財産の名義変更があった場合の税務上の取扱いですが、相続税法基本通達9-9に ”不動産、株式等の名義変更があった場合において対価の授受が行われていないときは、これ等の行為は原則として贈与として取り扱うものとする”と定められています。但し贈与の性質や、贈与が多く親族間など特別関係者間で行われることから、事実認識には相当の困難が伴います。今回の確定申告では、親から子への名義変更を行った理由と目的、当事者間の合意内容、名義変更から相続発生に至る迄の資金移動状況、子側での預り預金と自己財産との区分管理状況等をチエックし、総合勘案して名義預金であるとの結論に到りました。
なお認知症などで親の財産管理が必要になった場合は、成年後見制度を利用して家庭裁判所の管理下に置くなどすれば、共同相続人間で紛議を生じることがなくまた無用の税務リスクも避けられます。今回のやり方は余りに拙劣である旨、辛口のアドバイスをさせて頂きました。
相続税対策として生前贈与を検討される方が多い様です。然しながらやり方を間違えると思わぬ税務リスクを背負い込んでしまいます。何故でしょうか?ご相談のケースでは3通りの対応が考えられますので、これを比較検討する形でご説明します。
1、被相続人の名義預金として相続財産に含めて期限内申告をする方法
事実関係から名義預金であると主張できるのであれば、無難且つ税負担が少なくて済む選択枝です。但しこれを税務署に認めて貰うには、上申書の提出やこれと齟齬のない遺産分割協議書の作成が必要になります。
各相続人が自分たちの名義にした預貯金をその儘相続に拠り取得する(銀行手続きはこれが簡単)のでは、生前贈与と一体何が違うのかと言う話になります。ご依頼者は上申書に、”名義預金は仮預りであり相続発生後に相続人間で調整をする予定であった”と記載されました。そこで遺産分割協議書中に代償分割の項目を設け、名義預金残高が多い相続人から少ない相続人へ調整金を支払うことで、相続割合の平準化と上申書に於ける説明との整合性を図りました。
2.預貯金の子名義への変更は生前贈与であるとして贈与税の期限後申告をする方法
名義預金との説明が難しいのであれば贈与税の申告を行うしかありません。暦年贈与の申告期限は翌年の3月15日ですので、これを過ぎると期限後申告になります。税務署長が国税債権を確定させる処分(更正・決定・賦課決定)には、期間制限(賦課権の除斥期間)が設けられていますので、法定申告期限から5年(偽りその他の不正は7年)を経過したものに就いては申告の必要がありません。但し贈与税については、相続税法の特例で除斥期間が6年と定められています。
期限後申告については、本税以外に5%(調査通知以降且つ更正等予知前の場合ば10%又は15%)の無申告加算税が課せられます。この他に、法定納期限の翌日から納付までの遅延に対し延滞税が課されます。特例基準割合に応じて変動し、平成29年7月現在の適用利率は、納期限から2か月以内が年2.7%。2か月経過後は年9%になっています。高率且つ無申告の場合は計算除外期間の特例がないため、負担金額が更に大きくなります。。
一方、相続開始前3年以内の贈与財産については、相続税の課税価格に加算して相続税総額を計算することとされています。”それなら贈与税であろうが相続税であろうが、税負担は同じ”と早合点される向きも居られるでしょうが、そうではありません。この場合は、先ず贈与税の期限後申告を行い、次に相続税の課税価格に加算して相続税総額を計算します。課された贈与税(相基通達19-6)は相続税から控除しますが、贈与税率は相続税率より累進性が高いため同一の課税価格であっても相続税<贈与税となるので、課された贈与税の一部しか控除することが出来ません。
3.税務調査で生前贈与であると否認され修正申告を行う方法
残念ですが、実は税負担が2と然程変わらないのです。違うのは加算税で、調査による更正等予知以降の割合15%又は20が適用されるためその分税負担が大きくなります。1か2で迷った場合には、判断材料の一つになると思います。
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