賃貸用不動産の設備取替工事の修繕費判定については、平成26年4月21日付け国税不服審判所裁決で示された法令解釈がメルクマールになります。認定は修繕費ではなく資本的支出に当るとの結論でした。然しながら当該事案は、在来浴室を解体撤去してシステムバスに取替えた工事で有ることに留意する必要があります。短絡的に、ユニットバスの取替え工事は資本的支出になると早合点せず、工事内容をよく確認してから判断をすることが必要です。
システムバスとは、工場などで予め防水性の高い素材を用いて天井・浴槽・床・壁などを成型しておき、現場に搬入した後にそれらを組み立てる浴室のことです。在来浴室の様に、壁や洗い場タイルにひびが入ったり下地木材が腐ったりすることがないため、殆んどの新築物件に採用されています。
ユニットバスへの取替え工事は、①在来浴室からユニットバスへの取替え②ユニットバスからユニットバスへの取替え③ユニットバスの部材の取替えの3パターンが考えられます。ユニットバス自体の修繕は余りないと思いますが、隣接設置されるガス給湯器は10~15年で寿命が来ますので、定期的な交換工事が必要です。
次に設備の修理・改良等の名義で支出した金額が、固定資産の取得として取り扱われる資本的支出に該当するのか、一時の損金となる修繕費に該当するのかの区分判定です。法令に拠れば、固定資産の使用可能期間の延長叉は価値の増加をもたらす積極的な支出が資本的支出であり、通常の維持管理及び原状回復のための消極的な支出が修繕費であるとされています。
理論的にはともかくこれでは実務上の判定が困難なので、法人税基本通達で一定の形式基準により区分している場合はその処理が認められることになっています。
基本通達7-8-3(少額又は周期の短い費用の損金算入)
その事業年度に一の固定資産の修理・改良等に要した費用の額が20万円未満である場合、または修理・改良等が概ね3年以内の周期で行われる場合は、その費用の額を修繕費として損金経理することができる。
基本通達7-8-4(形式基準による修繕費の判定)
修理・改良等に要した費用のうちに資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合は、その金額が60万円未満、又は修理・改良等に係る固定資産の前期末取得価額の概ね10%以下である場合は、その金額を修繕費として損金処理することができる。
審判所は、17年の築年数が経過した物件の一部に設備の取替工事を行ったものであり、物件の価値を高めまたその耐久性を増すと認められるので資本的支出に該当し、通常の維持管理のための修繕費には該当しないとの判断を下しました。
特に重要なのが、通達7-8-4は資本的支出か修繕費かの区分が明らかでない場合のみ適用される通達で、全ての場合に適用される訳ではない点を明確にしたことです。納税者側はこの通達を根拠の一つに修繕費の正当性を主張しましたが、審判所は”そもそも取替え費用の全額が資本的支出であり修繕費に該当するものはないため、通達は適用されない”としてこれを退けています。
もう一つ注目に値するのが、解体撤去した既存浴室の除却損失の計算方法です。一般に建物内部の各設備毎の取得価額は計算されません。そこで審判所は、建物の建築費用と総床面積から1㎡当たり建築単価を算出し、それに浴室部分の面積を乗じた金額を基に未償却残高を計算するのが合理的であるとの判断を示しました。実務では少額であれば計算を省くことも有るでしょうが、考え方そのものは参考になります。
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