海外転勤等により非居住者になったにも拘わらず意図的に源泉徴収あり特定口座で取引を続けると無用の税負担を余儀なくされることがあります

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海外赴任等により非居住者になったにも拘わらず意図的に源泉徴収有り特定口座で取引を続けていた為、この処の株高で無用に売却益に課された所得税や住民税の還付請求に困っている方からのご相談や税務代理のご依頼が増えています。こうした方は日本の税制や証券取引規制について或る程度ご存じの筈ですが、非居住者証券口座は取引上の制約が多いため敢えてこの様にされている様です。租税特別措置法や証券取引約定に違反していますので、証券会社や所轄税務署から還付請求の為の協力が得られず、困って私共の事務所に駆け込んで来られるケースが殆どです。
1.税法や租税条約の関連規定
  本件の対応に当たっては正確な税法解釈と事実関係の確認が欠かせません。税務署や証券会社が須らく自分に都合良く動いて呉れる訳では有りませんので、相手との見解相違があった場合は、感情的になることなく税法にどう書かれているかを理詰めで議論することが重要です。
①居住者・非居住者の判定
 所得税法で居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引続き1年以上居所を有する個人を言い、居住者以外の個人は非居住者とされます。所謂183日ルールは不採用で、住民票の有無も絶対条件にはなりません。国内での就業状況、配偶者その他の親族の状況、資産の有無等に照らして生活の本拠が国内に在るかどうかで判定します。日本と異なる規定を置いている国との調整は二国間租税条約に拠りますが、OECDモデルの条約の場合は、P/Eの所在場所・利害関係の中心がある場所・常用の住居の場所・国籍の順に居住地国の判定が行われます。
②特定口座
 居住者又は P/Eを有する非居住者が、金融商品取引業者等の営業所(国内所在のみ)に「特定口座開設届出書」を提出して、その金融商品取引業者との間で「上場株式等保管委託契約」などを締結した場合のみ特定口座を開設することが認められています。海外転出時の処理に就いての直接規定は有りませんが、居住者等のみに保有が認められていることから当然に転出時に閉鎖する必要があります。 
③非居住者に対する課税と源泉徴収
 非居住者に対する課税は所得税法第161条第1項に定める国内源泉所得を保有する場合に限られます。資産の譲渡に係るものとしては、同項第三号の”国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの” と第五号の ”国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構築物の譲渡による対価(政令で定めるものを除く)の2つが該当します。第三号に就いては所得税法施行令第281条に、特殊関係株主等たる非居住者が行なう一定の内国法人株式等その他の譲渡は国内源泉所得から外すとあります。従って非居住者が行なうこれ以外の上場株式等の譲渡に就いては、所得税が課されないことになります。一方住民税ですが、賦課期日時点に国内に住所を有する個人が納税義務書となりますので、非居住者に株式等譲渡所得割が課されることはありません。
 P/Eを有さない非居住者に対する源泉徴収ですが、所得税法第212条で第161条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者以外は源泉徴収義務がありません。従って通常の上場株式の譲渡には源泉徴収がありません。また所得税法第17条の規定で、源泉徴収をすべき所得税の納税地は、当該給与等支払者の事務所等とされています。 

2.証券会社の非居住者証券口座の取扱い基準の事例
  証券会社の対応が各社まちまちで此れが投資家の混乱を招いています。法で明確に定められているもの、例えば特定口座の閉鎖は各社とも一律に義務付けていますが、一般口座に移管した株式やNISA口座の取扱いに付いては個社毎に異なります。制約の多い証券会社では、顧客の居住地国に於いて日本の金商法の如き事業者登録を受けていないので、投資家保護や取引リスクの面で不確実性がある為と説明しています。
  もう一つの問題は,過誤納に係る還付請求に就いての証券会社の対応です。所得税等の還付請求について、出国に伴う必要手続を行っていない場合はお引受け致し兼ねます”と明記している証券会社が数多くあります。この場合は一筋縄で行きません。源泉徴収に係る過誤納に就いては、税務署及び市区町村が源泉徴収義務者からの還付請求しか認めていないからです。
<代表的なNET証券と総合証券の事例>
SBI証券>ホーム> 海外転勤等の理由により出国される方への対応についてより抜粋
当社に証券総合口座をお持ちのお客さまが、海外転勤等の理由により一時的に海外へ居住し、「非居住者」に該当する場合、当社でのお取引は停止させていただくことを原則とします。「非居住者」となる間も当社にてお預かり可能な商品は、原則として日本株式および日本国債に限定されます。お取引を継続した場合には、当社が日本における金融商品取引業等に相当するライセンスを海外の金融規制当局・監督官庁等から得ていないことにより、お客さまの居住地国での規制に抵触する可能性がございます。また、出国される場合および帰国される場合には、税制等の要請から必要な届出等の手続きを当社所定の書式を用いて実施していただく必要がございます。もし必要なお手続きを行わないまま出国された場合には、所得税の還付請求等についてはお受けいたしかねます。
※お客さまの状況に応じた税務相談には税理士法により回答することが出来かねますので、お客さまから税理士へご相談いただきますようお願いいたします。
※帰国予定なく海外へ出国される場合には、証券総合口座の閉鎖をお願いいたします。
野村證券>ホーム>海外へ転出されるお客様の口座に関するご案内より抜粋
お取引に就いては、新規の買注文は承れません。ご売却に当たりましては営業時間中のご本人様/法定代理人様/国内居住の取引代理人様からの電話連絡に限らせて頂きます。オンラインサービスでの取引は出来ません。
譲渡税に関してはご自身で申告を行う必要があります。配当課税に関する租税条約に関する手続きのサポートは行いません。国内株式に付いては発行会社等が住民税を源泉徴収することが有りますので発行会社等にお問い合わせ下さい。(ご参考)当事務所がこれ迄扱った事案から判断する限り、還付請求への協力依頼に就いてSBI証券の如くflatteryにやらないとは言って居らず、個々の事情に応じて対応しているものと推察します。何れにせよハードルは高いと思います。

還付請求の為の税務代理をご希望の方は、ホームの「ご質問/お問い合せ」をご利用下さい。ビデオ通話での打合せも可能です。
なお本件に関して当事務所の実務を伴わない質問や相談は有料無料を問わずお受け致し兼ねますので御承知置き下さい。

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