区分所有登記された二世帯住宅に係る小規模宅地等の特例適用について-生計を一にするか否かで可否判定が分れる

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二世帯住宅が建つ親所有の敷地について、相続により取得した子が小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、建物の所有をⅰ)親若しくは子による単独所有、又はⅱ)親と子による持分共有にして下さい。ⅲ)親と子の区分所有登記にしてはいけません。平成25年の税制改正で二世帯住宅に関する取扱いが変わってから、多くの相続税対策関連記事にはこう書かれています。基本的にはこれで間違いないのですが、如何なる場合も区分所有登記だと小規模宅地等の特例適用が受けられない訳ではありません。キーワードは、”区分所有登記”と”生計を一にする”の2つですが、特に後者に就いては事実関係が重要になります。

二世帯住宅には、住宅ローンを組む必要から親と子が区分所有登記をした物件が数多くあります。税制が変わったからと言って簡単に登記がやり直せる訳でもなく(注:区分所有登記から共有登記への変更は実務的にかなり面倒です)、頭を抱えて居られる方が少なくありません。今回は区分所有登記されている二世帯住宅に就いての適用関係を整理して見ましょう。
1Fに親世帯、2Fに子世帯が住み、夫々が居住する建物部分を区分所有している。敷地全体は親所有で、子所有の建物部分については地代を収受していない(使用貸借)との前提です。

①親と子が別生計であった場合
⇒親が居住する1F部分に対応する敷地、子が居住する2F部分に対応する敷地の何れも特例の対象にはなりません。
<親が居住する部分の判定>
特例が適用される特定居住用宅地等とは、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、配偶者又は一定の要件に該当する被相続人の親族が取得したものをいいます。一棟の建物が区分所有建物の場合は、被相続人の居住の用に供されていた1F対応部分のみが特例対象宅地等となり、被相続人の親族の居住の用に供されていた2F対応部分は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等には含まれません。
この場合に一定の要件に該当する親族として通常考えられるのは次の2ケースです。
イ.被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(政令で定める部分に限る)に居住していた親族
ロ.イ以外の親族で、相続開始前3年以内に相続人やその特殊関係者が所有する家屋に住んだことがなく,且つ相続開始前の何れに於いても居住用家屋を所有したことがない者
先ずイですが、一棟の建物が区分所有建物の場合は、被相続人の居住の用に供されていた1Fに居住していたことが必要ですので、子は同居親族としての要件に合致しません。
次にロですが、2F部分の建物を当該親族が所有しているため要件に合致しません。
<子が居住する部分の判定>
既述の通り2F部分は特例対象宅地等に該当しませんので特例の対象外です。

②親と子が同一生計であった場合
⇒親が居住する1F部分は特例の対象外です。親世帯と子世帯が同一生計で有ったかどうかは事実関係次第ですが、同一で有ったならば子が居住する2F部分に就いては特例の適用が受けられます。
<親が居住する部分の判定>
生計が同一ですので、親が居住する部分と子が居住する部分の何れも特例対象宅地等に該当します。当該宅地等を取得する親族の要件ですが、区分所有された二世帯住宅ですので、子は上記イの被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族には該当しません。子は2F部分を所有していますのでロの要件にも合致しません。
<子が居住する部分の判定>
当該宅地等を取得する親族の要件ですが、相続開始前から申告期限まで引続きその家屋に居住し、且つその宅地等を申告期限まで所有していることです。従って子はその要件を充たしていますので2F部分が特例の適用対象になります。

③生計を一にするか否かの判定基準
小規模宅地等の特例適用判定に関しては、しばしば生計を一にする親族に該当するか否かが議論になります。相続税には法令上の定義付けがないため、所得税基本通達2-47が解釈指針として準用される(所得税の規定なので其の侭相続税に適用される訳ではありません)ことがあります。同通達では2ケースに分けて生計を一にするの定義を行っています。同一の家屋に起居している場合とそうでない場合です。前者は生計同一親族で後者は生計非同一親族、大まかに言えばこれが判定の基本とされます。
但し杓子定規に運用すると齟齬が生じるため、前者に就いては、次の何れかに該当すれば別居親族であっても生計を一にするものとするとの特段の規定が設けられています。これを手前勝手に解釈して、実態は別生計にも拘わらず同一生計として特例適用を受けると税務調査で否認されることになり兼ねません。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
後者については、次の除外規定に該当すれば同居親族であっても生計を一にするものとはならないとの例外が示されています。
ハ.親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
これに関しては、別居親族が同一生計と認められるためにはその親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたことを要し、その判断は社会通念に照らして個々になされるところ、少なくとも居住費・食費・光熱費その他日常の生活に係る費用の全部又は主要な部分を共通にしていた関係に有ったことを要するとの裁決が国税不服審判所から出ています。生前に遡ってこれを客観的に立証するのは難しいかも知れません。
概念だけ聞けば簡単な話の様に思えますが、実務はかなり面倒で、解説書が一冊書ける程の内容です。今回は清文社発行の「税務における生計を一にする要件の可否判断」と東京税理士会報誌(vol.No778 TAINS解説)を参照しました。

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