家族信託が本当に必要なケースとは? -税務上のデメリットが生じる場合も-

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家族信託とは財産管理の一手法です。 資産を持つ者が特定の目的、例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付のために、その保有する不動産や預貯金等の資産を信頼できる家族に信託しその管理・処分を任せる」仕組みです。換言すれば、自分で自分の財産管理ができなくなった場合に備えて、予め家族に自分の財産の管理や処分ができる権限を与えておく方法を言います。
家族信託では委託者・受託者・受益者の3者が当事者になります。財産の所有者である委託者が信託契約により受益者に財産の管理処分の権限を与え、受益者が財産からの収益を受け取る形が一般的です。財産を委託する委託者と利益を得る受益者が同じ者になる(自益信託)ことが可能で、実務的にはこのケースが多い様です。

1.具体的にどの様なケースで用いられるか
家族信託の目的資産としては預貯金・上場株式等・不動産などが考えられます。ところが前二者に就いては態々家族信託にする必要性がない様に思えます。銀行カードやWEB口座があれば、殆どのケースで不都合なく取引ができます。寧ろ金融機関の窓口等を利用する場合に、信託契約の受託者である旨の立証を求められ不愉快な思いをするだけかも知れません。これに対し不動産の賃貸や売買では、本人確認や法律行為能力の有無が厳格にチエックされますので、家族信託契約が有用でしょう。
信託契約では正規の手続きを経たものであることを立証するため、公正役場で公正証書を作成するのが一般的です。また信託財産中に不動産がある場合は、信託登記を行って委託者から受託者への所有者名義変更をしなければなりません。この場合には登録免許税が必要です。不動産書取得税は不課税です。
家族信託が本当に必要とされるのは以下の様な事例です。
ⅰ)親が所有するアパート等の管理・運営が高齢で重荷になってきたので子供に頼みたい
ⅱ)認知症等で正常な判断力を失った場合に備えて、施設への入居費用を賄うため妻や子供に所有不動産の売却や転用等の処分を委ねたい
ⅲ)委託者が亡くなった場合の財産承継の順位を定め妻の老後資金の手当てをしたい

2,どの様な不都合が考えられるか -税務上のデメリットを中心として-
家族信託にすることの税務メリットはありません。寧ろ幾つかの不都合が考えられます。
贈与税の認定課税が生じる場合がある
委託者と受益者が異なる信託契約(他益信託)は信託設定時に委託者から受益者への贈与として贈与税が課税されます。また信託設定後に受益者の変更があった場合は、その原因に応じて贈与税・相続税・または譲渡所得税が課せられます。
不動産所得の赤字を他の所得と損益通算できない
信託財産に属する資産及び負債や、信託財産から発生する収益及び費用は受益者に帰属します。従ってアパート賃貸に係る不動産所得は委託者(=受益者)が申告納税をしなければなりません。ところが多額の修繕費等が発生して赤字になったとしても、他の所得との通算が認められません。繰越控除も然りです。これは租税特別措置法第41条の4の2の規定で、信託不動産で出た損失は不動産所得の計算上なかったものとすると定められているからです。
受託者の背信行為の可能性
親族と言えども委託者の信任に背く行為をしないとは限りません。成年後見制度であれば、定期的な財産目録の作成と報告が義務付けられ、また不動産等を勝手に処分することが禁止されています。ところが家族信託ではこうした不正行為監視システムがありません。トラブル防止のため家族信託に係る資金は、信託専用の口座を開設し厳格に区分管理することが必要です。
慰留分減殺請求が起こされる可能性がある
信託財産は、他の所有権財産から隔離され独立して扱われることから民法上の相続財産ではなく、従って信託財産には遺留分減殺請求が及ばないとの議論がありました。然し現在は、信託財産は実体上受益者の財産であり、受益者が死亡した場合はその信託財産は他の相続財産と同様に扱われ遺留分の対象になると考えられています。この根拠は2019年9月12日の東京地裁判決です。要旨は次の2点です。
イ.信託財産(信託受益権)も遺留分侵害額請求の対象となる
ロ.遺留分請求を逃れることを目的とした信託契約は公序良俗に反し無効となる
 
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