相続時精算課税の申告でご相談に来所されるのは、60才台の親御さんと3~40才台の子供さんの組合せで、新たに住宅を購入されるケースが殆んどです。
ご高承の通り、相続時精算課税制度では一定の要件を満たせば、住宅取得資金贈与の非課税制度と併用することが出来ます。例えば8千万円のマンションを購入するに際し、親から4千万円(相続時精算課税制度25百万円+住宅取得資金贈与の非課税制度15百万円)の贈与を受ければ、銀行借入は残り4千万円で済みます。加えて銀行借入については、住宅ローン控除の適用が受けられます。フルに優遇税制を活用した資金プランと言えますが、相続時精算課税制度の選択は良いこと尽くめではありません。
1.ファイナンス手段としては有用な選択肢だが、相続時精算課税制度の特別控除額25百万円には課税時期の繰延効果しかない。
贈与に対する課税には、暦年課税と相続時精算課税制度の2通りあることは御存知の通りです。後者は父母又は祖父母(60才以上)から直系卑属である推定相続人及び孫(20才以上)への贈与にだけ、一定の手続きを踏めば適用される制度です。受贈者である推定相続人や孫は、贈与者の異なる毎に何れかを選択できます。贈与財産の種類や金額・回数には制限が有りません。累計で25百万円の特別控除があり、これ以下であれば贈与時点での課税は有りませんが、超える部分については一律20%の課税が行われます。
ところが非課税ではなく単なる課税時期の繰延措置に過ぎないので特定贈与者が死亡すれば相続財産に加算しなければなりません。特定贈与者の相続財産(相続時精算課税の対象となった贈与財産を含む)が基礎控除額(3千万円+6百万円×法定相続人数)以下であれば、相続税の確定申告は不要です。従って贈与財産の相続財産への加算が行われないためデメリットは生じません。ところが基礎控除額を超えると確定申告が必要ですので、暦年贈与に比べると非課税枠110万円/年の喪失分だけ税負担が増える計算になります。これが相続時精算課税を選択した場合の、最たるデメリットです。
通常は相続税が掛かる規模の財産が有る場合には、暦年課税の方が有利になります。
次にファイナンス手段として考えて見ましょう。相続時精算課税制度を使わなければ銀行ローンを25百万円増額せざるを得ませんが、これだけ多額の借財になると元利返済がきつくなります。銀行ローンではなく親子間の金銭消費貸借契約とすることも考えられますが、贈与認定される可能性があります。
難点ばかり羅列した様ですが、メリットも有ります。先述の通り、相続時精算課税制度には贈与財産に付いての種類の制限がありません。また相続財産に加算する価額は相続時の時価ではなく贈与時の時価とされています。従って将来値上りの見込める土地や株式であれば、相続時精算課税の方が有利になります。賃貸不動産についても同様です。将来の賃料収入が贈与者の相続財産から外れるため、相続税対策として有用です。
2.相続時精算課税制度の適用要件が厳しく、事後のフォローにも手間が掛る
相続時精算課税制度は申告すれば無条件に認められるものでは在りません。幾つか適用要件があり、これを満たさなければ暦年課税での贈与として課税が行われます。実務でミスをし易い項目を列挙します。
①受贈者は特定贈与者の推定相続人(⇒直系卑属)又は孫でなければならない
老後の生活資金もあり、一方の親にだけ負担を掛ける訳には行かぬので、夫・妻夫々の親から支援を受けることがあります。ところが住宅ローンの関係で、マンションの所有権登記は御主人の単独名義にするのが一般的です。この不整合を税務署から指摘されたご夫婦から、相談を受けたことがあります。急遽錯誤による更正登記を実施し、共有名義に変更して事なきを得ましたが間違え易い点です。
②特定贈与者は、贈与をした年1月1日現在で原則として65才以上でなければならない
60才台の親御さんに本制度のニーズが多いとなると、この要件は結構微妙だと思います。実務でも、お預かりした申告書添付書類を見て焦った記憶があります。
③相続時精算課税の適用を受けるためには期限内申告書に必要事項の記載と書類の添付が必要
この取扱いには宥恕規定(税務署長が已むを得ない事情があると認めた場合の裁量権限)がありません。贈与税の申告期限を1年勘違いして期限後申告となり、相続時精算課税の適用が認められなかった事例がありました。不動産登記は錯誤による取消しが難しいので、本制度利用に当っては事前に税の専門家と相談されることをお薦めします。
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