アメリカに所有する不動産を譲渡した方から所得税の確定申告と外国税額控除に付いてのご相談

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友人(米国人)と共同所有するハワイ州の不動産(居住用)を売却しました。10年前に購入したものですが、米国不動産の高騰と円安ドル高の昂進でかなりの売却益が出ています。米国での課税ですが、非居住者のキャピタルゲインとして、売却代金の15%(連邦税10%、州税5%)相当の源泉徴収税が差引かれていました。売却時には日本に住所が有りますので、日本でも確定申告が必要と理解しています。そうすると日米で二重課税が発生するため、外国税額控除が受けられると思いますが、具体的なやり方が良く分かりません。ご支援をお願いします。

 

日本・米国とも個人所得税については暦年課税(1/1~12/31)です。申告期限は夫々翌年の3/15と4/15になります。また不動産の譲渡所得については、他の所得と分離して課税(申告分離課税)が行われます。
日本での申告に於ける外国税額控除ですが、納付する外国所得税が確定した年で適用出来ることになっています。そうすると米国のキャピタルゲイン課税は売却した年の翌年に確定しますので、日本で譲渡所得に課税される年と外国税額控除が適用される年が1年ずれることになります。この基礎となる外国税額控除限度額は、”その年分の所得税額Xその年分の国外所得金額/その年分の所得金額”で計算されますので、適用年度(=翌年)に別の国外所得金額がなければ控除限度額はゼロと言うことになります。
その年分の外国税額が国税と地方税の控除限度額の合計を超える場合、前3年以内の控除限度額のうち繰越された部分の金額(繰越控除限度額)が有るときは、これを限度として超える部分の金額を控除することが出来ます。これには、控除限度余裕額が生じた以降の年分の確定申告書に一定の記載事項があることが必要です。外国税額控除制度に習熟していなければ、難易度の高い作業になります。
それではどうすれば良いのでしょうか?米国で源泉徴収された連邦税と州税について、売却した年分で日本で外国税額控除の適用を受け、翌年にこれ等が確定すれば確定申告で ”外国所得税が増減額されたときの調整” を行うことをお薦めします。実務ではこのやり方が一般的です。

 
お問合せ中に、米国で15%の源泉徴収(注)が行われているとあります。非居住者の不動産売却に付いては無申告による徴税漏れを防ぐため、売却金額の一定額を買主に源泉徴収させることが行われます。日本でも同様の措置が有り、非居住者の不動産の譲渡による対価(1億円以下で自己又は親族の居住の用に供するために譲受けた個人から支払われるものを除く)については10.21%の源泉徴収が行われます。二国間の租税条約で国内法と異なる源泉徴収税率が定められている場合は、租税条約が優先します。
(注1)2016年2月17日以降の譲渡に就いては、連邦税の源泉徴収税率が10%から15%に引上げられています。但し買主が居住目的で購入した100万ドル以下の物件であれば10%据置きです。
(注2)2018年9月15日以降の譲渡に就いては、ハワイ州税の源泉徴収税率が5%から7.25%に引上げられています。
外国税額控除の対象となる外国所得税は、個人の所得を課税標準とする税(控除対象外国所得税)のみです。全ての外国税が対象になる訳ではありません。そうすると売却代金から算出される源泉徴収税は対象外ではとの疑問が出て来ますが、所得に代えて収入金額に一定割合を掛けて源泉徴収される税は控除対象外国法人税になると施行令に明記されています。
そこで、確定税額を待たずに源泉徴収税額で外国税額控除を適用します。そうすることに依り上記の1年のタイムラグによる不都合が解消されます。源泉徴収された連邦税についてはIRS(内国歳入庁)からForm8288Aが、州税についてはハワイ州政府からForm N-288が売主に送付されて来ますので、これ等を外国税額控除の添付資料にします。

ご質問者は既にUS・CPAに対し、IRSへの確定申告(Form1040NR)及びハワイ州政府への確定申告(FormN-15)の税務代理を委任されていました。この結果、確定税額が予納税額を上回れば追加納税の必要が、下回れば税の還付が行われます。長期キャピタルゲイン(所有期間が1年超)に適用される連邦所得税の優遇税率は最高20%(減価償却対応分は25%)ですので、収入金額の10%相当の源泉徴収税額以下に収まることが多く、殆どの場合は還付されます。州税についても同様です。
ここで注意しなければならないのは、外国税額控除の適用を受けた年の翌年以降にその外国所得税が減額された場合は、一定の調整が義務付けられていることです。増額した場合に追加で外国税額控除を適用するかどうかは納税者の任意です。

 
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