登記簿を調べても所有者が判明しない、或いは判明しても連絡が付かない「所有者不明土地」が増加の一途を辿っており、九州に匹敵する面積に達すると言われています。住環境の悪化を招き公共事業等の阻害要因となる為、平成30年に”所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法”が制定されました。所有者不明土地の処分や公益利用を可能にする為の法律で、①土地所有者の探索及び職権による相続登記のための特例措置、②地域福利増進事業のための利用権設定などの措置が講じられています。尤も相続人にとっては、資産価値がなく負の遺産とも言うべき実家の空家や耕作放棄地の根本的解決策にはなりません。現行制度下では、固定資産税や管理費用忌避のための土地所有権放棄が認められていないからです。そこで令和3年4月に ”不動産登記法 ”と ” 民法 ” の一部改正、及び ” 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 の新設が行われました。これにより所有者不明土地の増加防止や活用促進、相続人の負の遺産問題等の解決が期待されます。内容を検討してみましょう。
1.現行制度下での一般的な負の遺産対策
①土地所有権の放棄の可否
民法には土地所有権の放棄に関する規定がありません。過去の判例や法務省の見解によれば、土地所有権放棄は須らく否認されるものではないが、他者の利益を害さない条件下でのみ認められると言うのが通説です。土地所有権の放棄は登記の抹消をしなければ第三者に対抗できません。危険土地の改修工事費や固定資産税の国への転嫁を目的とする登記の抹消請求は、尽く退けられています。
②相続放棄をした場合の問題点
相続人不存在の場合、相続財産は最終的に国庫に帰属(民法第959条)します。相続人の全員が放棄した場合も同様です。相続放棄をするとその他の財産の承継権も失うため、通常は資産価値のあるものを予め生前贈与します。贈与税負担後の手取り額と負の財産価値との兼合いで得失を判断すれば良い訳です。ところが実際にそう簡単ではありません。
相続人がいない場合は、利害関係者等の請求により家庭裁判所が相続財産管理人を選任しますが、これには数十万円~1百万円の予納金が必要です。そうすると誰も選任請求をしないため、相続財産が国庫に帰属することはありません。この場合の維持管理責任は相続放棄者が負いますので(民法第940条①)、結果的に固定資産税以外の費用負担から逃れることが出来ません。ところが固定資産税についても支払い義務が免れられない場合があります。地方税法に拠り、固定資産税の納税義務者は1月1日現在で登記簿又は補充課税台帳に所有者として登記又は登録さ れている者とされています。そうすると家裁の相続放棄申述書受理のタイミングに依っては、市区町村側が推定相続人を補充課税台帳に記載する可能性があります。こうなると台帳課税主義が採用されているため、市区町村に支払拒絶を認めさせることが出来ません。
③法人への名目的な金額での譲渡や寄付
負の遺産から逃れる術はないものでしょうか?例えば、”Going Concern”を前提としない休眠法人等に名目的な価格で売却してこれから逃れるスキームが考えられます。債務超過にして法人を畳めば、負の遺産を承継する者がなくなります。合法的且つビジネスとしても成り立ちそうですが、社会全体から考えれば大凡非生産的な話です。
2.平成30年の特別措置法の遺産対策への効果
負の遺産の相続放棄をした相続人が、多額の予納金を支払って財産管理人の選任請求をすることは期待出来ません。そうすると相続放棄地の管理不全状態が続き周辺への悪影響が発生するため、国または地方公共団体は相続人に代り財産管理人の選任請求が出来ると言うのが特例措置の主旨です。この場合に財産管理人報酬その他の費用負担がどうなるでしょうか。現行規定では、相続財産法人若しくは予納金から支弁することになります。そうすると相続放棄をして国や地方公共団体が動くのを待つのが得策と言う妙な話になります。
3.令和3年の不動産登記法 ”及び ”民法” の一部改正内容
①所有者不明土地の増加防止対策
イ.相続後3年以内に所有権移転登記を義務付ける。違反には10万円の過料を科す。
ロ.所有者の住所や氏名変更があった場合は2年以内の登記を義務付ける。違反には5万円の過料を科す。
②所有者不明土地の活用促進対策
ハ.所有者不明土地は裁判者の許可を得て用途変更や売却が出来る。譲渡代金は裁判所が管理する。
ニ.共有者不明の土地持分は、共有者を除外しての宅地造成や、相当の金銭供託による土地の取得や売却が出来る。
4.令和3年の相続土地国庫帰属法(新設)の内容
ⅰ)令和5年開始を目途に、相続または遺贈(相続人への遺贈に限る)に拠り取得した土地所有権を、国庫に帰属させることについて法務大臣(法務局)に承認申請をすることが出来る。但し、以下の土地については除外する。
イ.建物の存する土地
ロ.担保権又は使用収益権が設定されている土地
ハ.通路その他の第三者による使用が予定されている土地
ニ.特定有害物質により汚染されている土地
ホ.所有権の存否や範囲等に就いての争いがある土地
ⅱ)法務大臣は次の何れにも該当しないと認められる土地に付いては、国庫への帰属を承認しなければならない。
イ.崖がある土地のうち、通常の維持管理に過分の費用や労力を要するもの
ロ.土地の通常の維持管理や処分を阻害する工作物・車両・樹木その他有体物が地上に在る土地
ハ.除去しなければ通常の維持管理や処分が出来ない有体物が地下に在る土地
ニ.隣接土地所有者その他との訴訟に拠らねば通常の維持管理や処分が出来ない土地
ホ.通常の維持管理や処分に過分の費用や労力を要する土地として政令で定めるもの
ⅲ)承認申請者は、管理に要する10年分の費用として、政令で定める金額を納付しなければならない
ⅳ)国庫帰属土地のうち、農用地又は森林として利用されているものは農水大臣が管理・処分を行う。これ当たっては農地法第45条その他の規定を準用する。
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