アメリカに不動産を所有されている方の日米の確定申告上の留意点

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先日アメリカから国際電話が掛ってきました。都内にお住まいのご夫婦で、アメリカ在住の娘さん宅を訪問中の方からです。要件はご夫婦と娘さんの3人で共有している米国不動産の売却を進めているが、アメリカ以外にも日本で多額の税金が発生するとのことで驚いている。どう対応すれば良いかとの相談です。
事情を伺っていると、このご夫婦は海外不動産の税金には全く無頓着、且つ申告漏れその他でかなり厳しい状況に置かれていることが分りました。帰国後すぐに相談に来られるそうですが、同様に米国不動産をお持ちの方の参考になると思いますので、考えられる問題点を簡単に纏めて見ました。

1.海外不動産の譲渡に係る二重課税
(1)アメリカでの課税
ご夫婦は米国の非居住者(NR)ですので、不動産売却益には連邦税と州税が課せられます。個人が1年超保有していた不動産の譲渡益に係る連邦税については最高20%の優遇税率が適用されます。州税と合せると30%~35%の負担になります。主たる住居の売却益に付いては夫婦合算で50万ドルまでの免税措置が受けられますが、ご夫婦の場合は適用が有りません。
非居住者の不動産売却に就いては、売却時に収入金額(所得金額ではありません)の10%相当の連邦税が源泉徴収(W/H Tax)されます。この他に3~5%相当の州税も源泉徴収されます。これ等の源泉徴収税額ですが、翌年に確定申告をすれば過不足の精算が行われます。通常は還付申告になります。
(2)日本での課税
日本の居住者が米国に所有する不動産を売却して利益が出た場合は、日本でも翌年に譲渡所得(分離課税)の確定申告をしなければなりません。所有期間が5年以内(短期譲渡)の場合の税率は、国税が30.63%・住民税が9%です。所有期間が5年超(長期譲渡)の場合は、国税が15.315%・住民税が5%に軽減されます。居住用不動産の特別控除3千万円は海外不動産にも適用されますが、居住要件を満たしていないため本事案での適用はありません。
海外からの被仕向送金や海外預金口座については、銀行からの法定調書提出や金融口座情報交換制度(CRS)により存外に当局が把握していますので、安易な申告逃れは禁物です。

2.海外不動産の賃貸に係る二重課税
(1)アメリカでの課税
ご相談者は所有期間4年のうち3年間、当該物件を賃貸して居られました。非居住者の不動産賃貸収入には、連邦税と州税が課せられます。源泉徴収方式またはネットレント課税方式の何れかを選択できます。源泉徴収方式は家賃収入から30%相当の源泉徴収を行えば、連邦税が完結しますので確定申告の必要が有りません。課税方式を選択しなければ自動的に源泉徴収方式が適用されます。ネットレント課税方式は家賃収入から固定資産税・支払利子・減価償却費その他の経費を控除した不動産所得を算出、これに10~39.6%の7段階累進税率を乗じた連邦税を納付するやり方です。通常は此方を選択した方が有利ですので、恐らく娘さんもUS CPAを起用して3人分の確定申告を行っているものと推察します。州税には源泉徴収方式がなく、ネットレント課税方式に拠る確定申告が必要です。
(2)日本での課税
日本でも不動産所得(総合課税)の確定申告をしなければなりませんが、ご夫婦の場合これが漏れています。所得税に係る増額更正の期間制限は、確定申告期限から5年です。

3.外国税額控除の適用申請
ご夫婦に日米で二重課税が発生した場合は、日本での確定申告に於いて外国税額控除の適用を受けることが出来ます。但し受ける・受けないは納税者の任意選択ですので、受ける場合ば確定申告書等の明細書に必要事項の記載と一定書類の添付が必要になります。この辺りはやや面倒です。
外国税額控除は外国税の納付債務が確定した日の属する年分での適用が原則ですが、控除限度額との関連で3年間の繰越控除が認められています。外国税額控除の適用を受けた後に、アメリカでの確定申告に拠り源泉徴収税の還付等を受けた場合には、外国税が減額されたときの調整が必要になりますので御留意下さい。

4.アメリカでの共有持分に係る贈与税認定
当該物件はご夫婦と娘さんの共有の由ですが詳細は不明です。もしご主人が全額を資金負担している場合は、贈与税の調査が行われる可能性があります。或る意味、本事案ではこれが最も重要かも知れません。
(1)アメリカでの課税
日本の不動産の共有制度とは異なる概念で、米国の不動産所有形態には、夫婦共有財産制・合有財産権(Joint Tenanncy )・共有財産権(Tenanncy in Commmon)その他があります。州によって取扱いが異なる場合が有りますが、合有財産権については通常贈与税認定が行われません。
(2)日本での課税
夫婦共有財産契約や合有財産権に就いては、夫婦間で財産の無償移転が有ったものとして贈与税若しくは相続税の認定課税が行われる可能性がありますので、極力この議論を避ける様に留意することが必要です。
本件の場合は、共有で不動産を取得したときに夫から妻に対する贈与が有ったものと見做される可能性が有ります。妻のみならず、日本国籍がなく非居住者である娘についても同様(注)です。贈与税に係る増額更正の期間制限は、確定申告期限から6年です。
(注)平成25年度税制改正前は、日本国籍がない非居住者への国外財産の贈与は課税の対象外でした。

5.国外財産調書の未提出
居住者でその年12月31日において5千万円を超える国外財産を所有する者は、翌年3月15日までに必要事項を記載した「国外財産調書」を所轄の税務署長に提出する義務があります。ご夫婦の場合、これが提出漏れになっています。もし国外財産調書に必要な国外財産に関する記載がないと、その国外財産に関連した所得税や相続税等の申告漏れが有った場合には、過少申告加算税等に5%の加重措置が行われます。本事案では、2(海外不動産の賃貸に係る日本での確定申告)と4(アメリカでの共有持分に係る日本での贈与税認定)が該当する可能性があります。

 
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