相続税対策として非居住者である子に海外資産の贈与を検討されている方からのご相談

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元サラリーマンです。中近東での勤務が長かったのでスイスの銀行に纏まった預金を所有しています。相続税対策としてこれで海外不動産を購入し、フランスに住む長女に生前贈与してはどうかと考えています。非居住者に海外不動産を贈与する訳ですから、日本での贈与税申告は不要と考えますがどうでしょうか?もし課税される様でしたら、私がシンガポールに移住してその後で贈与をすることも検討したいと思います。

 

貴方が日本の居住者でいる間にご検討の相続税対策を実行した場合は、娘さんが非居住者であっても海外不動産贈与に係る日本での贈与税申告が必要です。若し貴方がシンガポールへ移住されたとしても、10年以内に贈与をされるのであれば結論は同じです。一方、貴方は5千万円超の国外財産をお持ちですので、来年3月には「国外財産調書」を税務署に提出する義務があります。若し提出されない場合は罰則規定があります。

 

かっての相続税法では、非居住者への海外資産の贈与は課税対象外とされていました。このため形式的に受贈者の住所を国外に移す等の課税回避行為が後を絶たず、平成23年の某消費者金融一族との税務訴訟をきっかけに、国側が相続税・贈与税の納税義務者に関する規定を大幅に改正しました。納税義務者の特例と呼ばれるものです。その後も非居住者が取得する国外財産への相続税・贈与税の課税強化が図られ、平成29年税制改正では5年ルールが10年ルールに改められました。(相続税法第1条の3①二、第1条の4①二)

さて非居住者に係る贈与税の納税義務判定の拠り所ですが、相続税法第1条の4(贈与税の納税義務者)になります。第一号と第二号で無制限納税義務者(国内財産・国外財産に課税)、第三号と第四号で制限納税義務者(国内財産に課税)に就いて定めています。ご質問の主旨から制限納税義務者に関する規定を見てみましょうす。御覧の通り極めて難解な書き振りになっています。

<相続税法第1条の4(贈与税の納税義務者)>
第三号:贈与によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人で、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの(第一号に定める無制限納税義務者に該当する者を除く)
具体的には受贈者が国内の一時居住者であり、且つ贈与者が国内の一時居住者または贈与前10年以内に国内に住所を有していない者である場合がこれに該当します。なお一時居住者とは贈与時に在留資格を有する者で、贈与前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下のものを言います。
第四号:贈与によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人で、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの(第二号に定める無制限納税義務者に該当する者を除く)
具体的には①受贈者が国内に住所がない日本国籍の所有者で贈与前10年以内に国内に住所を有して居らず、かつ贈与者が国内の一時居住者または贈与前10年以内に国内に住所を有していない者である場合
または②受贈者が屋内に住所がない外国籍の所有者で、かつ贈与者が国内の一時居住者または贈与前10年以内に国内に住所を有していない者である場合がこれに該当します。

ご相談の事例ですが、ご長女は日本と仏国の国籍を有しています。10年以内に日本で居住していた事実はありませんが、貴方は日本の居住者です。従ってご長女は第三号と第四号の何れも該当しませんので、非居住無制限納税義務者になります。従って国内財産のみならず国外財産も課税対象になります。
もし貴方がシンガポールへ移住され、出国後10年を過ぎてから贈与されるのであればご長女は制限納税義務者になりますので、国外財産には課税されません。貴方のご希望通りになりますが、それには少なからぬ歳月が必要です。
<追記>
この方はシンガポールへの移住を検討されて居られましたが、平成29年度の税制改正で国外転出後経過期間が5年から10年に延長されたためご年齢を考えて節税プランを断念されました。

 
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