非居住者への国外財産の相続(贈与)による節税策が更に規制されました

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富裕層の相続税や贈与税対策として、財産を国外に移し受取人も非居住者になった上で、相続や生前贈与をする方法が一般に知られています。一見手の混んだ手法に見えますが、原理は至って簡単です。こうした課税回避行為に対し、平成29年度税制改正で更なる規制強化が図られました。この改正は平成29年4月以降の相続・遺贈・贈与に適用されます。それでは新旧対比の形で改正内容を簡単にご説明しましょう。

相続税並びに贈与税の納税義務者は、相続人と被相続人の住所及び国籍の有無並びに国内での居住期間に応じて 居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者・居住制限納税義務者・非居住制限納税義務者の4通りに区分されます。無制限納税義務者は財産の所在が国内・国外の何れであるかを問わず全て課税対象ですが、制限納税義務者に就いては国内財産にのみ課税されます。そこで多くの税理士事務所や富裕層が、制限納税義務者に該当するための奇手・奇策を考えてきました。
1.制限納税義務者に該当するための要件
改正前の規定
制限納税義務者として、国外財産への課税を回避できるのは次の3つのケースでした。
①被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所がないが過去5年以内のある時点では国内に住所が有り、相続人(受贈者)は相続開始(贈与)時に国内に住所がなく且つ日本国籍がない場合
②被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所がなく且つ過去5年以内に遡っても国内に住所がなく、相続人(受贈者)は相続開始(贈与)時に国内に住所がなく且つ過去5年以内に遡っても国内に住所がないが日本国籍がある場合
③被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所がなく且つ過去5年以内に遡っても国内に住所がなく、相続人(受遺者)は相続開始(贈与)時に国内に住所がなく日本国籍もない場合
29年度改正の内容)                       、
改正前の規定では、「被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)の双方が国外に移住してから5年経過した後に国外財産を相続(贈与)」すれば課税対象になりません。また「国外に居住する外国籍の親族に、被相続人(贈与者)が一時的に海外移住して国外財産を相続・遺贈(贈与)」する等の課税回避行為も後を絶ちませんでした。そこで5年を10年に延長すると共に、「一時居住者」「一時居住被相続人(一時居住贈与者)」「非居住被相続人(非居住贈与者)」の概念を導入して、制限納税義務者となるための要件を更に厳しくしました。

「一時居住者」とは、相続開始(贈与)時に在留資格を有する者であって、相続開始(贈与)前15年以内のうち国内に居住していた期間の合計が10年以下の者を言います。
「一時居住被相続人(一時居住贈与者)」とは、相続開始(贈与)時に在留資格を有し且つ国内に住所を有していた被相続人(贈与者)であって、相続開始(贈与)前15年以内のうち国内に居住していた期間の合計が10年以下の者を言います。
「非居住被相続人(非居住贈与者)」とは、相続開始(贈与)時に国内に住所を有していなかった被相続人(贈与者)であって、次に何れかに該当する者を言います。
・相続開始(贈与)前十年以内の何れかの時において国内に住所を有していたことがあるもののうち、その何れの時においても日本国籍を有していなかつたもの
・相続開始(贈与)前十年以内の何れの時においても国内に住所を有していなかったもの

改正の結果、制限納税義務者となるのは次の6つのケースになります。
①被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所が有る一時居住被相続人(一時居住贈与者)で、相続人(受贈者)が一時居住者である場合
②被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所が有る一時居住被相続人(一時居住贈与者)で、相続人(受贈者)は日本国籍を有するが相続開始(贈与)時に国内に住所がなくかつ前10年以内に国内に住所がなかった場合
③被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所が有る一時居住被相続人(一時居住贈与者)で、相続人(受贈者)は日本国籍を有せず且つ相続開始(贈与)時に国内に住所がない場合
④被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所が無い非居住被相続人(非居住贈与者)で、相続人(受贈者)が一時居住者である場合
⑤被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所が無い非居住被相続人(非居住贈与者)で、相続人(受贈者)は日本国籍を有するが相続開始(贈与)時に国内に住所がなくかつ前10年以内に国内に住所がなかった場合
⑥被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)時に国内に住所が無い非居住被相続人(非居住贈与者)で、相続人(受贈者)は日本国籍を有せず且つ相続開始(贈与)時に国内に住所がない場合

一方緩和策も採られています。改正前規定では、転勤で日本に単身赴任している外国人(=日本国籍を持たない者)が死亡した場合に、海外に住む遺族に国外財産に係る課税が生じます。これは不合理であり日本駐在に伴う阻害要因ともなり兼ねません。そこで、外国人で在留資格を持つ被相続人(贈与者)及び相続人(受贈者)が国内に住所を有する期間が相続開始(贈与)前15年間で合計10年以下であれば、国外財産には課税しないことにしました。但し贈与者が国内に住所を有さなくなってから2年以内に国外財産を贈与し、且つ同期間内に再び国内に住所を有することになった場合はこの限りでありません。更に令和3年税制改正で、高度専門職や医療・研究・留学など一定の在留資格を持つ外国人に付いては、通算居住期間に拘わらず国外財産が課税対象外になりました。
非居住者に付いての相続税(贈与税)の納税義務者と課税財産の範囲については、相続税法第一条の三(第一条の四)と第二条(第二条の二)に規定されていますが、極めて分かり難い書き振りになっています。個別事案で正確な判定をご希望の方はご相談下さい。

2.考えられる影響
改正前の規定でも、被相続人(贈与者)が相続開始(贈与)前5年以内に日本で居住していれば、国外財産に就いての課税が行われていました。5年が長いが短いかは個人の事情や価値観に拠りますが、流石に10年となれば課税回避目的だけで海外生活を余儀なくされるのは辛いと思います。小職のサラリーマン時代の先輩にもその様な趣旨で海外移住のご相談に来られた方が居られましたが、今回の改正で今後どう対応されるのか気掛かりです。

 
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