1.不動産管理会社の設立方式
①不動産所有方式
個人が所有する賃貸不動産の権利を不動産管理会社へ譲渡する方式です。法人に事業の実態が備わりますので対税説明は容易になります。法人・個人間の主な収支は地代と役員給与です。
個人に譲渡所得が発生しますので、これを極力抑えなければなりません。同時に法人の購入資金をどう調達するかの問題もあります。一般には建物だけを譲渡して、土地は個人オーナーに残すことが行われます。役員個人と法人間の不動産売買は、適正時価で行われることが必要です。時価未満ですと法人に受贈益、個人には見做し譲渡課税が発生します。逆に時価超過の場合は法人に役員給与(損金不算入)、個人に給与所得課税が発生します。3つの選択肢の中では最もポピュラーな設立方式と言えます。
②管理委託方式
賃貸不動産の所有権は全て個人に残し、管理業務を不動産管理会社に委託する方式です。単なるペーパーワークで法人に事業の実態がなければ、個人の管理委託費支払や法人の役員給与が問題にされる場合があります。個人から法人への所得移転に係る節税効果も小さいので、税理士としては余りお薦め出来ません。
③サブリース方式
不動産管理会社に個人所有の賃貸不動産を一括賃貸し、不動産管理会社が外部のテナンントに転貸する方式です。不動産管理会社が空室リスクや賃料下落リスクを負います。物件の維持管理やテナント募集・クレーム対応も不動産管理会社が行います。サブリース料は、外部賃料の見込み額から、テナント交替に係る修繕費や募集などに要する経費とリスクプレミアムを控除した残額に、不動産管理会社の適性利潤を載せて算出します。サブリース専業会社の相場ですが、契約内容にも拠るものの(殆んどの契約に賃料見直し条項があります)概ね外部賃料の8割と言った処です。
2.不動産譲渡所得と借地権認定課税
先にご説明の通り賃貸建物の売買価額としては、特段の事情がない限り個人の不動産所得で申告した譲渡時の未償却残高が用いられます。そうすれば譲渡損益が発生せず、また適正な売買価額として是認されます。
土地の所有者と建物の所有者が異なる場合、借地権の認定課税が生じることがあります。地主が個人、借地人が法人であれば法人側に認定課税が生じます。地主である個人への見做し譲渡課税はありません。これを回避する方法には2通りあります。一つは「相当の地代」を収受する方法、もう一つは借地権者と底地権者が連名で「土地の無償返還に関する届出書」を提出する方法です。
相当の地代とは次の算式で求められる地代のことで、これを収受していれば借地権の認定課税はありません。
(自用地としての相続税評価額 -収受した権利金等の額)X概ね年率6%
もう一つの地主と借地権者の連名で無償返還の届出を出す方法ですが、一般には此方の方が多く用いられます。これで借地権の認定課税はなくなりますが、不相当に低い地代しか収受していない場合は、地代に就いての認定課税が行われることがあります。
3.役員や使用人給与
勤務の実態がない同族株主の親族等への給与支払は、税務調査で否認されることがあります。特殊関係者への支出ですから、具体的な役務内容が説明出来なければいけません。
給与水準は会社の経営状態や役務内容に照らして妥当性が判断されますが、不動産管理会社で高額役員報酬と認定されるケースは多くありません。そもそも個人オーナーの所得税負担軽減のために法人化する訳ですから、過大な役員報酬を取ること自体が本末転倒になります。
4.相続税負担
被相続人が賃貸不動産を所有していた場合、土地は貸家建付け地、建物は貸家として評価減の適用を受けます。法人所有でも、純資産価額方式により非上場株式の課税価格を計算するときは、土地・建物を相続税評価額で計算しますので、貸家建付け地や貸家としての評価減の適用がある点は同じです。
次に小規模宅地等の特例ですが、個人所有であれば貸付事業用小規模宅地等として適用があります。法人所有の場合ですと適用がありません。一方賃貸不動産の含み益については、得失が逆になります。個人所有の場合は含み益が何も考慮されませんが、法人所有ですと純資産価額方式による非上場株式の評価において、含み益の37%の法人税等相当が評価額から控除されます。
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