贈与税の配偶者控除制度を利用した自宅売却に係る所得税負担の軽減策に就いてのご相談

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都内の一戸建てに住む76才と74才の夫婦です。子供が1人居り結婚して別所帯を構えています。現在は共に健康ですが、自分達で対応できる内に自宅処分を含む老後の資金対策を講じたいと思います。自宅処分に付いては、親から相続した土地なのでかなりの売却益が出ると思います。恐らく3千万円控除では収まらないでしょう。夫婦の何れかが亡くなった時は有料老人ホームへの入所を考えていますが、それも見据えた節税対策をご教示下さい。

 

婚姻期間が20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与については、特例で2千万円までが非課税になります。この贈与税配偶者控除制度を使ってご主人の土地・建物所有権のうち2千110万円相当(相続税評価額ベース)の共有持分を奥様に生前贈与されては如何でしょうか。この後にご自宅を売却すれば、夫婦夫々に居住用財産を譲渡した場合の特別控除(最大3千万円)が適用されます。相続税対策としても効果があります。仮に年齢順で先にご主人に相続が発生したとします。生前贈与した共有持分は奥様に移っていますので、その分ご主人の相続財産を減らすことが出来ます。因みに相続開始前3年以内の贈与に就いては相続財産への持ち戻し計算が必要ですが、贈与税の配偶者控除制度適用分に就いては対象から除外されます。

或る程度の財産をお持ちの方でも、現預金その他の金融資産は然程でもなく、やはりご自宅の不動産等の比重が高い様です。また戸建ての場合は夫婦何れかが亡くなられた後の維持管理の問題もあります。処分性が高い物件かどうかにも依りますが、自宅売却が老後資金調達の有力な選択肢の一つであることは確かです。

1.贈与税の配偶者控除とは
婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合は、基礎控除110万円の他に最高2千万円の控除が受けられます。相続税評価額で計算されるため、現金ではなく不動産の方が通常有利になります。その他の要件は、贈与の翌年3月15日までにその居住用住宅に住んで居りかつ引続き住む見込みであることです。同一配偶者からは、一生に一度しか適用が受けられません。居住用不動産の範囲ですが、専ら居住の用に供する土地・借地権・家屋で国内に在るものに限られます。居住用家屋の敷地だけを贈与することも出来ますが、その場合は①夫又は妻が居住用家屋を所有していること,或いは②贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有していることが必要です。

2.居住用財産を譲渡した場合の3千万円特別控除が二人分受けられる
居住用財産を譲渡したときは、所有期間の長短に拘らず譲渡所得から最大3千万円が控除出来ます。住まなくなった家屋や敷地の譲渡に就いては、住まなくなった日から3年を経過する日が属する年の12月31日迄の譲渡が条件になります。売手と買手が親子や夫婦など特別な関係にある場合は適用が受けられません。但しこれは譲渡に関しての制限であり、誰から取得したかについての制限はありません。
土地は御主人が親から相続により取得したものなので、取得時期及び取得価額は親のそれを引継ぎます。一方奥様は御主人から贈与により取得しますので、ご主人の取得時期及び取得価額を引継ぎます。結局の処は、ご主人と同一(ご主人の親の取得時期と取得価額の引継ぎ)になります。相続による土地の取得に就いては取得費を正確に把握することが困難です。取得時期は全部事項証明書(登記簿謄本)を溯って行けば、正確に把握することが出来ます。筆者の理解では昭和30年代半ば以前の取得であれば、実際の取得費が概算取得費控除(今回の譲渡価額の5%相当を取得費と見做す方法)以下になるケースが殆んどです。そうすると土地の売却代金の過半が利益になるため、3千万円の特別控除に収まらないケースが多くなります。
次に共有名義の居住用財産を譲渡した時の3千万円特別控除の取扱いですが、各共有者夫々に適用が受けられます。夫婦合計の最大控除額は3千万円ではなく、6千万円になります。これが対策の味噌です。

3.相続税対策としての得失
改めてご説明するまでもなく、ご主人の相続財産が減少します。付随的に奥様の老後資金を、ご主人の相続財産から無税で移転することが可能です。一方、居住用不動産であれば小規模宅地等の特例の適用に依り8割の評価減が受けられるのだから、相続税評価額の2割相当の節税効果しかないとお考えの方も居られるでしょう。第一次相続での奥様の配偶者税額軽減(1億6千万円まで非課税)に納まれば尚更のことです。その通りで、これ等の適用如何にも依りますが一義的には譲渡所得税対策と言うことになります。

 
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