生前に多額の親名義の預貯金を子名義の口座に資金移動した方からの相続税確定申告のご相談

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昨年8月末に亡くなった母の相続に関して、4月に所轄税務署から「相続税の申告等についてのご案内が」送られて来ました。因みに相続人は私を含む兄弟3人です。相続財産(不動産は有りません)は死亡保険金を含めて4千万円で、48百万円の基礎控除額範囲内に収まりますが、この他に母の生前中に母名義の口座から兄弟三人名義の口座に移した預貯金が8千万円あります。しっかり者の母でしたが、数年前から認知症が進行し資産管理が覚束なくなったため、関係者で協議して詐欺などに合わぬ様に子名義の預貯金として預かったものです。確定申告期限が迫っていますが、どの様に対処すれば宜しいでしょうか?

 

本事案の論点は親名義の預貯金から子名義の預貯金への資金移動が、生前贈与に該当するのか或いは相続財産に含まれる名義預金に該当するのかの判断にあります。因みに生前贈与として当該預貯金に係る贈与税の期限後申告を行った場合の税負担は、加算税・延滞税を含めると3者合計で35百万円、これに対し名義預金として相続財産に含めた場合の税負担は5百万円と大差が付きます。税務調査が入る可能性が高いため、過去の関連者間資金移動を中心に事実関係を網羅的・客観的に確認した上で判断しなければならない事案です。

財産の名義変更があった場合の税務上の取扱いですが、相続税法基本通達9-9には”不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないときは、これ等の行為は原則として贈与として取り扱うものとする”と定められています。但し贈与の性質や、贈与が多く親族間など特別な関係がある者相互間で行われることから、多くの場合これに関する事実認識には相当の困難が伴います。今回の確定申告では、親から子への名義変更を行った理由及び目的、当事者間の合意内容、名義変更から相続発生に至る迄の資金移動のチエック、子側での預り預金と自己財産との区分管理の状況等に関する事実確認を行い、これ等を総合勘案して名義預金であるとの結論に到りました。
ご依頼者には、認知症などで親の財産管理が必要になった場合には、成年後見制度を利用して家庭裁判所の管理下に置くなどすれば、共同相続人間で紛議を生じることがなくまた無用の税務リスクも避けられることを説明しました。今回のやり方は素人判断とは言え、余りに拙劣である旨辛口のアドバイスもさせて頂きました。

相続税対策として生前贈与を検討される方が多い様です。然しながらやり方を間違えると思わぬ税務リスクを背負い込んでしまうため注意が必要です。
何故でしょうか?ご相談のケースでは3通りの申告方法が考えられます。これ等を比較検討する形でご説明しましょう。

1、被相続人の名義預金として相続財産に含めて期限内申告をする方法

  事実関係から名義預金であると主張できるのであれば、無難且つ税負担が少なくて済む選択枝です。但しこれを税務署に認めて貰うには、上申書や遺産分割協議書の作成を含む説得力のあるロジック構築と、これを立証する為のデーター取り揃えが不可欠です。
  例えば各相続人が夫々の名義で預かった預金をその儘で取得する(銀行手続きもそうしないと面倒)のでは、生前贈与と何が違うのかと言う話になります。相続割合も歪になる可能性があります。ご依頼者は上申書で、”名義預金は仮置きであり相続発生後に相続人間で調整をする予定であった”と説明しています。そこで、遺産分割協議書中に「代償分割」の項目を設けて、名義預金残高が多い相続人から少ない相続人への金銭支払いを実施し、相続割合の平準化と上申書に於ける説明の具現化を図りました。

2.預貯金の子名義への変更は生前贈与であるとして贈与税の期限後申告をする方法

  名義預金との説明が難しいのであれば贈与税の確定申告を行うしかありません。暦年贈与の確定申告期限は翌年の3月15日ですが、これを過ぎても確定申告書を提出することが出来ます。一方、税務署長が国税債権を確定させる処分(更正・決定・賦課決定)には、国税通則法で期間制限(賦課権の除斥期間)が設けられていますので、法定申告期限から5年(偽りその他の不正は7年)を経過したものに就いては申告する必要がありません。但し贈与税については、相続税法の特例で除斥期間が6年と定められていますので御留意下さい。
期限後申告の場合、本税以外にも5%(調査通知以降且つ更正等予知前の場合ば10%又は15%)の無申告加算税が課せられます。平成28年度税制改正に於いて加算税に関する取扱いが変更されていますので注意が必要です。
この他に、法定納期限の翌日から納付した日までの遅延金利相当として、延滞税が課されます。特例基準割合に応じて変動し、平成29年7月現在の適用利率は、納期限から2か月以内が年2.7%。2か月経過後は年9%となっています。高率且つ無申告の場合は計算除外期間の特例がないため、負担金額が大きくなります。。
 ご存知の通り、相続開始前3年以内の贈与財産については、相続税の課税価格に加算して相続税総額を計算することとされています。”それならば贈与税であろうが相続税であろうが、税負担は同じではないか”と早合点される向きも居られるでしょうが、そうではありません。この場合は、先ず贈与税の期限後申告を行い、次に相続税の課税価格に加算して相続税総額を計算します。課された贈与税(相基通達19-6)は相続税から控除します。贈与税率は相続税率より累進性が高いので、同一の課税価格であっても相続税<贈与税となるため、課された贈与税の一部しか控除が出来ません。

3.税務調査で生前贈与であると否認され修正申告を行う場合

  残念な結果では有りますが、実は税負担が2と然程変わらないのです。異なるのは加算税で、調査による更正等予知以降の割合15%又は20が適用されるのでその分税負担が大きくなります。1か2で迷った場合には、判断材料の一つになると思います。  

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