親が所有する同一の敷地内に親と子が夫々建物を所有し居住している場合の小規模宅地等の特例適用に関するご相談

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母が居住する建物の敷地(所有名義は母)内に、使用貸借契約で別棟(所有権は主人)を建て私ども家族が住んでいます。母は父の遺族年金が主たる収入ですが、それだけでは足りず預貯金を取り崩して生活しています。高齢なので何時相続が発生するか分かりませんが、相続が発生した場合に母が所有する宅地等について小規模宅地等の特例適用が受けられるかどうかアドバイスをお願いします。
残念ながらお話を伺う限り、お母様が居住されている宅地と貴方が居住している宅地の何れに就いても、小規模宅地等の特例適用を受けることが出来ません。適用が受けられる親族は、①一棟の建物に同居する親族 ②所謂家なき子である親族 ③生計を一にする親族 の何れかに限られます。貴方の場合は明らかに①及び②には該当しません。③が該当する可能性がありますが、お母様は年金収入と過去の蓄えで生活して居られるのであれば生計を一にしているとは言えません。

税務では、「生計を一にする親族」と言うフレーズが良く出てきます。身近なところでは、所得税の医療費控除や扶養控除、事業専従親族の必要経費特例の適用要件などがこれに該当します。“地方で一人暮らしの母親がいるが、非同居の老人扶養親族として48万円の控除を受けても大丈夫だろうか?余り仕送りはしていないが”と悩みながらも、確定申告ではしっかり控除を受けて居られる方も少なくないでしょう。
それは兎も角、今回は相続税で小規模宅地等の特例適用が受けられるかどうかに就いてのご相談です。

特例適用の対象となる特定居住用宅地等とは、被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等を言います。
Ⅰ.被相続人の居住の用に供されていた宅地等について特例適用が受けられるのは、被相続人の配偶者、又は被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族、又はこれ以外の一定の要件を充たす親族です。
被相続人の配偶者に就いては特段の適用要件が有りません。
同居親族ですが、相続開始の直前から申告期限まで引続きその建物に居住し且つその宅地等を相続開始時から申告期限まで有していることが必要です。
これ以外の親族に就いては次の6つの要件を全て満たすことが必要になります。
イ)制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者でないこと
ロ)被相続人に配偶者がいないこと
ハ)相続開始直前に被相続人の居住用家屋に居住していた相続人がいないこと
ニ)相続開始前3年以内に日本に在る取得者・その配偶者・取得者の3親等以内の親族または特別関係に有る法人が所有する家屋に住んでいないこと
ホ)相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前の何れの時においても所有したことがないこと
ヘ)相続開始時から申告期限までその宅地等を保有していること
⇒そうすると被相続人の居住の用に供されていた宅地等について議論の余地なく特例の適用が受けらるのは、被相続人の配偶者と同居親族と言うことになりそうです。因みに二世帯住宅に就いては子世帯の居住用宅地は親世帯の居住用宅地に含まれることになっています。家なき子については比較的簡単に事実関係が確認できますので、故意に偽って適用を受けるのは難しいと思います。
Ⅱ.生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等に就いて特例適用が受けられるのは、被相続人の配偶者、または被相続人と生計を一にしていた親族です。
被相続人の配偶者に就いては特段の適用要件が有りません。
生計同一親族ですが、相続開始前から申告期限まで引続きその建物に居住し且つその宅地等を申告期限まで有していることが必要です。
Ⅲ.生計を一にする親族に関する税務通達や判例について
”生計を一にする” については法令上の規定がなく 、国税通則法基本通達・所得税基本通達・法人税基本通達でその要件や意義が示されています。相続税関連の通達にはありません。
共通の概念としては有無相助けて日常生活の資を共通にしていることを言いますが、親族が同一の家屋に起居している場合は”明らかに独立して生活を営んでいると認められる場合を除き”生計を一にするものとして取扱われます。また所得税通達には、勤務・就学・療養その他の都合で日常の起居を共にしない場合であっても、”常に生活費・学資金・療養費等の送金が行なわれている場合は”生計を一にするものとして取扱う旨が明記されています。過去の判例を見ると、物理的な要素と経済的要素を総合的に勘案して判決が出されており、case by caseの様です。

 
*本稿は清文社発行の「生計を一にする要件の可否判断」の掲載記事を一部参照しています。
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