米国在住の非居住者が日本国内の銀行に保有するドル預金口座で発生した為替差益に係る所得税申告のご相談

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親族(米国の居住者)が邦銀の非居住者預金口座に米ドルを保有しています。今般の円安に伴いドル預金を円に転換することを検討中です。2007年に預入れした普通預金と定期預金で、含み益が15百万円程度になっています。国内源泉所得に該当すると思うのですが、雑所得としての申告が必要なのか、日米租税条約との関連がどうなのか、この辺りに就き御指導を頂けると助かります。ネット上には色々な情報がありますが、こちらのサイトが正確な記述になっていると思い連絡させて頂きました

 

結論から申し上げますと、日米租税条約の規定に拠り米国居住者たるご親族は日本での所得税申告の必要がありません。ご質問に関する幣見を別紙の通り纏めましたのでご参照下さい。WEB情報云々とありましたのでざっと閲覧しましたが、殆どが居住者の為替差益に就いての日本の所得税法に基づく一般的な解説記事です。この限りにおいては、特段的外れな記事はなかった様に思います。個別事案で非居住者の日本源泉所得に関する納税義務を判定するに当たっては、当該二国間租税条約を精査する必要があります。日米租税条約はOECDモデル条約を基に二国間の個別事情を勘案して書かれていますので難解ですが、判定にはこの作業が不可欠です。

1.所得税法の規定
以下の規定の通り非居住者は当該為替差益に就いて日本で所得税申告を行う必要があります。
(納税義務者)
非居住者は、次に掲げる場合には、この法律により、所得税を納める義務がある。
一 第百六十一条第一項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得を有するとき。
(国内源泉所得)
二 国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得(第八号から第十六号までに該
  党するものを除く)
(課税の方法)
非居住者に対して課する所得税の額は、次の各号に掲げる非居住者の区分に応じ当該各号に定める国内源泉所得について、次節第一款(非居住者に対する所得税の総合課税)の規定を適用して計算したところによる。
二 恒久的施設を有しない非居住者 第百六十一条第一項第二号、第三号、第五号から第七号まで及び第十七号に掲げる国内源泉所得
⇒総合課税の雑所得として申告する。
(非居住者の所得に関する源泉徴収)
非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
⇒第161条①二の国内源泉所得は源泉徴収の対象から外れています。
(為替差損益の計算方法)
為替差損益は、上場有価証券の取得費の計算と同様に「総平均法に準ずる」方法で計算します。出金の都度為替レートの変動計算を行う必要が有りますので、実務計算はかなり煩瑣です。加えて預金利子入金も加味せねばならず、源泉徴収などの調整計算も行う必要があります。小職のお客様についても、普通預金の為替益を申告したと言う話は聞いたことがありません(=物理的にできない)。私見ですが税務署もこれに課税することはなかろうと思います。
定期預金ですが、預入期間中の出し入れが原則ないため、手作業乃至エクセル計算で総平均法に準ずる方法により補足可能と思います。
入出金時の為替レートに何を用いるかですが、当日のTTM/TTS又はTTB/実際の決済円価額の3通りが考えられます。所得税法基本通達57の3の2に依ればTTMが原則になりますが,不動産所得や雑所得を生ずべき業務に係る外貨建て取引に就いては特例でTTS又はTTBが認められています。然しながら本件は業務に該当しません。実際の円価額が分ればこれを基に計算することも可能です。
2.新日米租税条約の規定
以下の通り米国居住者の当該為替差益に課税できるのは米国のみなので、日本で所得税申告を行う必要はありません。因みにその他の所得の条項は旧条約にはなく、新条約で新たに付け加えられた規定です。
第二十一条(その他の所得) 1項
”一方の締約国の居住者が受益者である所得(源泉地を問わない。)で前各条に規定がないもの(以下「そ の他の所得」という。)に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる” と定められています。但しその所得が源泉地国に有するP/Eと実質的に関連がある場合は、源泉地国で課税されます。
3.国内法と租税条約の規定が異なる場合の取扱い
この場合に日本では租税条約の規定が優先適用されることになっています。従って日本での申告は必要がありません。因みに米国では立法の新しい規定が原則として優先適用されます。
(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)
第百六十二条 租税条約(第二条第一項第八号の四ただし書(定義)に規定する条約をいう。以下この条において同じ。)において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる。この場合において、その租税条約が同条第一項第六号から第十六号までの規定に代わって国内源泉所得を定めているときは、この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その租税条約により国内源泉所得とされたものをもつてこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす。
4.租税条約に関する届出・特典条項に関する届出
日本で租税条約の特典を受けるためには「条約届出書」の提出が必要で、且つ米国居住者に就いては納税者番号の記入や納税申告証明書の添付が求められます。ところが条約届出書様式1~10には、所得税法第161条①二号(国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得)に該当するものが見当たりません。従って本件は提出の必要がないものと思料します(筆者私見)。
 
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