1.物納と相続財産の売却による現金納付との比較検討に必要な知識
(1)物納のメリット・デメリット
デメリットから始めましょう。物納の収納価額は時価ではありません。相続税評価額でもありません。相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産の価格です。今回の分離対象の宅地105坪(時価1億円相当)を物納したとしましょう。路線価は時価の大凡8割ですから相続税評価額は8千万円になります。これに小規模宅地等の特例の適用が有った場合の課税価格は、80%評価減の16百万円です。これが収納価額になります。
物納は相続税支払いの代物弁済ですから、本来は譲渡所得の課税対象です。ところが租税特別措置法第40条の3で、相続税の物納による譲渡所得は非課税とされています。これがメリットになります。
物納は延納によっても金銭納付することが困難な事情が有る場合に限り、納付が困難な金額の範囲内で認められる制度です。物納に充てられる相続財産は、不動産や上場有価証券、非上場株式など一定の資産に限定されます。担保権が設定されている土地や境界線が明らかでない土地は不適格財産になります。相続税の申告期限内に物納申請書を提出し、税務署長の許可または却下処分を待たなければなりません。手間が掛かること、また100%認められる保証がないことがデメリットです。
(2)相続財産の売却による現金納付のメリット・デメリット
売却できれは時価相当額の収入が得られること、これが最大のメリットです。
デメリットとしては、物納と異なり譲渡所得税が掛かる点です。代々相続で承継された土地の場合は、取得費が分からないか或いは分かっても概算取得費控除以下の場合が殆んどです。そうなると仲介手数料を加味しても、売却収入の9割以上が課税所得になってしまいます。
売却可能時期が短期間であることも不都合です。相続発生後の対応では足元を見られ、業者に安く買い叩かれる可能性があります。これを避けるには前広に敷地の一部売却を準備するのが得策です。
2.手取り金額の試算による優劣の検証
(1)物納の場合の手取り額
路線価を基にした相続税評価額は8千万円です。居住用小規模宅地等の特例ですが、1千㎡近い敷地ですから330㎡を遥かに超えて居り適用は有りません。従って収納価額は8千万円になります。この他に税理士報酬や司法書士報酬が発生しますが、②と同条件なので計算は省略します。
(2)売却の場合の手取り額
収入金額は時価1億円から仲介手数料3.2百万円を引いた96.8百万円です。取得費は昭和27年以前の取得なので5%の概算取得費控除が適用されます。
お母様がご存命中の売却であれば3千万円特別控除を考慮する必要があります。建物と敷地の所有者が異なっても、両者が生計同一の親族であれば適用が受けられますが、今回は居住用家屋との同時売却ではないので摘要が有りません。この場合の所得税・住民税は18.7百万円で、税引後手取り額は78.1百万円になります。相続財産は土地ではなく現預金になりますので、時価の100%に対する相続税が課せられます。
お母様に相続が発生した後の売却であれば、相続財産は宅地なので時価の80%に対する相続税で済みます。併せて相続税の取得費加算の適用も有りますので、経済計算だけ考えれば此方が有利です。
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