相続税対策や遺産分割協議で誤解や理解不足が多く見られる民法(相続編)の規定とは

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相続税対策や遺産分割協議で民法(相続編)や相続税法の規定を間違えて理解していると後々面倒なことになります。中には弁護士さんが「えつ、本当なの?」と半信半疑に陥るものあります。相続人間の主張が対立したとき、或いは遺留分の減殺請求が提起されたときなど、必要な法律・税務知識がなければ相手方に好い様にされる、或いは此方が理不尽な主張をすることになり兼ねません。こうした無用のトラブルを避けるため、誤解や理解不足が生じ易く且つインパクトが大きい項目に絞って順不同でご紹介します。分かり易さを重視した結果、須らく法令条文に則した解説にはなりませんが、ご理解の程お願い申し上げます。

1.遺産分割協議は全ての相続人の同意が必要です
  共同相続人は被相続人が遺言で禁じた場合を除き、その協議で遺産の全部又は一部の分割が出来ます。共同相続人間の利害対立で協議が調わないとき又は所在不明等に因り協議ができないときは、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。調停が成立した場合は調停調書が作成され、確定判決と同様の効力が生じます。調停が成立しない場合は、自動的に審判に移行します。なお預貯金に就いては、相続開始時残高の3分の1に相続分を乗じた額について、単独で預貯金債権を行使することができます。
2.相続財産の範囲内で相続債務を負担する限定承認は、一人でも単純承認する相続人がいると認められません
  債務超過の可能性がある相続に就いては、相続放棄のほか限定承認相続の選択があります。但しこれには2つの問題が有るため簡単ではありません。一つは相続開始後3か月以内に財産目録を作成して家庭裁判所に申立をしなければならないこと、2つ目は共同相続人全員が限定承認の申立をしなければならないことです。このほか限定承認に付いては、被相続人から相続人に対する時価での譲渡が有ったものとして見做し譲渡規定(所得税法第59条①)が適用されることにも留意する必要があります。
3.遺言が有っても相続人全員の合意が有れば、これと異なる遺産分割協議を行うことができる訳ではありません
  遺言と異なる遺産分割は次の全ての要件を充たした場合のみ可能です。①遺言で死亡後5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止することができますが、この禁止がないことが条件です ②相続人全員の合意が必要です ③相続人以外の遺言執行者がいる場合はその者の同意が必要です ④相続人以外の受遺者がいる場合はその者の同意が必要です。この場合の手続きは包括遺贈と特定遺贈とで異なります。
  特定遺贈がありそれと異なる遺産分割をした場合は、先ず遺言に従って相続登記を行ない、次に贈与または交換を原因とする移転登記を行う必要があります。一方相続税ですが、当初から遺言と異なる遺産分割をしたものとして、相続人間での贈与や交換に因り贈与税が課せられることはありません。
4.遺産分割協議により法定相続人以外の者が相続財産を取得することは可能ですが、法定相続人から取得者への贈与税が発生します
  遺産分割協議に依り、法定相続人以外の者が相続財産を取得することは可能です。但しその場合は、相続人からその者に贈与があったものとして贈与税が課せられます。相続人には相続税が課され、別途財産を取得した者には贈与税が課されるため二重課税が発生しますので避けた方が賢明です。
  被相続人の介護・看護を行った特別寄与者ですが、相続人でなければ遺産分割協議に参加することはできません。特別寄与料を請求するには、相続人と直接交渉するか、或いは家庭裁判所に調停の申立をする必要があります。特別寄与が認められて相続財産を取得した者には相続税が課せられ、一方支払った相続人は課税財産価額から特別寄与料相当額を控除することになります。
5.被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合に、代襲相続ができるのは甥・姪までです
相続人となるべき者が相続開始前に死亡(又は相続人の欠格事由・廃除)により相続権を失ったときは、その者の子が代襲して相続人になります。相続を放棄した場合は代襲相続が出来ません。この場合の代襲相続人ですが、被相続人の直系卑属でなければなりません(民法第887条②)。ここで間違え易いのが相続人となるべき者が被相続人の養子であった場合です。民法727条の規定に拠り、相続人となるべき者の子が養子縁組後に生まれていれば、被相続人の直系卑属となるため代襲相続が可能です。これに対し養子縁組前に生まれている場合は、直系卑属にならないので代襲相続ができません。代襲相続人が相続開始前に死亡等により相続権を失ったときは、その者の子が再代襲して相続人になります(民法第887条③)。因みに相続人の欠格事由とは、被相続人を死亡させて刑に処せられた場合や、被相続人の遺言書を偽造・隠蔽した場合などを言いますが、これ等の事由で相続権を失った場合でも代襲相続が認められるのは意外です。
  民法第887条の規定に拠り相続人となるべき者がいない場合は、被相続人の直系尊属、次に被相続人の兄弟姉妹の順で相続人になります(民法第889条①)。兄弟姉妹が相続開始前に死亡等で相続権を失ったときは、その者の子が代襲して相続人になります。但し代襲相続が出来るのは被相続人の甥姪までで、兄弟姉妹の孫は再代襲が出来ません。理由は兄弟姉妹が相続人となる場合を規定した民法889条②で、代襲相続の規定(民法887条②)は準用されていますが、再代襲相続の規定(民法887③)は準用されていない為です。
6.母親に単独相続させる為に子が相続放棄すると、想定外の父親の兄弟や甥姪が相続人になることがあります
  父親が亡くなくなった場合、母親に単独相続させるために子が相続放棄をすることがあります。親子間の美談に思えますが、これが想定外のトラブルを齎すことになりかねません。放棄をした者は初めから相続人とならなかったものと見做され、父親に兄弟姉妹がいれば母親と兄弟姉妹が共同相続人になります。この不都合に気付き、後で相続放棄を撤回しようとしても認められません。錯誤の場合であれば取消しが認められることが有ります。何れにせよ相続放棄ではなく、遺産分割協議に拠り全ての財産債務を母親が承継することをお薦めします。
相続放棄をする為には、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に対し放棄の申述をしなければなりません。これ以外の期間や方法に拠る放棄では法的効力が生じません。被相続人の死亡前に”財産は要りません”と言った類いの取極めをしても法律上は無効です。
7.被相続人の実子であっても、認知されていない子は相続人になれません
  被相続人の子には相続権があります。ここでいう子は法律上の親子関係が認められる者に限られ、認知されていない子には相続権がありません。父親となる者に認知された場合は、父親の戸籍に「認知日」「認知をした子の氏名」「認知をした子の戸籍」等が記載されます。
  また相続権がある子は被相続人との生理的な血縁関係を有する実子でなければならず、出生届が出ていても真実の血縁関係がなければ虚偽の届出として無効にされることがあります。この場合は養子縁組を結ぶ必要があります。所謂連れ子に就いても同様の対応になります。
8.父母の相続で非摘出子の法定相続分は嫡出子と同じになりましたが、兄弟姉妹の相続で半血兄弟姉妹の法定相続分は全血兄弟姉妹の2分の1の儘です
  平成25年12月の民法一部改正で、非嫡出子の相続分と嫡出子の相続分が同じになったことは皆さん良くご存知です。非嫡出子の概念とは似て非なるものとして、半血兄弟姉妹があります。半血兄弟姉妹とは、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹のことで、例えば離婚した父親が再婚してその再婚相手との間にできた異母兄弟等がこれに当たります。留意すべきは非嫡出子の相続分との混同です。かつては「半血兄弟姉妹と全血兄弟姉妹の相続分」と同じく「非嫡出子の取り分は嫡出子の半分」とのルールでした。法の下の平等を定める憲法14条1項に違反しているということで、嫡出子と非嫡出子の相続分が同一になりましたが、半血兄弟姉妹と全血兄弟姉妹の相続分は改正されて居りませんので注意が必要です。
9.孫養子の法定相続分は、死亡した親の代襲相続分と子としての相続分を併せた割合になります
  1つの相続の中で相続人としての身分を二重に有している者を二重相続資格者と言います。典型的には孫養子がこれに該当します。孫養子の法定相続分ですが、亡くなった親の代襲相続分と養子としての相続分の合計になると言うのが実務先例です。これを勘違いされる方が少なくありません。法定相続人の数ですが、代襲相続人と孫養子が同一人ですので併せて一人と計算します。
  特殊な事例ですが、被相続人の妻が被相続人の亡父の養子だったとします。被相続人に子が無く兄弟がいた場合は、被相続人の妻は被相続人の配偶者と被相続人の兄弟としての二重相続資格を有します。この場合の妻の法定相続分ですが、配偶者相続分のみを有し兄弟姉妹としての相続分は有しないとの取扱い(S23.8.9民事甲2371号)になります。2つの身分が両立し得ない場合は、一方の身分のみを有するとの考え方に拠るものですが、予め所轄税務署に確認した方が良いケースもある様です。
10.生命保険金などの見做し相続財産は、共同相続人間の遺産分割協議や遺留分減殺請求の対象になりません
生命保険金や死亡退職金は相続税法上の見做し相続財産として課税対象になりますが、民法上の相続財産には該当しないため遺産分割協議の対象にはなりません。勿論、遺留分の計算上も考慮する必用がありません。そこで特定の相続人に偏った相続内容となる遺言では、他の相続人からの遺留分減殺請求に備える為、予め特定の相続人を受取人とする生命保険契約に加入することが屡々行われます。
 
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