アメリカに在る合有財産権(ジョイント テナンシー)として登記した不動産を賃貸されている方から所得税確定申告のご相談

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会社役員です。昨年3月ハワイに在る築25年の高級木造住宅を140万ドルで購入し、5万ドルを掛けリフォームをした後に8月より賃貸を開始しています。130百万円の銀行ローン(私名義)と残余は自己資金で賄いました。全額私が費用負担をし家賃も収納しているので、100%私の不動産所得として確定申告(還付申告)をする積りですが、現地の登記が妻との合有財産権(Joint Tenancy)になっていることが気になります。元より共有の意図などなく、単に現地の不動産業者から合有財産権にしておかないと後々相続等が起きた場合の手続きが大変ですよと言われただけのことなのですが。

 

結論から申し上げますと、この方については当該不動産を単独所有しているものとして不動産所得の確定申告を行いました。これに先立ち現地のエスクロウ会社には、合有財産権登記は錯誤に因るものなので至急単独所有権登記に変更するよう指示しました。何れも本邦での無償財産移転に係る贈与税認定を回避する為の対応です。このほか本事案に就いては、①海外の中古建物の減価償却費計算を利用した節税策封じ、②賃貸不動産に係る借入金利子が他所得とは損益通算できない場合、③借入金の利子が必要経費ではなく取得費になる場合 など神経を使うチエックポイントが幾つか有りますので充分な検証が必要です

 

1.合有財産権を取得した場合の課税関係

先ず合有財産権に係る本邦での相続税や贈与税の課税関係についてです。合有財産権とは同一の財産に関する同一の譲渡行為により、2名以上の者が同時に始期を開始する同一の権利を共同主有する権利を言います。各合有権者は、①他の合有権者の同意を得ずに自分の権益を第三者に転売することが出来る権利、②訴訟を提起して不動産の分割を請求できる権利、③合有権者の1人が死亡した場合にその持分の移転を受ける権利を有します。Joint Tenancyと呼ばれ米国のハワイ州やカリフォルニア州その他で見られる所有形態ですが、日本には有りません。一般的に利用されるのは不動産ですが、自動車や預貯金等にも利用できます。財産権の一態様ですが、わが国の所有権と同様に目的物に対する使用収益や処分権限があるため、無償による取得や移転があれば課税関係が発生します。具体的には、1)合有財産権の取得時点と2)合有財産権者の死亡時点での課税の2つです。

後者ですが、合有権者の死亡に伴う持分の移動は死因贈与による取得と考えられています。そうすると相続税法第19条(相続開始前三年以内に贈与があつた場合の相続税額)の規定に拠り相続税の課税対象になります。この取扱いは国税庁の質疑応答事例にも掲載されていますので議論の余地はなさそうです。
一方前者については明確な取扱い指針が示されていません。然しながら平成19年10月10日付の東京高裁判決や税大論叢22号に掲載された論文では、無償で合有財産権を取得した時点で贈与税を課すべきとの考え方が示されています。少なくとも完全に白と主張するのは難しそうです。
(追加記事)
本記事掲載後の平成29年10月19日、名古屋地裁で判決があり、米国でのジョイント・テナンシーによる夫から妻への不動産の権利移転に対する愛知県昭和税務署長の更正処分(贈与税の申告漏れ)が確定しました。海外不動産取引は金額が張るだけに、既に実行されたものも含め類似事案には注意が必要です。

ご相談の事例では既に合有財産権として登記されています。従って不動産所得の持分割合の議論に止まらず、奥様の贈与税が問題になる可能性があります。昭和57年の通達(直資2-177外)で ”他人名義により不動産の登記をしたことが過誤に基づき又は軽率にされたものである時は、最初の贈与税の申告・更正・決定前に取得者等の名義とした場合に限り贈与がなかったものとみなす” との救済措置がありますので、現地のエスクロウ会社に指示して至急単独所有登記への変更を指示しました。

2.海外の中古建物の減価償却計算を利用した節税策封じ

日本と欧米の中古建物の売買価額や減価償却計算の相違を利用した富裕層による節税策が増加傾向にあり、会計検査院から問題指摘がなされています。これを受け課税当局も対応を検討中ですが、税制面のみで汎用的・論理的に対処するのは難しく未だ成案が得られて居りません。然しながら何れ税制改正が行われるのは必至と思われ、充分にフォローする必要があります。*別稿 最近の税務トピックス欄「海外の中古建物の減価償却費を用いた節税スキームが今後規制される可能性」をご参照。

3.賃貸不動産に係る借入金利子の他所得との損益通算の制限

不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合において、必要経費に参入した金額の内に土地等の取得に要した負債利子が有るときは、一定の金額が損益通算の計算上なかったものと見做されます。土地建物を一括購入した場合には、先ず取得価額を土地と建物に区分する必要が有りますが、実務では現地の固定資産評価額の比率で按分するのが一般的です。なお本規定の適用上、土地建物を一括して借入金で取得した場合には先ず建物部分に充当したものとして計算することが認められています。 *別稿 不動産取引欄「賃貸不動産に係る借入金利子の一部が他の所得と損益通算できない場合」をご参照。

4.賃貸不動産に係る借入金利子で必要経費ではなく取得価額となるもの

新たに不動産賃貸事業を開始した場合に、借入金利子を全て必要経費にされる方が居られますがこれは間違いです。賃貸業務開始前の期間に対応する利子は土地及び建物の取得価額に算入しなければなりません。業務開始後の期間に対応する利子のみが必要経費になります。この場合の業務開始日ですが、具体的には不動産会社に仲介業務を委託した時や入居者募集広告を行った時がこれに該当します。なお既に賃貸業務を営んでいる場合は、全て必要経費になります。

 
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