永住権をお持ちの中国籍の方から、中国に在るマンションの売却は帰国後・帰国前の何れが有利かとのご相談

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私は日本の永住権を持つ中国籍の会社員です。在留期間は15年になります。不動産高騰の折柄、中国に所有するマンション(親族に無償貸与中)の売却を考えています。中国では「満五唯一(満5年所有、唯一の住宅)」に該当すれば所得税が免除されます。一方日本でも居住者として、譲渡所得の申告をする必要があると認識しています。ところがこの物件に関しては、①20年前に亡夫が購入したもので取得費が分からない②3千万円特別控除等の優遇措置の適用が受けられないため、多額の税負担が発生するのではと懸念しています。そこで元々考えていたことでもあり、中国へ帰国後に本物件を売却すれば、非居住者として日本では課税されなくなるのではと思いますが間違いないでしょうか。もし正しければ、日本の居住者から非居住者へ変わるための条件や、帰国時期その他の留意点について有料で相談に乗って頂けないでしょうか。宜しくお願いします。

 

中国への帰国と共に貴方は日本の非居住者になります。非居住者に対する日本の所得税の課税対象は国内源泉所得のうち一定のものに限られて居り、中国に在るマンションの売却益には課税されません。中国での所得に対する主な税金は、個人所得税と土地増値税です。増値税に付いては不動産販売業者ではないため対象外です。個人所得税と土地増値税に付いては、満五唯一の要件を満たしていれば、普通住房であるか否かを問わず免税扱いになります。そうすると貴方の目論見通り、日中何れでも課税されないと言うことになります。ここで注意が必要なのは、日本での課税を免れるために非居住者を偽装しているのではないかと疑われる懸念です。この点に関しては「住所の推定」規定などを念頭に慎重に対処する必要があります。

1.日本での課税
①日本の居住者として中国の不動産を売却する場合
日本の居住者には2通りあります。非永住者と非永住者以外の居住者です。非永住者とは日本国籍を持たず、且つ過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下の個人を言います。貴方は日本国籍を持っていませんが、過去15年間日本に在留していますので、非永住者以外の居住者に該当します。つまり殆どの日本人と同じ扱いです。
非永住者の課税対象は、国内源泉所得と国外源泉所得のうち国内払い又は国内に送金されたものです。非永住者以外の居住者の課税対象は全ての所得になります。
相続で取得したマンションで取得費が分からないとのことですが、日本の物件とは異なり推計取得費を算定するのは困難です。従って売主に問い合わせるか現地不動産会社等の精通者の意見を聴する他に手がありません。これも難しい様でしたら、概算取得費控除(売却価額の5%)で申告することになります。尤も過去の中国不動産の高騰からすれば、存外に実際取得費と大差ないかも知れません。取得時期は被相続人の取得日を引き継ぎます。よって長期譲渡所得として、国税・地方税合計で20.315%の税率が適用されます。
②日本の非居住者として中国の不動産を売却する場合
非居住者とは居住者以外の個人、即ち国内に住所を有しない者又は引続き1年以上国内に居所を有しない者を言います。課税対象は、国内に在る土地の譲渡や賃貸による所得・国内に在る資産の譲渡や運用等による所得・一定の利子配当その他の国内源泉所得に限定されます。中国に在るマンションの譲渡による所得は国外源泉所得なので非課税になります。
2.中国での課税
中国の居住者であると非居住者で有るとを問わず、中国在の不動産を売却して利益を得た個人には個人所得税と土地増値税が課されます。課税標準は前者が譲渡所得(譲渡収入ー取得価額ー譲渡費用)で後者が付加価値額(譲渡収入ー一定の控除項目金額)、適用税率は前者が20%の単一税率(差額課税の場合)で後者が30~60%の4段階超過累進税率です。二手房(中古住宅)取引は住房と非居住に分類され、更に住房は普通住房と非普通住房に細分のうえ所有期間と持家軒数に応じた税率と免税措置が適用されます。住房であれば普通住房・非普通住房ともに、所有期間が5年以上で且つ唯一の居住用家屋であれば免税になります。非居住家屋に付いては免税措置がありません。貴方のケースは満5年家庭唯一ですので、免税措置が受けられます。
3.居住者・非居住者の判定
ご相談者は2-3年後には再度来日したいとのご意向です。社会人の息子さんが日本に残るためです。こうなると少し話がややこしくなります。
所得税法では、判定の基礎となる住所とは、個人の生活の本拠を言い、生活の本拠かどうかは客観的事実によって判定するものと定められています。一定の場合には、職業などを基に「住所の推定」を行いますが、この一定の場合に国内に住所を有さなくなる以下のケースが該当します。イ又はロの何れかに該当すれば国内に住所を有さない者と推定されます。
イ. その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
ロ. その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと
そうするとご相談者のプランはロに抵触する懸念があります。社会人の息子さんは、被扶養者でなくとも生計同一親族の可能性があります。再度国内に戻れば絶対にダメと書いている訳ではなく、その様に推測する事実があるかどうかで判断される様ですので、帰国時期や理由に付いては慎重に検討する必要があります。
4.日中租税条約のチエック
第4条(締約国の居住者)第1項には、” 一方の締約国の居住者とは、当該一方の締約国の法令の下において、住所・居所により当該一方の締約国に於いて課税を受けるものとされる者をいう”と明記されています。
第6条(不動産に係る所得)第1項には、” 一方の締約国の居住者が、他方の締約国に存在する不動産から取得する所得に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる”と明記されています。
これ等の租税条約の規定は、日中の各国内法の規定と合致していますので、租税条約に拠り別段の取扱いがされることはありません。
 
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