税理士がお薦めする3つのオーソドックスな相続税対策:令和5年改正で暦年贈与と相続時精算課税の優劣が拮抗し、タワマン節税は難しくなる

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相続税対策には幾つかのパターンがあります。多く見られるのは、①時価と相続税評価額の乖離を利用したもの、②贈与税・相続税の非課税制度や優遇措置を利用したもの、そして③納税義務者のステータス毎の課税財産範囲の違いを利用したものです。③は財産の海外移転に依り贈与税や相続税の課税対象から外そうと言うものですが、相次ぐ税制改正により条件が厳しくなっています。
出版物等で様々な節税プランが紹介されていますが、実行される方は然程多くない様です。複雑で手間が掛かる、費用や否認リスクの心配がある、被相続人や共同相続人との協議が煩わしい、と言った理由に因るものと思われます。今回は確実に節税効果が得られ、且つ容易に実行でき、費用負担や税務リスクも少ない相続税対策を3つご紹介します。

1.小規模宅地等の課税価格計算の特例の有効活用
令和3年分の東京都で申告対象になった相続ですが、被相続人1人当り課税価格は1億8500万円、この内土地が占める割合は36.5%、現預金が占める割合は28.7%でした。都内の基準地価は上昇傾向にあり、基礎控除額引下げとの相乗効果で、申告が必要な相続の割合は18.1%と漸増しています。特定居住用小規模宅地等の特例の面積制限は約100坪ですが、都内では大部分の相続が範囲内に収まるためこの特例が受けられるかどうかが相続税対策の要になります。
難点は適用条件に当て嵌まらないケースが多いことです。配偶者以外の親族の要件は大きく、①同居していた親族 ②過去に自宅を所有せず且つ特定の親族所有の家屋に居住したことがない親族 ③被相続人と生計を一にする親族 に分類されます。要件を充足する為の対策ですが、①は文字通り同居すれば良い訳ですから、最も確実な方法と言えます。但しご家族が賛同されるかどうかは微妙です。②は過去の事象ゆえ対策の施し様がありません。③ですが、実態は生計非同一にも拘わらず表面を取り繕って適用を受けようとする方が居られます。非同居のケースで主張が認められるのは難しいと思います。
特定居住用宅地等の適用が難しい場合はどうすれば良いでしょうか。古家であれば更地にして駐車場として貸す手があります。貸付事業用宅地等として200㎡を限度に50%の評価減が受けられます。但し相続開始前3年以内に開始したものは適用外です。また所謂青空駐車場には適用されませんので、構築物として認められる砂利敷き程度には整備しておく必要があります。
アパートを新築し特例適用を受けるのは如何でしょうか。多額の設備投資を必要とします。また人口減少傾向が顕著で、築20年を経過すると空室率や賃料引下げの問題が避けられません。純粋に不稼働土地の有効活用であれば良いのですが、相続税対策がメインであればお薦め出来ません。

2.生命保険金の非課税枠の有効活用
相続税対策に合致するのは、被相続人が被保険者且つ保険料の負担者で、相続人の何れかを受取人とする生命保険契約です。被保険者の相続財産を減らし、且つ見做し相続財産として生命保険金の非課税規定が使える効果が有ります。一方保険金受取人に対する所得税ですが、自ら保険料を負担していない限りは課税が有りません。
因みにここで言う生命保険契約は相続税対策用であって、遺族の生活資金確保と言う本来の目的とは異なります。先日顧問先様に加入頂いた保険商品は、M生命の「定額終身保険」でした。商品の特徴は、①契約時一時払い保険料である ②加入年齢70才~90才と高齢者でも加入できる ③健康状態や職業に関する告知義務がない ④積立金額以上の死亡保険金支払いが保障されている と言った点にあります。死亡保険金の受取人は、契約者が指定した親族(相続人に限る)にしなければなりません。
急な資金需要が発生した場合には解約が可能です。但し初期段階で解約すると契約初期費用負担額が差引かれるため、若干ながら解約返戻金が払込保険料を下回ります。
死亡保険金は民法上の相続財産ではなく受取人の固有財産になりますので、遺産分割や遺留分の対象外です。通常は死亡後1週間程度で保険金が支払われますので、銀行預金が凍結されても葬儀費用等の支出に充てることが可能です。
なお加入には本人の意思確認が必要ですので、認知症を患っているとか重篤で契約書に署名できない場合は加入出来ないことがあります。

3.贈与税の非課税制度の有効活用(令和5年度税制改正を織り込み済)
贈与税の非課税制度のうち相続税対策に利用できるのは、①生前贈与に係る基礎控除110万円、②夫婦間の居住用不動産贈与に係る配偶者控除2千万円、③直系尊属からの住宅資金贈与に係る非課税枠10百万円(省エネ住宅)又は5百万円(その他の住宅)、④直系尊属からの教育資金一括贈与に係る非課税枠15百万円、⑤直系尊属からの結婚・子育て資金一括贈与に係る非課税枠10百万円です。
老婆心ながら、贈与に起因して老後の生活資金に支障が出ることは絶対に避けて下さい。特に住宅取得資金贈与や教育資金一括贈与は、一時に多額の支出が生じるため無理をしてはいけません。
お薦めは生前贈与による子や孫への継続的な財産移転です。生前贈与には暦年贈与制度と相続時精算課税制度があり、何れかの2者択一になります。暦年贈与の基礎控除には各年110万円の基礎控除があり、適用の期間制限もありません。
これに対し相続時精算課税制度には基礎控除がなかった為、従来は暦年課税に比べると不利ですとお客様に説明してきました。相続時精算家事制度の特別控除額25百万円は一過性の控除に過ぎず、基礎控除の如き恒久的非課税措置ではないからです。特定贈与者に相続が発生した場合は、特別控除前の贈与金額を相続財産の課税価格に加算しなければならず、タイムラグメリットしか有りません。何方かと言えば贈与税納付に係るキャッシュフロー上の都合で利用されることが多い様です。ところが今回の改正で新たに相続時精算課税制度にも各年110万円の基礎控除が設けられたため、両者の有利比較が微妙になりました。

⇒令和5年度税制改正に於ける暦年課税制度と相続時精算課税制度の見直し、何れが有利になったか
相続開始前3年以内にその被相続人から贈与を受けていた場合は、基礎控除前のその贈与財産の価格を相続税の課税価格に加算しなければなりません。遺言書による遺贈を受けていない相続人以外の者については、この必要がありません。令和5年改正で加算対象期間の3年以内が7年以内に延長され、一方で延長された4年間に受ける贈与に就いては総額1百万円まで相続財産に加算しなくても良いことになりました。加算期間は令和9年1月1日以降順次延長され、7年間になるのは令和13年1月1日以降の贈与からになります。これ等の変更は令和6年1月1日以降の贈与から適用されます。
次に相続時精算課税制度の改正内容です。相続時精算課税制度を選択すると贈与者毎に累積25百万円の特別控除枠が設定され、特定贈与者に相続が発生すると特別控除前の全額を相続財産に加算する必要があります。令和5年税制改正で相続時精算課税制度に就いても年間110万円の基礎控除が設けられることになりました。この結果相続財産に加算する金額は贈与財産の全額ではなく、各年の贈与金額から110万円以下の基礎控除額を差し引いた金額になります。この変更は令和6年1月1以降の贈与から適用されます。
それでは相続人または受遺者は、何方を選択した方が有利になるでしょうか。相続財産への加算は暦年贈与で相続発生前7年以内、対して相続時精算課税は無期限です。7年間を逃げ切れば暦年贈与が有利と言うことになります。基礎控除は共に年間110万円ですが,相続税の課税価格への加算の取扱いが異なります。相続時精算課税は各年の基礎控除相当額を加算する必要がありませんが、暦年課税は加算する必要があります。従って此方は相続時精算課税の方が有利です。贈与年分の贈与税ですが、暦年贈与の場合は110万円を超える金額に超過累進税率を適用して贈与税額を計算します。相続時精算課税は基礎控除差引後の贈与金額が累積で25百万迄を超えた場合に、20%の単一税率で贈与税額を計算します。何れも納付した贈与税は相続税から税額控除されますので金額面での得失差はありません。
加算対象期間に制限があり且つ申告の手間が少ないことを考えれば暦年贈与が有利、不動産など纏まった金額の贈与であればキャッシュフロー面で相続時精算課税制度の方が使い勝手が良いかも知れません。この辺りはcase by caseの判断になります。

4.タワマン節税への規制導入
弊事務所はこれまで所謂タワマン節税には否定的な見解を取ってきました。この理由は①タワーマンションは相対的不動産価値から見て割高である ②大規模地震等による不測の暴落リスクがある ③タワマン節税に対する当局の規制導入が予想される と考えたからです。ところが現実には、一向タワマン人気に終息の気配がなく、販売価格が既に労働者の購買力限界を超え、海外資本を交えた投機に近い状況とさえ言われています。背景として超低金利の住宅ローン・通勤アクセスや生活面での利便性・容積率緩和等による行政の誘致政策等が挙げられますが、人口の都市集中化に於ける現代人の住宅ニーズに合っていることが最大要因かも知れません。
令和6年から愈々タワマン節税への規制が始まりそうです。タワマン節税の仕組みは、①マンション敷地に建つ戸数が多いほど土地の評価額を低く抑えられる ②高層階になるほど時価が高く相続税評価額との差が大きくなる 等の不合理を突くことにあるので、この辺りの是正を主軸とする改正案になっています。
具体的には、築年数・総階数・所在階数・敷地面積・敷地利用権持分を基に評価乖離率を算定し、これが1.67倍以上であれば現行の相続税評価額に評価乖離率と0.6を乗じた金額が改正後の相続税評価額になります。国税庁が公表した事例を引用すると、
<所在地東京、総階数43階、所在階数23階、築年数9年、専有面積67.17㎡、市場価格119百万円、現行相続税評価額37.2百万円>の場合に、
改正後の相続税評価額は37.2百万円✕乖離率3.2✕0.6=71.4百万円と現行評価額の略2倍になります。相続税評価額の時価に対する割合が約6割に上がり、一般の戸建住宅との不均衡が是正されます。この結果、乖離率が1.67倍以上のマンション購入は殆ど節税目的の意味を成さなくなります。

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