平成30年度税制改正で、特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例適用要件の厳格化が図られました。
更に平成31年度税制改正で特定事業用宅地等に就いても同様主旨の見直しが行われましたので、新たに項目3を設けてご説明致します。
1.特定居住用宅地等の特例適用に関する規制
<概要>
特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例適用に付いては、(1)当該宅地等が被相続人等(被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族を言う)の居住の用に供されていたこと、(2)当該宅地等を被相続人の配偶者又は、次に掲げる要件の何れかを満たす被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したこと、の両方に該当することが必要です。
この内被相続人の親族の要件ですが簡単に言えば、①被相続人と一棟の建物に同居していた親族/ ②相続開始前3年以内に自己又は自己の配偶者が所有する家屋に住んだことのない別居親族/③その宅地等を相続開始前から自己の居住の用に供していた生計同一親族 の3パターンがあります。今回の改正は、この内②の「家なき子」と呼ばれる親族の要件(措置法第69条の4③二ㇿ)についての厳格化が行われました。
家なき子特例は、被相続人に配偶者又は同居相続人がいる場合は使えません。連れ合いに先立たれた一人暮らしの親に二次相続が発生した場合、借家暮らしの子供が相続することを想定した制度ですから、必要最小限の要件しか課していません。ところがこうした配慮が裏目に出て、制度の主旨を逸脱した節税策が横行しています。
具体的にどの様な節税策が行われているのでしょうか。相続開始前3年以内に親族又はその配偶者が所有する家屋に住んでいなければ良い訳ですから、” 相続人たる子ではなく、未成年者の孫に特定居住用宅地等を遺贈する ” とか ” 持家に住んでいる相続人が兄弟や子に自宅を譲渡して家なき子となり、譲渡後は使用貸借により住み続ける” とか言ったことが行われます。こうした不合理な行為は制度本来の趣旨に沿ぐわないため、平成30年度税制改正で次の様な措置が講じられました。然しながらこれでも完全な節税封じとは言えず、鼬(イタチ)ごっこが続く可能性があります。
<改正内容>
持家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の適用対象者から、次のイ又はㇿに該当する者を除外します。
イ.相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別な関係がある法人が所有する国内にある家屋に居住していたことがある者
ㇿ.相続開始時において居住の用に供している家屋を過去に所有していたことが有る者
上述の未成年者の孫への贈与であればイに該当し、特殊関係者への譲渡であればロに該当しますので、今後この種の節税策は排除されます。
改正内容は平成30年4月1日以降の相続又は遺贈について適用されますが、下記の経過措置が設けられていますので注意が必要です。
<経過措置>
経過措置① 平成30年3月31日時点で現行要件を満たす場合は、平成32年3月31日までの相続等について現行要件が適用されます。つまり平成30年4月1日から平成32年3月31日までに生じた相続については、平成30年3月31日時点に相続が有ったものとした場合に現行の家なき子の要件を満たす宅地等(経過措置対象宅地等)であれば特例の適用が受けられると言うことです。
経過措置② 平成32年3月31日時点で被相続人の自宅が立替中の場合は、同居親族と見做して特例の適用があります。これは平成32年3月31日時点で経過措置対象宅地等の上で新築・増改築工事が行われて居り、その工事完了前に相続が発生した場合は、その敷地を取得した親族が相続税申告期限までに当該建物に居住すれば、同居親族の要件を満たすものとして特例の適用が受けられると言うことです。
2.貸付事業用宅地等の特例適用に関する規制
<概要>
貸付用不動産は流通物件数が多く、手頃な金額で購入でき且つ売却も容易です。貸家の評価減及び小規模宅地等の特例が受けられるため、相続直近に現預金や上場株式等を賃貸不動産に替えて節税を計る向きが少なくありません。例えば相続開始直前にタワーマンションを購入して賃貸に出し、相続税の申告期限が過ぎれば即売却すると言ったやり方です。
<改正内容>
こうした駆け込みの相続税対策を規制するため、貸付事業用宅地等の範囲から相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等が除外されます。但し相続開始前3年を超えて事業的規模(5棟10室基準)で貸付事業を行っている者が、これに該当する場合は規制の対象から外れます。事業的規模の貸付けを特定貸付事業と言います。因みに被相続人が、その死亡前3年以内に先代が特定貸付事業の用に供していた宅地等を相続等により取得していた場合は、先代の特定貸付事業を行っていた期間を含めて3年の判定を行います。
今回の改正は、平成30年4月1日以降の相続または遺贈から適用されます。
<経過措置>
平成30年3月31日以前から貸付事業の用に供されていた宅地等については上記の規制は適用されません。
3.特定事業用宅地等の特例適用に関する規制
<改正内容>
特定事業用宅地等の範囲から相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等が除外されます。
3年以内に当該宅地等の上で事業の用に供されていた減価償却資産(建物その他)の価額が、当該宅地等の相続時の時価の15%以上である場合は特例が適用されます。また被相続人が相続開始前3年以内に開始した(一次)相続により特定事業用宅地等を取得し、且つ取得以降引続き事業の用に供している場合は、”新たに事業の用に供された宅地等”に該当しません。
個人事業者の事業用資産に係る相続税の納税猶予制度の適用を受けた特定事業用宅地等に就いては、小規模宅地等の特例の適用が受けられません。
<経過措置>
この改正は平成31年4月1日以降に相続又は贈与により取得する財産に就いて適用され、同日前から事業の用に供されていた宅地等には適用されません。
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