取得費不明の相続した土地の譲渡に係る2017.12.13の裁決事例から読み取れること

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国税不服審判所は、取得費不明の相続した土地の譲渡に係る長期譲渡所得の金額に関する裁決で、控除すべき取得費の金額は売主側が作成した土地管理台帳に記載された金額とするのが相当であるとして、審査請求人及び課税庁の主張を夫々退けました。合理的な裁決内容と思料しますが、裁決書に示された判断が今後の確定申告の参考になりますのでご紹介致します。

1.事実関係
審査請求人A氏は平成24年に土地所有権を個人に売却した。当該土地は父が昭和41年に不動産業を営むF社から売買により取得したものである。平成12年に父が亡くなり母が相続したが、母も平成17年に亡くなったためA氏が相続に依り取得した経緯が有る。
A氏は平成25年3月に当該譲渡所得の確定申告をしたが、契約書類等が見当たらず土地の取得費が分からなかったため、止む無く概算取得費控除(土地売却代金の5%相当を取得費とする)により申告納税した。平成28年になってA氏は、当該土地は父が昭和52年に取得したもので(同年に所有権移転登記がなされている)、この時点の土地公示価格を基に取得費を推計した結果、既に納付済の税額が過大になっているとして更正の請求を行った。
これに対し原処分庁は、①請求人が推計した取得費の金額は実際の取得費ではないので認められない ②土地に係る概算取得費は精算金を含めた収入金額の5%相当とすべきである ③譲渡費用の計算に誤りがある 等の理由でA氏に対する更正処分を行った。A氏はこれを不服として審査請求を申立てた。

2.争点についての請求人主張
売買契約書類等が見当たらないが、そのことを以て措置法第31条の4①の規定に準じて概算取得費により算定すべきではない。当該物件周辺の土地価格に関する情報を使い合理的に算定すべきであるから、地価公示価格を基に推計した金額とすべきである。

3.争点に就いての原処分庁主張
土地の取得に要した実額が不明であるところから、取得費の金額は措置法第31条の4①の規定に準じて算定した概算取得費とすべきである。請求人の主張する金額は、飽く迄も請求人が推計した昭和52年時点における取得費であって実際の取得費ではないので認められない。

4.国税不服審判所の判断
イ.国税不服審判所の調査に依れば、宅地建物取引業法により帳簿備付け義務があるF社が作成した土地台帳が存在し、その中に物件明細・売買日及び売買金額・手付金及び内金の入金・地積変更に伴う精算金等が記載されている。これ等の記載内容は事実であることが推認される。また登記簿謄本にも、昭和41年の売買とローン契約に関する記載があり、土地台帳の記載内容と符合している。
ロ.請求人の父が本件土地の取得に要した金額は売買金額から地積変更に伴う精算金を控除した金額であると認められる。
ハ.措置法通達31の4-1は昭和28年1月1日以降に取得した土地等の取得費に付いて、措置法第31条の4①の規定に準じて計算して差支えない旨を定めており、この取扱いは当審判所に於いても相当と認める。然しながら概算取得費として計算した金額は上記ロの本件土地取得費に満たない為、本件土地に係る概算取得費を本件土地取得費と認めることは納税者の利益に反することとなり相当でない。
ニ.原処分庁は、土地台帳に記載された金額は原処分庁が調査により把握した金額ではなく土地台帳の記載のみを以て本件土地の取得費そのものであると認めることは出来ない/請求人が主張する本件土地の取得費は飽く迄も推計値であり土地台帳記載の売買金額は請求人が本件土地に係る取得費として主張立証する金額ではないと主張するが、土地台帳の記載内容の信用性は高くこの点に関する原処分庁の主張は採用することができない。

5.裁決事例から読み取れること
率直に申し上げると請求者側の対応はお粗末です。偶々国税不服審判所が売り主側データーを見つけたので、結果的に大きな痛手を負わずに済みましたが。
確定申告では概算取得費控除を選択して申告納税を行い、3年以上も経過してから公示価格に拠る推計取得費で更正の請求を行った理由が良く分かりません。それも実際売買の10年後の所有権移転登記時の公示価格で推計取得費を計算したのでは、流石に税務署も頭に来るでしょう。譲渡費用計算の単純なミスも有る様です。
取得費不明の土地の譲渡と決めつけて、概算取得費控除か推計取得費を計算するかの選択を行うのは危険です。幣別稿「相続した不動産など取得費が分からない資産の譲渡所得の申告実務はここが面倒」でもご説明した通り、売主や仲介業者にデーターが残っている可能性があります。これが出て来た場合は、納税者であろうが税務署であろうが勝負になりません。今回の裁決事例がこのケースです。幣事務所では土地の売主側に取引記録が残っていないかどうかを必ず調査します。特に売主が法人の場合は存外に記録が残っていますのでこの手間を省くことは出来ません。
ところで今回の裁決事例では実際の取引価額が判明しましたが、分らない場合はどうなるでしょうか。判断に関する説明からは審判所の見解が明確に読み取れません。原処分庁の主張(概算取得費に拠るべき)は法令及び通達を読む限り無理が有ると思いますが、さりとて市街地価格指数や土地公示価格を使った単純な計算を普遍的に認めると課税上の弊害があります。矢張りケースバイケースと言うことになりそうです。

*本記事は国税不服審判所が公表した裁決事例を基に書いておりますが、一部筆者私見が含まれています。
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