法人化によるメリットとしては、税負担の軽減効果・社会保険料負担の軽減効果そして相続税対策上の得失が挙げられます。
1.税負担の軽減効果
(1)個人事業主に適用される超過累進税率よりも中小法人に適用される優遇税率の方が低い
各種所得控除後の課税所得金額を8百万円として、東京都の場合で両者の税負担を比較してみましょう。個人の所得には所得税・復興特別所得税・住民税・個人事業税が課せられます。東京都の場合はこれ等の表面税率の合計が28.6%になります。法人の所得には法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・地方法人特別税(平成31年度税制改正で地方法人事業税に改組)が課せられます。これ等の表面税率の合計は23.6%です。法人化により約40万円の税負担が軽減されます。
(2)親族等への給与支給により、所得の分散効果と給与所得控除の適用が受けられる
親族等への給与支給に損金性の問題がなければ、受給者1人当り最低でも65万円(令和2年分以降は55万円)の給与所得控除が受けられます。また所得の分散効果で、より低い累進税率が適用されます。
2.社会保険料負担の軽減効果
(1)社会保険料の算定基礎額が総所得金額から標準報酬月額に変わるので調整が可能になる
個人事業主は国民健康(年金)保険に加入しますが、保険料算定の基礎となるのは総所得金額です。無闇にこれを調整することは出来ません。一方、法人の役職員は強制的に健康(厚生年金)保険への加入が義務付けられています。保険料の算定基礎は標準報酬月額(年額)ですから、給与や賞与の支給水準で調整することが可能です。法人税法には役員給与について定期同額給与等の損金算入要件が定められていますが、給与水準をどの程度にするかは法人が任意に決定できます。
(2)第三号被保険者となる配偶者や、子など被扶養者の保険料負担がなくなる
国民健康保険には被扶養の考え方がありません。各世帯の加入者の収入や年齢がトータル保険料に影響します。これに対し健康保険では、配偶者や被保険者により生計を維持されている3親等内親族は被扶養者になります。これ等の者の収入(上限あり)や年齢は保険料に影響しません。
3.相続税対策上の得失
(1)相続財産評価は不動産賃貸会社の設立方法に拠り得失が分れる
不動産賃貸事業の法人化に当っては、土地・建物の所有権を法人に移すか或いは個人に残すかの選択が必要です。これに就いては土地建物とも個人に残すことをお薦めします。
不動産を法人に移せば、直接所有の不動産の評価から非上場株式の評価へと変わるので、何か相続税対策になるのではと勘違いされる方がおられますが、土地保有特定会社については保有不動産を相続税評価額で計算した純資産価額を基に株式の評価額を計算することになっています。
(2)相続財産の分割が容易になる
相続財産に占める自宅や賃貸不動産の割合が大きい相続の場合、遺言書を作成したとしても遺留分の減殺請求等で不動産の換金が必要になることが有ります。先の民法(相続法)改正で、遺留分権者は現金での支払いを求めることが原則になったため更にその可能性が増えました。こうした場合に賃貸不動産(土地・建物とも)を法人に移管しておけば、株式の一部譲渡(或いは持分の一部譲渡)により対応が可能です。
法人化によるデメリットとしては、会計処理や税務申告に手間がかかることが挙げられます。会計ソフトを利用して或る程度は自計化するにしても、法人の申告業務は専門家に委任することが必要になるため税理士報酬が発生します。
法人設立には一時費用が掛かります。株式会社の場合ですと公証人手数料5万円・登録免許税15万円・謄本手数料や印鑑作成料1万円等で約21万円になります。この他に印紙税4万円が掛りますが、電子認証であれば不要です。これに対し合同会社の場合は、公証人手数料や謄本手数料がありませんので、登録免許税の6万円だけで済みます。印紙税4万円については株式会社と同様です。機能面での不都合はありませんので合同会社で充分かと思います。
この他のデメリットとしては、法人に余剰資金が発生しても家事用に流用することが難しくなります。個人と法人のお金は明確に区分しなければなりません。家事費の法人への付け替えは、損金不算入の役員給与と認定される場合があります。
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