取得費不明の資産の譲渡所得に係る国税不服審判所の重要裁決と納税者が今後取るべき方策

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相続等で親から継承した取得費不明の土地や上場株式の譲渡に係る確定申告は納税者のみならず税理士にとっても厄介です。5%の概算取得費控除を使うのは論外ですが(強制適用される場合もあります)、さりとて曖昧な推計取得費で申告すると否認されるリスクが否定できません。これに関連する重要な裁決が令和元年11月28日に出されました。今後の実務指針となるべき内容が含まれていますので、裁決の大略と今後取るべき方策について纏めてみました。

1.国税不服審判所の裁決
(1)事案の概要
請求人は母からの相続で複数銘柄の上場株式を取得した。これを自身の一般口座や源泉徴収口座に移管したあと売却したが、当初の確定申告ではこれを申告しなかった。後日修正申告したが、実際取得価額が分らなかったため名義書き換え日の終値を基に所得金額(譲渡損失)を計算して、申告漏れの上場株式配当と損益通算した。これに対し原処分庁は、譲渡損失及び配当金額を修正申告で計上することは認められない。また更正処分に当っては、措置法第39条(相続財産に係る譲渡所得の特例)に拠り取得費に加算する相続税額を概算取得費を用いて計算した。
(注)本稿は取得費不明の資産譲渡に係る取得費を考察するものなので、修正申告での譲渡損失や配当所得の計上可否についての議論は割愛します。
(2)概算取得費を用いることに就いての原処分庁の主張
原処分に係る当局の調査で取得費が判明したのは極く一部で、大部分は判明しなかった。この様な状況で概算取得費を用いて計算しても必ずしも納税者に不利な取り扱いとはならない。
(3)々 請求人の主張
実際取得価額を示す直接的証拠資料はないが、この様な場合は名義書換時期の相場を基に取得価額を算定すべきである。原処分庁は調査に全力を尽くしたとは言えず、立証責任を果たしていない。従って概算取得費を用いて更正すべきではない。
(4)裁決の内容
概算所得費控除の規定は、納税者が収入金額から控除する取得費として概算取得費により計算しているときは、これを認めて差支えない旨を定めているものである。原処分庁が課税処分を行うに当たって、請求人に対する調査を含め出来る限りを尽くしても取得時期や取得価額が分らない場合及び概算取得費を用いることが納税者の利益になると認められる場合には、概算取得費を用いることが相応である。
本件判明分株式の取得費については、名義書換日及びその時期の相場を確認することで取得価額を算定することが可能であったことから、原処分庁の主張には理由がないので原処分の一部を取り消す。

2.今後納税者が取るべき方策
今回の裁決は、①調査を尽くしても実際取得費が不明の場合に ②実際取得費よりも概算取得費が納税者に有利であれば概算取得費を用いることができる 旨を明らかにしたものです。一見納税者にとって朗報の様にも思えますが、よく検討すると実は重要な問題を提起しています。
裁決内容を自分勝手に解釈して申告した場合、税務署が黙って見過ごす筈がありません。取得費不明の土地譲渡の申告で、50年以上も前の全国市街地価格指数を使い取得費を単純計算したケースを想定して見ます。因みに昭和60年より前は地域別の市街地価格指数が公表されていません。以前に市街地価格指数を使った土地取得費の計算に関連した裁決事例があり、普遍的にこれが認められると勘違いされている方が多い様です。偶々税務署のストライクゾーンに収まっていれば良いのですが、見当外れの金額ですと税務署はこれを否定すべく各種の積算を行う筈です。国側は地価に関する膨大なデータ-を蓄積していますので、個人納税者が生半可な知識・情報で論破するのは容易ではありません。
概算取得費による更正が認められなくなった以上、国側としても土地取得費推計の為に相応の理論武装をしてくることが予想されます。今回の裁決で寝た子を起こして仕舞ったのではないかと危惧しています
 
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