中国に在る不動産を譲渡された方から日本の所得税の確定申告のご相談

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日本の永住権を持つ中国籍の主婦です。昨年上海市に在るマンションを売却しました。私の親族が居住の用に供していたもので、所有期間は10年です。中国での申告及び納税は既に終わっていますが、先般所轄の税務署から日本での確定申告がどうなっているか問合わせを受けました。どうやら日本での確定申告を失念していた様です。申告漏れに就いてはペナルティ―が課せられるそうなので不安です。どうすれば良いでしょうか?因みに昨年度の不動産売却以外の収入は、夫の会社からの非常勤役員給与だけで、これは年末調整で完結しています。

 

既に昨年分所得税の確定申告期限は徒過していますので、速やかに期限後申告書を提出する必要があります。日中の二重課税については、確定申告書に外国税額控除を受けるための必要事項を記載し、且つ外国所得税額が課せられたことを証する書類を添付すれば二重課税の一定部分が排除されます。期限後申告であっても外国税額控除が適用可能であることに御留意下さい。ペナルティーですが、期限後申告なので無申告加算税と延滞税が課せられます。国外財産調書が未提出の場合は加算税率に5%が加重されます。

中国での不動産取引に関連して日本で所得税の確定申告を行うに当っては、現地の不動産関連法制や実務慣行を正確に理解して置くことが重要です。
中国では土地についての私有が認められず、土地は全て国有地又は農民集団所有地になります。都市部の大部分は国有地です。一方建物には私有が認められていますが、その敷地の利用には国有土地(建設用地)使用権の譲渡を受ける必要があります。使用権の年数は用途毎に、40年~70年と定められていますが、居住用地は70年で住宅が存在する限り満期時の自動更新が認められています。中国の土地使用権は日本の通常の借地権と異なり物権で、設定や権利移転を受けた場合は登記が必要となり産権証(日本の登記済権利証に相当)が発行されます。中国の不動産譲渡は、土地使用権(物権)付き建物の譲渡であることを良く理解して、日本での確定申告に臨む必要があります。不動産譲渡所得の計算に当たっては、非減価償却資産である土地等と減価償却資産である建物とに分けて、取得費を計算しなければなりませんが、内訳が分らないことが多く実務的に面倒です。建物の取得費を求める際の減価償却費ですが、戸建て(庭園付住宅)は木造ではなくレンガ造りが多いので耐用年数の適用には注意が必要です。

二手房(中古住宅)の売買契約書は、政府の管理監督下にある中古住宅取引サービスプラットホームのWEB上で締結しなければなりません。この際の成約価格は地域毎に定められた中古指導価格以下であることが必要です。中古指導価額の単価と成約価額総額が一定範囲に収まっていれば、普通住房の売買として後述する税制上の恩典が受けられます。
実務慣行として中古住宅取引には陰陽契約が存在することが珍しくありません。表向きのWEB成約価格の他に実際の取引価格が存在する訳ですが、税務当局は不動産仲介業者に対してこれを厳禁しています。該当する場合は、不動産評価師の評価額を基に中古住宅の申告価格を算定しなければなりません。申告価格が著しく低くかつ正当事由がないと認定された場合は、当局が査定する価額を基に税額が決定されます。
また不動産の売却に関する税金や登記費用を、買い手が負担することがあります。当事者間の取り決め次第ですが、不動産の登記には完納証明書が必要なのでこの様な商習慣が存在するものと思われます。売り手が外国人の場合は、自ら申告納付を行い残額を国外送金するのが一般的です。

個人の不動産譲渡利益に対する中国での課税ですが、①個人所得税 ②土地増値税 ③増値税及び付加 の3税が課せられます。当該不動産が普通住房・非普通住房・非居住の何れであるか、また所有期間が2年未満・2年以上5年未満・5年以上(持家1軒のみ)の何れであるかに応じて、免税措置の有無や課税標準及び適用税率が異なります。普通住房の要件ですが、上海市の場合は住宅面積が140㎡以下で、価額が230万元(外環以外)または310万元(外環以内)以下の居住房がこれに該当します。

先ず①の個人所得税ですが国・地方が税収を分割する共有税で、9種類の所得区分に分けられ夫々に異なる税率が適用されます。2019年改正に拠り、賃金給与所得ほか3種類の所得については、総合課税方式が適用されることになりました。但し居住者に限定されており、非居住者には従前通り分離課税方式が適用されます。不動産の売却益は財産譲渡所得に該当し、適用税率は20%の比例税率です。課税所得金額は、譲渡収入から取得価額と譲渡費用を控除して計算しますが、所得金額が正確に計算できない場合は税務当局の査定(売値の1%~5%程度を所得金額と見做す)に拠ることになります。実際には取得価額が分っているにも拘らず、この取扱いを逆手に取る事例(注)も少なくない様です。尚5年以上所有する一定の居住用住宅の譲渡は免税措置が採られていますので、多くのケースで個人所得税の負担はありません。
(注)日本の確定申告では、この様な見做し所得金額計算は認められません。取得費が不明の場合は、概算取得費控除により売値の5%が取得費(=95%が売買利益)とされることがあります。中国での所得金額計算と混同して藪蛇とならぬ様に御留意下さい。

次に②の土地増値税は、土地使用権とその上に存する建築物及び付属物の増値に対し課される地方税です。付加価値額に対し30~60%の4段階の税率が適用されますが、現在のところ上海市では非居住土地使用権の譲渡以外は免税になっていますので詳細は割愛します。

最後に③の増値税ですが、日本の消費税に相当するものと考えて頂ければ理解が速いと思います。具体的な計算ですが、日本の消費税と略同様で売上税額(販売額X増値税率)から仕入税額(購入額X増値税率)を控除して求めます。

日中両国による二重課税の排除ですが、個人所得税と土地増値税は外国法令に拠り個人の所得を課税標準として課される税ですから、外国税額控除の対象になります。控除の適用時期は、申告等により外国所得税の納付が確定した日の属する年分になります。或いは納付が確定した外国所得税を、実際に納付した日の属する年分とすることも可能です。日本の不動産譲渡所得は分離課税で、所有期間が5年超の場合の適用税率は国税・地方税併せて20.315%、5年以下の場合は39.63%ですから、中国の個人所得税の太宗が税額控除できることになります。外国税額控除の適用を受けるには、確定申告書への必要事項の記載と必要書類の添付が不可欠です。これを失念すると適用が受けられなくなります。期限内申告に限らず期限後申告でも可能です。これに対し増値税は個人の所得を課税標準として課される税ではないので、外国税額控除の適用対象外です。税額控除ではなく、譲渡経費として処理することになります。

最後にペナルティーですが、日本の所得税に就いては申告漏れ指摘後の確定申告になりますので、10%又は15%の無申告加算税が賦課されます。調査前の自主申告の扱いになれば税率は5%に軽減されます。国外財産調書が未提出ですと、これに5%が上載せされます。行政処分なのでこの辺りは所轄税務署長の決定に従うしかありません。この他に確定申告期限から実際納付日までの間の延滞税が賦課されます。一方日本の住民税については本税のみで、加算金や延滞金の支払いはありません。

 
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