公益法人等への相続財産の遺贈や寄付による節税対策には以下の2つのアプローチがあります。
1.相続税の非課税財産にする方法
相続または遺贈により財産を取得した人が、相続税の申告期限までに相続財産などを国等に寄付した場合は寄付財産が非課税になります。
国等とは、国・地方公共団体・公益社団(財団)で教育や科学の振興/文化の向上/社会福祉への貢献に寄与するもの「特定の公益法人」を言いますが、適用は申告期限までに設立済みのものに限られます。但し財産を取得した人や特別な関係がある人の相続税または贈与税の負担を不当に減少する結果となる場合は相続税の課税価格に算入されます。
このほか相続財産を申告期限までに特定公益信託の信託財産とするために支出した場合も非課税扱いになりますが、これに就いては相続財産が金銭に限定されています。
2.法人への遺贈により受遺側が相続税の納税義務者から外れる方法
(1)相続税の納税義務者
相続税の納税義務者は個人(自然人)ですが、例外的に個人以外を個人と見做して相続税を課する場合があります。それは代表者又は管理者の定めがある人格のない社団等(PTA/同族会など)への遺贈と、持分の定めのない法人(一般社団法人/一般財団法人/学校法人/社会福祉法人など)への遺贈の2つです。前者は全ての場合に適用されますが、後者は遺贈者の特別関係者の相続税負担が不当に減少する結果となる場合にのみ適用されます。これ以外の法人に就いては相続税の納税義務者になることはありません。但し次項(2)の法人税が課される場合があります。
(2)受遺者への法人税課税
受遺者たる法人に就いては、無償による資産の譲受に伴う収益が時価相当額で益金に算入されます。但し公益法人等については収益事業から生じる所得についてのみ法人税が課されます。なお収益事業とは、販売業その他33種類の事業で、継続して事業場を設けて行われるものを言います(法法第2条十三号)。従って公益法人等への遺贈に就いては原則として相続税も法人税も課されないことになります。
3.遺贈者に対する譲渡所得課税
(1)法人への贈与や遺贈に係る譲渡所得(所法第59条②)
贈与(法人に対するものに限る)又は遺贈(法人に対するものに限る)により、居住者が有する資産の移転があった場合には、その事由が生じた時の価額により資産の譲渡があったものと見做してその者の譲渡所得の金額を計算する。従って下記(2)の除外規定が適用される場合を除き、遺贈者の相続人は準確定申告書を提出して値上がり益相当分の所得税を納める義務がある。
(2)贈与等があった場合の譲渡所得の非課税規定(措置法第40条)
ⅰ)国又は地方公共団体に対し財産の贈与または遺贈があった場合には、所得税法第59条②の規定を適用しない。
ⅱ)公益目的事業を行う法人(外国法人を除く)に対する財産(国外にある土地を除く)の贈与または遺贈で、教育や科学の振興・文化の向上・社会福祉への貢献その他に著しく寄与するものであること、贈与または遺贈から2年以内に公益事業の用に供されることに就き国税庁長官の承認を受けたものについては、所得税法第59条②の規定を適用しない。
4.土地の所有権放棄制度の創設
令和3年の通常国会に提出が予定されている民法・不動産登記法の改正案には、土地所有権の放棄制度が導入される見込みです。買い手や借り手が見つからない所謂負の土地の所有権放棄ですが、現在の処は認められていません。改正案では一定の要件を満たす土地に就いては国に所有権を移し、相続人が固定資産税を上回る管理料を負担することで所有権放棄を認める方針です。この場合に相続税の非課税規定や譲渡所得の非課税規定がどうなるかは不明です。
土地所有権放棄と言っても相当額の管理料支払いが必要ですので、負の土地に係る経済負担から完全に免れると言う都合の好い話にはならない様です。
ご相談者の事例に就いては、公益法人等に相続税及び法人税が発生せず、且つ遺贈者にも所得税が発生しないことが前提になろうかと思いますので、かなりハードルが高いものと思料致します。
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