同族株主が所有する非上場株式に付いての行き過ぎた相続税対策は税務調査で問題になります

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相続財産の評価は実勢価格を原則としつつも、政策的配慮や事務負担軽減のため幾つかの特例(簡便計算)を認めています。相続税対策の中には、本来の制度の趣旨を逸脱し、条文の間隙を突いた課税逃れと指弾されても仕方がないものがあります。特に大型の非上場株式の相続や贈与にこの傾向が見られます。財産評価基本通達の総則第6項には、当局にとって伝家の宝刀とも言うべき有名な一文があります。” この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する ” と書かれています。本来、財産評価の森羅万象を通達でカバーするのは無理な話なのでこうした規定を設けるのも仕方ありませんが、一方では当局の主観や裁量を過度に認めることへの懸念も払拭できません。このため実際の適用は限定されている様ですが、このところ大企業オーナーの相続税対策絡みで本通達に拠る否認と目される記事を良く目にします。

一体どの様な節税手法が用いられるのでしょうか?関連する財産評価通達と狙われ易い盲点からご説明します。
ⅰ)非上場(取引相場のない)株式の発行会社は、同族株主がいる会社かどうか、専ら土地や株式の保有を目的とする会社かどうか、会社の規模(業種・総資産価額・従業員数)に応じて大会社/中会社/小会社の何れに該当するかの判定が行われます。
ⅱ)同族株主が保有する株式については、発行会社が大会社の場合は類似業種比準方式又は純資産価額方式、中会社の場合は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式又は併用方式中の類似業種比準方式を純資産価額方式に置き換えて計算する方法、小会社の場合は純資産価額方式に拠り評価を行う必要があります。
ⅲ)純資産価額方式は発行会社の資産・負債を相続税評価額(課税時期前3年以内に取得した土地等・建物等は通常取引価額)に換算し、評価差額に対する法人税額等相当額を控除して1株当り価額を算出する方法です。出資割合が50%以下の場合はこの8割相当で評価します。基本は時価評価ですから土地や株式の含み益があると高くなり、また相続税対策の為の調整には限界があると言った特徴があります。
ⅳ)類似業種比準方式は国税庁が2か月毎に公表する類似上場会社の株価を基に、配当金額・利益金額・純資産価額を比準して1株当たり価額を算出する方法です。比準項目の各weightは均等で、この内配当金額や利益金額については調整が容易なので、特定株主のための相続税対策がしばしば行われます。また純資産価額は相続税評価額ではなく簿価を基に計算されるため土地や株式の含み益が評価額に反映されません。一般的には、類似業種比準方式の方が純資産価額方式よりも有利と言われています。

以上のルール・特性を利用した相続税対策の事例を挙げて見ます。

Ⅰ.複数の非上場会社株式を有する同族株主が、そのうち大法人に該当する一社に他の非上場株式を譲渡して子会社化する方法(並列⇒直列の出資形態)
企業オーナーが100%出資のB社株式(中会社 時価2億円)とC社株式(小会社 時価1億円)をA社(大会社、時価5億円)に1.5億円で譲渡します。個人から法人への譲渡に就いては時価の2分の1以上であれば法59条の見做し課税が適用されません。A社には1.5億円の低額譲受け益が発生する可能性があります。この場合、譲渡前に相続が発生すると時価8億円が課税財産になりますが、譲渡後はA社株式5億円のみです。譲渡代金の1.5億円が増えますので、差引では1.5億円の課税財産が減少します。
手品の様な話ですが、実はこれには理由があります。上場会社の多くが連結決算を採用して居り、株価には子会社・関係会社の純資産や損益が反映されています。ところが非上場会社の多くは単体決算ですので、類似業種比準方式で使われる各比準要素には子会社・関係会社分が加味されて居りません。これが手品の種明かしです。

Ⅱ.土地保有特定会社に該当しないための資産構成の組み換え
土地保有特定会社とは、非上場会社で大会社に区分されるもののうち土地保有割合が70%以上であるもの、又は中会社に区分されるもののうち土地保有割合が90%以上であるものを言います。小会社に区分されるものに就いては土地保有特定会社の概念は有りません。
土地保有特定会社の株式の評価ですが、上記ⅲ)の純資産価額方式に拠り求めます。出資割合が50%以下の株主についてはこの80/100相当額となります。同族株主以外の株主は配当還元方式に拠り評価します。
土地保有特定会社に該当することを回避する為、形式的に借入金見合いに金融資産を取得するなどして土地保有比率を下げることが行われます。然しながら課税時期前に合理的な理由がなく資産構成を変動させた場合は、その変動がなかったものとして当該判定が行われますのでご留意下さい。

Ⅲ.株式保有特定会社に該当しないための新株予約権付社債の発行
株式保有特定会社とは、会社規模に拘らず非上場会社の所有する株式及び出資の価額が、総資産価額に占める割合が50%以上であるものを言います。株式及び出資ですから転換社債は含まれません。この行間を突いて、新株予約権付転換社債を発行し株式保有特定会社の認定を逃れようとする事案が現われました。これに対し国税庁は、形式的に株式を転換社債に置換えて評価額を下げたに過ぎず、容認すれば課税上の弊害が有るとして巨額の更正処分を行いました。これを受けH29年末の財産評価基本通達改正では、”株式保有特定会社”が”株式等保有特定会社”に改められ、新株予約権付社債も株式等に含まれことになっています。

 
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