入金額とせずに、実際取得価額から控除します
ⅱ)古い建物の取壊し費用
土地と共に購入した古家の購入代金&取壊し費用は土地の取得価額に含めます。自宅などの非業務用建物の資産損失&取壊し費用は、必要経費や取得価額に含めません。
貸家など業務用建物の資産損失&取壊し費用は、必要経費になります。但し、非事業的規模の場合、不動産所得の金額内でしか資産損失を必要経費とすることができません。
ⅲ)固定資産税精算金
固定資産税はその年1月1日現在の所有者に課せられる税金ですので、取得日以降の期間対応分を負担した場合には取得価額に含めることとされています。
2.建物付属設備の減価償却費
建物付属設備とは、建物と一体となって機能を発揮する付属設備をいいます。耐用年数省令では、電気設備(照明設備を含む)・給排水衛生ガス設備・冷暖房通風ボイラー設備・昇降機設備・ほか6設備に分類され、夫々3~20年の耐用年数が定められています。建物と付属設備を外観で見分けるのは難しく、また工事見積書でも厳密に金額を把握し辛いのですが、多くの税務解説書には両者を区分把握する様に書かれています。これには二つの理由があります。
①建物と建物付属設備の減価償却費の一体計算が所得税法上認められない
所得税法上、減価償却費として必要経費に算入される金額は、減価償却資産の種類の区分ごとに、且つ法定耐用年数及び選択した償却方法により計算しなければならないと定められています。従って、種類の区分が異なる建物と建物付属設備を一体として計算することは出来ません。 但し、木造・合成樹脂造・木造モルタル造の建物付属設備については、例外として建物と一括して建物の耐用年数を用いることが認められています。(耐用年数通達2-2-1、木造建物の特例)
②建物付属設備として区分計算した方が一般的に有利である
RC造の賃貸マンションの給排水設備を例にとってみます。建物の耐用年数は47年、給排水設備の耐用年数は15年ですから、言うまでもなく区分計算した方が有利です。ただ給排水設備の取得価額を算出するのが厄介なので、47年で償却計算をして申告したとします。償却限度額以下ですから所得金額の否認はありません。それなら実害はないかと言えばそうでもありません。確かに当初の15年は良いのですが、16~47年については必要経費に算入できる減価償却費がないため、理論的には税務否認も考えられます。(平12.12.28裁決事例参照)
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