相続しても利用の見込みがない実家の不動産は相続前・相続後の何れのタイミングで処分する方が得策か?

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個別事案に応じて結論が変わって来ると思いますが、一般的に相続前の自宅処分はお薦め出来ません。最近の日経新聞に「認知症 自宅の売却難題」と題する記事が掲載されました。認知症と診断されると、不動産売買契約その他の法律行為が無効とされる場合があります。これに備えて家族信託契約(自益信託)に拠り,予め特定の親族に自宅の売却を委託すると言うものですが、「金銭に親子なし」の格言もあります。想定外に親族間の揉め事の原因になる可能性が否定できません。今回は、①生活の基本財産となる自宅の確保 ②老後の生計資本の調達 ③売却迄の相続税及び所得税負担 の3つの切り口から、相続前・相続後の何れのタイミングで自宅を処分する方が得策かを考察して見ましょう。

1.生活の基本財産たる自宅の確保
  個人のライフスタイルや健康状態にも拠ると思いますが、自宅の維持管理や日常家事が賄えるうちは自宅に住み続けるのが無難です。自宅を持たない高齢者は、経済的弱者と見られる懸念があります。賃借するにせよ、家主にすれば高齢者への賃貸は嫌でしょう。子供世帯との同居となれば更にハードルが高くなります。支出を抑える為に物価が安い地方へ移住される方も居られますが、地域での人間関係や生活の利便性で音を上げる方が少なくありません。特に医療施設の不足がネックになる様です。
自分で身の回りが賄えなくなれば、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅等への入所が現実的な選択肢になります。尤も多額の費用が掛かりますので、手持ち金融資産とのバランスで自宅を処分するかどうかの見極めを行う必要があります。
  
2.老後の生計資本の調達
  老人介護施設への入所には多額の一時金と月額利用料の支払が必要です。後者については有期ではないため、余裕を見た資金計画が望まれます。取敢えず手持ち資金で間に合うとは思うが、長命で不足する可能性もある。これに備えて冒頭の家族信託の話が出て来る訳ですが、果たしてその必要があるでしょうか。家族信託が多く用いられるのは、信託財産が賃貸マンション等のケースです。事業ですから運用管理が大変なので、親族に関連業務を委託するのは良く分かります。ところが信託財産が自宅と言うのは理解できません。要は認知症になった場合の(100%起きる訳ではない)自宅売却の白紙委任ですが、第三者によるチエックが働きません。子(受託者)の事情で、親の意思に反する行為が行われる懸念があります。どうせ相続で自分の物になるのだからと言った手前勝手な理屈に陥るかも知れません。どうしても必要であれば、成年後見制度の利用をお薦めします。これには定期的に財産目録を作成して、家裁宛てに提出する義務が有ります。被後見人の利益を阻害する行為は禁止され、自宅処分等は原則として認められません。但し入所費用等の支払に充てる為で、他に適当な金融資産等がない場合は許可されます。
もう一つの選択肢としてリバースモーゲッジドローンが有ります。毎月の支払は利息のみで、元本は契約者死亡後の一括返済になりますが、相続人が代位返済するか担保物件(自宅)の処分代金で回収するかの選択が可能です。担保物件の処分代金で全額弁済できない場合に、相続人が差額を支払う必要がないタイプ(ノンリコース型)が用意されている商品もあります。使い勝手が良くない点として、仕組み上どうしても金利が割高になること、融資限度額が担保評価額の50~60%に抑えられていること,資金使途が制約される場合があること等が挙げられます。相続税と所得税の負担は、後述3の相続後売却の場合になります。

3.売却迄の相続税及び所得税負担
概算で結構ですので、相続税と所得税を計算して有利比較を行って下さい。
  築後20年の戸建て住宅で、時価は宅地90百円・建物5百万円(相続税評価額は夫々63百万円・2百万円)と仮定します。取得費と譲渡費用は合計で20百万円です。
(1)相続前に売却処分した場合
  本件の譲渡所得に付いては、3千万円の特別控除14.21%の軽課税率の適用が受けられます。相続税率は限界税率20%が適用されるものとします。
  所得税及び住民税:(95ー20ー30)百万円X14.21%=6.4百万円
  相続税     : 95百万円X20%=19百万円
(2)相続後に売却処分した場合
  相続税は小規模宅地等の特例の適用が受けられないものとします。適用税率は(1)と同率とします。所得税は3千万円特別控除と軽課税率の適用がありません。代わって相続税の取得費加算の特例が受けられます。
  相続税     : 65百万円X20%=13百万円
  所得税     :(95ー20ー13)百万円X20,315%=12.6百万円
(3)有利比較
相続前と相続後の税負担は大差ありません。相続財産の多寡・小規模宅等の特例の適用有無・宅地の取得費等により数字が変わるとは思いますが、太宗はこうした結論になると思います。さすれば税負担よりも寧ろ1と2の事情で売却時期を決定することになるのではないでしょうか。
 
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