取得費不明の不動産譲渡に係る税務署への事前確認で市街地価格指数に拠る推計取得費は認めないと回答された事例

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取得費が全く分からない(契約書ほか何も残っていない)居住用一戸建て住宅の土地建物を売却したことに伴う推計取得費による確定申告の可否に関するご相談に伺いたいと考えております。
事案概要ですが、私の義理の母とその長女および次女(私の家内)が上記物件を共有相続した後に、昨年(平成28年)3月下旬に売却しました。全く取得費が分からないため、所轄税務署に以下の①②に拠る推計での申告が認めてもらえるか訪問して確認したところ ”土地建物全体の取得費は分かっているが、土地と建物の内訳が分からない場合に、それぞれの金額を算定する方法として認める余地はあるが、全体の取得費すら分らない場合には認められない” との回答でした。概算取得費で売却価額の5%を取得費とする方法では殆ど譲渡利益になってしまいますので諦めきれません。何か別の方法(公示地価とか固定資産税評価額からの推計)により確定申告書の作成をお願いできないでしょうか?お忙しい時期とは存じますが、宜しくお願いします。
①土地の取得価額は、市街地価格指数から算定する。
②建物の取得価額は、着工建築物構造別単価から算定する。

 

ネット記事などをお読みになり、取得費不明の土地等の譲渡所得については市街地価格指数で比例計算すれば認められると安易にお考えの方が少なくない様ですが、これは誤解です。概算取得費控除に拠れば、一律売値の5%が取得費だと言うのも不合理な話ですが、さりとて市街地価格指数を使った簡易な推計取得費計算を汎用的に容認すると課税上の弊害が生じる懸念があるため、税務署も簡単には認めない様です。

例えば、実際取得費が分かっているにも拘らず推計取得費と比較して此方が有利であれば取得費不明として申告する等の悪用が考えられます。幣事務所でも実際にそれが疑われる事案があり、丁重にお断りしたことがあります。
実際に市街地価格指数の資料をご覧になればお分かりになりますが、対象エリアの括りが大きく、また利用頻度の高いデーターの大部分が昭和60年以降のものしか掲載されていません無理やり指数を当て嵌めて計算しても、実態とは大きく乖離した推計値になる可能性があります過去の裁決(平成12年11月16日付裁決)で認められた事例が有るとの理由で拡大解釈されていますが、個々の土地価格を合理的に算定する基礎データーとしてはメッシュが大き過ぎます。譲渡価額を基に取得時期までの価格動向により時点修正するための合理的な価値変動率として汎用的に認めると、課税上の弊害が生じる惧れが有ります。因みにこの後に出された裁決で、市街地価格指数に基づく取得費の主張が更正の請求で棄却された事例があります。
(平成26年3月4日付け東京国税不服審判所の裁決事例要旨)
「・・・・市街地価格指数は、個別の宅地価格の変動状況を直接的に示すものではないから、これに基づき算定した金額は、亡父が本件各土地を取得した時の市場価格を適切に反映したものとは言えず、また請求人が採用した同指数は六大都市市街地価格指数であるが、本件各土地は六大都市以外の地域に所在するものであるから、本件各土地の地価の推移を適切に反映したものとは言えない。」

ご相談の税務署回答ですが、判断に至った事実関係その他の確認が出来ませんので、コメントは差し控えさせて頂きます。尤も ”安易な推計計算は認めませんよ” との考え方は明確に伝わってきます。土地建物全体の取得費が分かっている場合に、夫々の内訳を計算するため利用する場合は認める余地が有るとの回答は、当局の執行基準に沿ったもので蓋し当然かと思います。
この種のご相談に対する幣事務所の対応ですが、事実関係の確認・公的な地価情報による合理的な計算の可否・それに要する作業量・税負担軽減見込などを総合勘案して、推計取得費による申告をお引受けできるかどうかケース・バイ・ケースで判断させて頂いております。難しい事案が多く、お客様に迎合して安易に対応すると後々紛議の基になり兼ねません。不動産に関する専門知識や実務経験がかなり要求される業務です。お困りの方はご遠慮なくご来所下さい。

(ご参照頂きたい幣別稿)
  「取得費が分からない不動産を売却して何も対策を講じないと、殆んど譲渡利益にされてしまいます」
  「親から相続した不動産の売却で取得費不明の場合、推計取得費による確定申告はかなり厄介です」
 
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