先日アメリカから国際電話が掛ってきました。都内にお住まいのご夫婦で、現地在住の娘さん宅を訪問中の方からです。要件はご夫婦と娘さんの3人で共有している米国不動産の売却を進めているが、アメリカ以外に日本で多額の税金が発生するとのことで驚いている。どう対応すれば良いかとの相談です。
事情を伺っていると、このご夫婦は海外不動産の税金には全く無頓着、売却益以外に賃貸収入の申告漏れがあることも理解していません。帰国後すぐに相談に来られるそうですが、同様に米国不動産をお持ちの方のご参考迄に問題点を簡単に纏めて見ました。
1.米国不動産の譲渡に係る二重課税
(1)アメリカでの課税
ご夫婦は米国の非居住者外国人(NR Alien)として、キャピタルゲインに対する連邦税と州税の申告納付義務があります。個人が1年超保有していた不動産売却益については、15%乃至20%の連邦税率が適用されます。この他に州税の負担があります。居住用不動産の売却益であれば夫婦合算で50万ドル迄の免税措置が受けられますが、このケースは該当しません。
一方非居住者の不動産売却に就いては、売却時に収入金額の15%相当の連邦税が源泉徴収されます。この他に州税も源泉徴収されることがあります。これ等の源泉徴収税額は翌年の申告で過不足の精算が行われますが、多くの場合は還付になります。
(注)2016年2月16日以前の連邦税の源泉徴収税率は10%でしたが、2月17日以降は15%に引上げられました。但し買主が居住用に取得した100万ドル以下の物件については10%に据え置かれています。30万ドル以下の場合は源泉徴収が行われません。
(2)日本での課税
日本の居住者が米国に所有する不動産を売却して利益が出た場合は、日本でも所得税(分離課税)の確定申告をしなければなりません。所有期間が5年以内(短期譲渡)の場合の税率は、国税が30.63%・住民税が9%です。所有期間が5年超(長期譲渡)の場合は、国税が15.315%・住民税が5%に軽減されます。居住用不動産の特別控除3千万円は海外不動産にも適用されますが、本事案は居住要件を満たしていないため適用がありません。
海外からの被仕向送金や海外預金口座については、銀行からの法定調書提出や金融口座情報交換制度(CRS)により存外に当局が把握していますので、安易な申告逃れは禁物です。
2.米国不動産の賃貸に係る二重課税
(1)アメリカでの課税
ご相談者は所有期間4年のうち3年間、当該物件を賃貸して居られました。非居住者の不動産賃貸収入については、源泉徴収方式またはネットレント課税方式の何れかを選択できます。源泉徴収方式は家賃収入から30%相当の源泉徴収を行うことにより、課税関係が終了します。課税方式を選択しなければ自動的に源泉徴収方式が適用されます。ネットレント課税方式は家賃収入から固定資産税・支払利子・減価償却費その他の経費を控除した不動産所得を算出、これに10~37%の7段階累進税率を乗じた連邦税を納付するやり方です。通常は此方を選択した方が有利になります。多くの州税には源泉徴収方式がなく、ネットレント課税方式に拠る申告が必要です。
(2)日本での課税
日本でも不動産所得(総合課税)の確定申告をしなければなりませんが、ご夫婦の場合これが漏れています。所得税に係る増額更正の期間制限は、確定申告期限から5年です。
3.外国税額控除の適用申請
ご夫婦に日米で二重課税が発生した場合は、日本での確定申告に於いて外国税額控除の適用を受けることが出来ます。但し受ける・受けないは納税者の任意です。受ける場合ば確定申告書等の明細書に必要事項の記載と一定書類の添付が必要になります。
外国税額控除は外国税の納付債務が確定した日の属する年分での適用が原則ですが、控除限度額との関連で3年間の繰越控除が認められています。源泉徴収税額で外国税額控除の適用を受けた後に、アメリカでの申告に拠り源泉徴収税の還付等を受けた場合は、外国税が減額されたときの調整が必要になりますので御留意下さい。
4.共有持分に係る贈与税・相続税の認定課税
当該物件はご夫婦と娘さんの共有の由ですが詳細は不明です。もしご主人が全額を資金負担している場合は、贈与税の調査が行われる可能性があります。或る意味、本事案ではこれが最も重要かも知れません。
(1)アメリカでの課税
日本の不動産の共有制度とは異なる概念で、米国の不動産所有形態には、夫婦共有財産制・合有財産権(Joint Tenanncy )・共有財産権(Tenanncy in Commmon)その他があります。州により制度が異なりますが、合有財産権についての贈与税認定は通常行われません。
(2)日本での課税
夫婦共有財産契約や合有財産権に就いては、夫婦間で財産の無償移転が有ったものとして贈与税若しくは相続税の認定課税が行われる可能性がありますので、極力この議論を避ける様に留意することが必要です。
本件の場合は、共有で不動産を取得したときに夫から妻に対する贈与が有ったものと見做される可能性が有ります。妻のみならず、日本国籍がなく非居住者である娘についても同様(注)です。贈与税に係る増額更正の期間制限は、確定申告期限から6年です。
(注)平成25年度税制改正前は、日本国籍がない非居住者への国外財産の贈与は課税の対象外でした。
5.国外財産調書の未提出
居住者でその年12月31日において5千万円を超える国外財産を所有する者は、翌年3月15日までに必要事項を記載した「国外財産調書」を所轄の税務署長に提出する義務があります。ご夫婦の場合、これが提出漏れになっています。もし国外財産調書に必要な国外財産に関する記載がないと、その国外財産に関連した所得税や相続税等の申告漏れが有った場合には、過少申告加算税等に5%の加重措置が行われます。本事案では、2(海外不動産の賃貸に係る日本での確定申告)と4(アメリカでの共有持分に係る日本での贈与税認定)に就いての課税関係が生じた場合に該当する可能性があります。
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