1.関係法令と東京地裁判決
①売主の譲渡所得についての時価に依る見做し課税(所得税法第59条・第60条)
”著しく低い価額(=時価の2分の1に満たない価額)による譲渡が有った場合には、その時点における時価により資産の譲渡が有ったものとみなす”
時価の2分の1未満の対価で資産の譲渡を行った場合は、時価と売却価額との差額を譲渡収入に加算する必要が有ります。但しこの見做し課税は個人から法人への譲渡に限定されており、個人間の譲渡には適用されません。なお時価の1/2未満の価額での譲渡に因り売主に発生した譲渡損失についてはなかったものとされます。買主が見做し課税の適用があった資産を譲渡した場合は、売主の取得費・取得時期を引き継ぎます。
よって売主たるお母様に譲渡所得課税上の問題は生じません。
②買主に低額譲受けに因る贈与税の見做し課税(相続税法第7条)
”著しく低い価額の対価で財産を譲受けた場合には、当該対価とその財産の時価(第三章に特別の定めが有るものはその価額)との差額相当を、財産の譲渡者から贈与により取得したものとみなす”
著しく低い価額と判定されると、息子さんに時価と実際譲受価額との差額について贈与税が課される可能性があります。ところが所得税法と異なり、相続税法には著しく低い対価に付いての判定基準や算定方法が明示されて居りません。平成3年12月の改正個別通達(課資2-49)には、「相続税法第7条の適用に当っては、負担付贈与または個人間の対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等の価額は、取得時の通常の取引価額により評価する」、「相続税法第7条の著しく低い価額の対価に該当するかどうかは、個々の取引の事情・取引関係者の関係等を総合勘案し、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかにより判定する」とありますので、不動産に限っては相続税評価額ではなく時価で判定することが明確になりました。そうすると時価>相続税評価額の場合は、差額について贈与税が課せられることになります。ところが次の様な判決が出たため話がややこしくなります。
③平成19年8月23日東京地裁判決
”事件の概要ですが、土地を購入した翌年に妻子に対し持分の一部を贈与すると共に一部は路線価で譲渡したものです。所轄税務署長は、著しく低い価額の対価による譲渡として贈与税の決定処分を行いましたが、東京地裁はその全てを取消し課税庁も控訴しなかったものです”
(判決要旨)
イ.相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合には、原則として著しく低い価額の対価による譲渡と言うことは出来ず、例外として何らかの事情により当該土地の相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って著しく低い価額の対価による譲渡になり得ると解すべきである。(以下省略)
ロ.第7条は、当事者に租税負担回避の意図・目的があったか否かを問わず適用されるものであるから、親族間やこれに準じた親しい関係にある者相互間の譲渡とそれ以外の間柄にある者相互間の譲渡とを区分し、親族間やこれに準じた親しい関係にある者相互間の譲渡においては、例え著しく低い価額の対価でなくても課税する主旨のものであると解することはできない。
ハ.個別通達に言う実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかと言う判定基準は、第7条の趣旨に沿ったものとは言い難いし、基準としても不明確であると言わざるを得ない。(中途省略)個々の事案に対してこの基準をそのまま硬直的に運用するならば、結果として違法な課税処分を齎すことは充分考えられる。(以下省略)
2.どう対応すれば良いか
東京地裁判決は、個別通達の考え方を相当部分否定したものになっています。ところが、課税庁は控訴をせず、さりとて通達の削除・修正も行っていません。通達が活きていますので、同様の事案が出てきた場合に税務職員は通達に照らして判断することが予想されます。
然しながら判例で ①相続税評価額以上の対価で譲渡が行われて居れば著しく低い価額とは言えない、②実質的な贈与意図の有無に拘らず、親族間の譲渡であっても著しく低い価額でないものに課税することは出来ない、③実質的に贈与を受けた金額の有無は基準たり得ないとの考え方が明確に示されていますので、税理士としては東京地裁判決の趣旨にそって対応することになります。
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