マレーシアに在る海外預金の利子所得が申告漏れになっている方から期限後申告のご相談

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私がマレーシアのHSBC銀行に保有している定期預金利子の確定申告についてご相談があります。
ⅰ)背景:
イ.2016年7月まで約10年間、マレーシアで日系法人の駐在員として勤務しました。
ロ.現地で支給された給与を定期預金化し、口座を残したまま2016年7月中旬に帰国、同社の国内事業所で勤務中です。
ハ.先日HSBC銀行からCRS(共通報告基準)関連の情報提供依頼がありました。
※インターネットでCRSについて調べた処、私が受領した定期預金利子を所得として日本で確定申告をする必要があることが分り、今回相談させて頂きました。
ⅱ)利子額:
2016年:約35万円/2017年:約40万円/2018年:約45万円(予測)
ⅲ)お聞きしたい内容
確定申告の要否(2016年も含める必要があるか)/確定申告の方法/確定申告をお願いした場合の報酬/大凡の納付額
宜しくお願いします。

 

①HSBCの協力要請
CRS加盟国所在の銀行は、管理する口座の中から非居住者を特定し課税庁に報告する義務があります。報告情報には、口座残高のほか利子配当等の年間受取金額も含まれています。これが日本の国税庁に送られてきますので、該当者は丸裸の状態にあることを認識しなければなりません。
②確定申告(期限後申告と理解します)の要否
本邦での増額更正の期間制限は5年です。従って2016年以降の確定申告が必要になります。但し1ヶ所から給与支払いを受けている方で、その年の給与所得及び退職所得以外の所得合計が20万円以下の場合は確定申告の必要がありません。
③確定申告の方法
2016年と2017年は随時に確定申告書(期限後申告書)を提出できます。2018年分は来年の2月18日~3月15日の間に確定申告書を提出します。
④税務代理報酬
貴方のマレーシアでの利子所得は非課税と了解します。その場合は面倒な外国税額控除の計算が不要ですのでXXの報酬で2年分の税務代理をお引受けします。
⑤納付税額
利子所得の申告漏れだけであれば、所得税が35万円X16年分の限界税率、住民税が35万円X10%になります。17年分も同様の計算です。このほか無申告加算税と延滞税が徴収される可能性があります。

1.マレーシアの銀行預金
どの国でも非居住者が銀行預金や証券取引口座を開設するのは困難です。マレーシアも例外では有りません。ご相談者の口座はマレーシアの居住者時代に開設したものを出国後も其の儘にしているもので、海外預金口座の多くが同様の経緯で存置しているものと思料します。
ところで、マレーシアの非居住者銀行預金に就いては同国固有の事情があります。政府は一定以上の収入と金融資産がある外国籍の個人向けに長期滞在ビザ(MM2H)取得プログラムを推進しており、例えば50歳以上の外国人であれば月額収入が手取り1万RM(約30万円)以上、金融資産が35万RM(約1050万円)以上あれば収入・資産用件がクリアできます。MM2H取得に伴い、現地銀行への15万RM以上の定期預金(RM建て)の預入れが必要になります。MM2Hを取得すると10年間の滞在(更新可能)が許可されますが、滞在が義務付けられている訳ではないので、有事の際の避難先確保の手段として利用される方も少なからず居られる様です。
この他に特筆すべき事項として高金利の適用があります。HSBCマレーシアのプレミア口座ですと1年物定期で3%前後の金利が付きます。RM建てなので為替リスクが伴いますが、一行当たり25万RMを限度とする預金保護制度がありますので信用リスクは保護されています。一定額以上の定期預金は非課税扱いになっていることも有り、資産運用先としても人気が有ります。

2.預金利子の計上時期に関する所得税法の規定
確定申告義務に関連して、給与所得等以外の所得金額が20万円以下であれば必要がないと申し上げました。ご相談者の場合は2016年の預金利子が35万円なので日本の居住者である期間に対応する金額は20万円以下、さすれば確定申告の必要なしと思われるでしょうがそうではありません。所得税基本通達36-2で、定期預金利子の計上時期は ”契約期間の満了前に既経過期間に対応して支払い又は元本繰入が行われる利子については、特約により支払われる日又は元本に繰り入れられる日” と定められています。従って通帳等で当該事実があった日と金額を調べる必要があります。

3.CRS(共通報告基準)
CRS(Common Reporting Standard)は、国外の金融機関に保有する口座を利用した租税回避行為を防止するために、OECD(経済協力開発機構)が策定した各国税務当局が金融口座情報を国際間で自動交換する制度です。
現在日本を含む100以上の国または地域が参加し、参加国に所在する金融機関は、管理する金融口座から税務上の非居住者を特定し当該口座情報を自国の税務当局に報告する必要があります。報告された情報は、各国の税務当局間で相互に共有されます。CRSは参加国の国内法に組み込まれ、現地法令として適用されます。
日本においては、国税庁が「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税の特例等に関する法律」を改正し、CRSを導入しました。2017年1月1日の施行で、2018年には金融機関による金融口座情報の初回報告と海外課税当局との情報交換が開始されます。

海外預金利子の確定申告に付いては、該当が有っても金額が少額なので無視されている方が多いのが実情と拝察します。ところがマレーシアの定期預金に就いては元本1千万円で30万円の利子が付きます。今後はCRSにより外貨預金の保有が補足されますので、面倒でも確定申告をされる様にお勧めします

 
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