オーストラリアに在る不動産を譲渡された方から所得税の確定申告のご相談

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今年の8月、豪州のシドニーに在るマンションを売却しました。駐在員時代(1997年)に新築物件を自宅用として購入したものですが、3年程で日本に帰任したためその後は賃貸に出しています。豪州ではforeign residentとして、毎年200万円前後の不動産所得(現地の課税所得ベース)を適正に申告して来ました。然しながら日本での確定申告が必要だとは知らず、一度も申告したことが有りません。豪州の個人課税期間は7月1日から6月30日なので、来年7月以降にATO(豪州国税庁)へcapital gainの申告を行う予定ですが、過去の不動産賃貸収入の日本での申告漏れと今回の不動産売却益についてはどの様に確定申告をすれば良いのでしょうか。就中、日豪二重課税排除の為の外国税額控除制度や申告漏れに対するペナルティ―について分り易くご教示をお願いします。
所得税に対する賦課権の除斥期間は原則5年ですので、過去5年分の不動産所得の申告漏れに就いて期限後申告を行う必要があります。豪州と日本の課税期間が半年ずれていますので、全ての収支を1-12月に引直して日本での不動産所得を算出しなければなりません。外国税額控除ですが、当該外国所得税の納付債務が確定した日の属する年分に於いて適用するのが原則です。そうすると外国所得税が発生する年分と控除限度額が発生する年分とにタイムラグが生じます。この場合は、各年の国税と住民税について繰越控除限度額の処理を行うことが必要になります。ペナルティ―ですが、税務署から更正又は決定の通知を受ける前に自主的に期限後申告を行えば無申告加算税が5%(通知後は15%又は20%)に軽減されます。なお期限後1ヶ月以内の自主申告ではないので加算税不適用はありません。この他に延滞税が課されます。
来年3月に期限を迎える今年分の不動産所得とマンション譲渡所得の確定申告ですが、特に譲渡所得の起因となる取得費の計算(不動産所得の未償却残高と一致させる必要)と、外国税額控除に係る繰越控除限度額の処理が面倒です。所得金額が大きいだけに呉れ々もご注意下さい。capital gainについては2016/2017の豪州税制改正に伴い非居住者に対する12.5%の源泉徴収(FRCGW)が行われている可能性があります。この場合は上述のタイムラグは生じませんので、来年3月の確定申告では同一年度内として外国税額控除の適用を受けることが出来ます。

日本の居住者に対するオーストラリアでの課税ですが、現地の不動産賃貸及び不動産売却に係る収入の何れもが日豪租税条約に拠り対象になります。所得全体に対し32.5%~45%の累進税率で個人所得税が課せられ、基礎控除や軽減税率の適用は受けられません。
不動産所得金額は、賃貸料収入から管理費や修繕費等の総費用を差引き、更に総費用の10%相当の消費税(GST)を控除した残額です。これに税率32.5%(8万弗以下)を乗じるだけですから至って簡単な計算です。本事案では、非居住者への家賃支払いに係る源泉徴収はありません。
譲渡所得金額は、売却収入から取得費及び譲渡費用を控除した残額ですが、1年以上保有の不動産の譲渡については所得金額の2分の1の減免措置があります。ここで日本の譲渡所得金額の計算とは異なる点が幾つかあります。先ず取得費ですが、日本では実際取得金額を土地部分と建物部分に分け、後者に就いては所与の減価償却計算を行います。これに対し豪州の取得費は、実際取得価額に物価上昇率等を調整したindexation rateを乗じた金額になります。次に譲渡費用ですが、保有期間中の管理費や固定資産税も含めるため、日本基準とは大凡懸け離れた金額になります。capital gainの申告書を見ても、日本の譲渡所得金額計算には殆んど役に立ちません。
豪州で非居住者が行った不動産の譲渡には源泉徴収が行われます。従来は売却代金200万弗超の譲渡に就き10%の源泉徴収でしたが、2017年7月1日以降は75万弗超の譲渡に就き12.5%の源泉徴収へと改正されました。この変更は本事案に於ける外国税額控除の適用に際して重要です。改正前であれば、外国所得税の発生年度(豪州での確定申告時)と外国税額控除限度額の創出年度の期ずれに起因して繰越控除処理(3年以内)が必要でしたが、改正後は外国所得税の発生(豪州での源泉徴収時)と限度額創出が同一年度に納まるため直接的に控除計算を行うことが出来ます。但し、源泉徴収は一種の外国所得税の予納手続きですから、翌年に豪州側の確定申告で外国所得税額が増減額した場合には、日本の確定申告に於いて外国税額控除に係る所与の調整が必要になります。

 
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