自宅(特定居住用宅地等)とアパート(貸付事業用宅地等)の両方が有る場合の小規模宅地等の特例に関するご相談

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86才の父が他界しました。相続人は同居していた弟と姉の私(別世帯)の2人です。母は3年前に亡くなっています。主な相続財産は実家の敷地内に建つ自宅(地積180㎡、相続税評価額113百万円)と賃貸マンション(同250㎡、125百万円)で、この他に金融資産が1.2億円程あります。小規模宅地等の特例の適用を受けたいと思いますが、どの様に遺産分割をすれば宜しいでしょうか。また相続税の支払いは足りるでしょうか?

 

先ずご自宅の敷地(特定居住用宅地等)に特例の適用を受けるのが有利です。特定居住用宅地等に就いては取得する親族の要件が厳しく、この場合に適用が受けられるのは被相続人と同居していた弟さんのみです。次に面積制限に余裕がありますので、賃貸マンションの敷地(貸付事業用宅地等)のうち91㎡に就いても併用して特例の適用が受けられます。後者の適用要件ですが、①事業承継の要件と②保有継続の要件さえ充たせば良く、取得者たる親族に就いては特段の要件がありません。従って貴方又は弟さんの何れが相続しても適用が受けられます。同一敷地内に在ると言うことなので、今後の維持管理を考慮して弟さんが全ての不動産を相続することも考えられます。この場合貴方と弟さんの取得財産に多額の不均衡が生じますが、この是正には代償分割を検討されては如何でしょうか。ご懸念の相続税ですが総額はざっと47百万円+アルファと試算されますので、1.2億円の金融資産があれば充分支払可能です。

先日税理士会目黒支部の納税者支援センターにご相談に来られた方の事例ですが、世の中には恵まれた方が数多く居られる様です。それはさて置き、遺産中に自宅とアパートの敷地の両方が有る相続は珍しいことではありません。今回は複数の小規模宅地等の特例対象宅地等が有る場合の対処方法について分かり易くご説明します。

1.相続開始の直前における宅地等の利用区分の確認と、特例適用対象宅地等が複数ある場合の有利選択
  特例の適用対象となる宅地等は大きく、被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族を言う)の居住の用に供されていた宅地等と、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等とに分類されます。被相続人の自宅の敷地に供されていた宅地等は前者に該当し特定居住用宅地等と言います。アパートの敷地の用に供されていた宅地等は後者で貸付事業用宅地等と言います。減額割合は前者が330㎡迄の面積を限度として80%、後者が200㎡迄の面積を限度として50%になります。特例対象宅地等が複数あった場合の選択のルールですが、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が2以上ある場合は被相続人等が主として居住の用に供していた1の宅地等が特定居住用宅地等になります。任意に選択することは出来ません。
対して被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等が2以上ある場合は①事業承継の要件及び②保有継続の要件を充たす限りに於いて任意に選択できます。従って地価の高い処から優先適用するのが得策です。ここで言う貸付事業とは、不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業に限定されています。事業と称するに足りないこれ等に類する貸付も(不動産貸付で言えば5棟10室未満の規模)も準事業として貸付事業に該当します。なお相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として適用対象から除外されます。
駐車場業に就いては、コインパーキング駐車場やアスファルト塗装が施されたものなど一定の構築物の設置が必要です。所謂青空駐車場には認められません。砂利敷き駐車場は一定の構築物に該当しまが、経年で砂利が地面に埋もれている様な状態の場合は、構築物として認められないことがありますのでご留意下さい。
2.自宅敷地とアパート敷地に併用して適用する場合の面積制限
特例を選択した宅地等のうちに、貸付事業用宅地等とそれ以外の宅地等が有る場合の適用対象となる限度面積は次の様に計算します。
AX200/300+BX200/400+C≦200㎡
 A:特定居住用宅地等の面積の合計額
 B:特定事業用宅地等の面積の合計額
 C:貸付事業用宅地等の面積の合計額
この算式の中で最も有利な組み合わせを考えれば良い訳ですが、本件の場合はAについて最大限の適用を受け、残余をCに適用するのが得策です。具体的に計算すると次の様になります。
特定居住用宅地等180㎡X200/330+貸付事業用宅地等91㎡=200㎡
.代償分割制度
遺産分割の原則は、遺産を現物のまま分割する現物分割です。現物分割が困難な場合には、共同相続人等の1人又は数人が遺産の現物を取得し、他の共同相続人に対して債務を負担する方法が採られます。これが代償分割です。
代償分割の問題点の一つに当該財産の評価方法があります。一般的には相続時の時価を基にしますが、相続税評価額を主張される方も居られるため屡々紛議になることがあります。
債務負担の方法としては現金による支払いが一般的ですが、十分な手持ちがない場合は自己が所有する上場株式等を処分することがあります。この場合は負担者に想定外の譲渡所得税が発生します。手持ち現金で支払ったとしても、代償債務の金額が当該相続財産の相続時の時価を基に決定されている場合は、代償債務の金額を時価から相続税評価額に換算のうえ負担者・受取人の課税価格を再計算する必要が有りますのでご留意下さい。
 
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