第一次相続で配偶者が全ての遺産を相続すると、第二次相続との通算で税負担が不利になるケースがあります

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老夫婦世帯で御主人に相続が発生した場合、残された妻が遺産の全てを取得されることが多い様です。これは小規模宅地等の特例と配偶者の相続税額軽減規定(最大160百万円)を使えば、第一次相続では相続税支払いの必要がなくなることが多い為です。この他にも妻の老後資金への配慮等があろうかと思います。基本的にはこれで良いのですが、第一次・第二次を合せたトータル相続税負担が増える場合が有りますので御留意下さい。どの様なケースかと言えば、第一次相続財産が巨額であったり、妻が親からの相続等で多額の固有財産を所有している場合です。こうなると話が違ってきます。私ども税理士はその辺りを第一次相続時にシミュレーションでご説明しますが、余計な口出しをと不興に思われるお客様も居られるため難しい処です。
(設例)
都内の一戸建て住宅に住む標準的な老夫婦世帯で、ご主人に相続が発生したとします。遺産の相続税評価額は、居住用宅地100百万円・その他の資産が140百万円です。別世帯(生計非同一)を営む実子が2人います。妻の両親は既に他界しており、2億円の遺産を相続しています。配偶者が第一次相続で取得した財産及び所有していた固有財産は、第二次相続まで費消せずまた相続税評価額も変わらないとの前提です
1.妻が全ての遺産を取得するケース
(1)第一次相続
妻は居住用小規模宅地等の特例の適用(80%評価減)が受けられますので、課税価格合計は100X(1-0.8)+140=160百万円になります。配偶者の相続税額軽減規定に拠り、申告を条件として相続税を支払う必要が有りません。
(2)第二次相続
子Aと子Bが、居住用宅地1億円と家屋その他の資産1.4億円及び妻の固有財産2億円を均等に相続します。小規模宅地等の特例の適用が受けられませんので、課税価格の合計額は4.4億円になります。子Aと子Bが納付すべき相続税額は各62.6百万円です。この結果、第一次相続と第二次相続を合せた相続税の総額は125.2百万円になります。
2.妻は居住用宅地と家屋のみを取得し、その他の遺産は子Aと子Bが均等に取得するケース
(1)第一次相続
小規模宅地等の特例の適用が受けられますので、課税価格合計は1と同じ160百万円です。配偶者の相続税額軽減規定により、妻が納付すべき相続税額はありません、子Aと子Bが納付すべき相続税額は各7.525百万円になります。
(2)第二次相続
子Aと子Bが、居住用宅地と家屋、妻の固有財産2億円を均等に相続します。小規模宅地等の特例の適用が受けられませんので、課税価格の合計額は約3億円になります。子Aと子Bが納付すべき相続税額は各34・6百万円です。この結果、第一次相続と第二次相続を合せた相続税の総額は84.25百万円になります。

ケース1では、第一次相続で妻が全ての財産を取得すると、納付すべき相続税がないため一見得な様に見えますが、第二次相続を合せたトータル税負担はケース2よりも不利になります。尤もこれは比較計算のため前提を単純化したシミュレーションなので、実際には遺産の種類や規模、第二次相続までに妻が費消する金額に応じて結果が変わります。飽く迄も一つの目途としてお考え下さい。第一次相続時に在った金融資産は必ず減少するため、これを同額としたシミュレーションは実態に即しません。
相続税負担の得失での切り口で解説しました。ただ余程の資産家は別にして、配偶者が自宅不動産を含め遺産の相当部分を取得することをお薦めします。理由は長寿化社会では想定外に老後資金が必要になること、使い残しが出れば法定相続割合に応じて子に分与する位の割り切りであれば争族も起こり難くなるからです。

 
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