頭の体操です。実行するかどうかは兎も角、理論上はこうなると言う話です。
甲は運送業を営む非上場会社の代表取締役で、全株式を所有しています。財産は相続税評価額ベースで、金融資産3億円・土地5億円(小規模宅地特例の対象外)・非上場株式7億円(会社の純資産相当額)の合計15億円です。相続人は同社専務の長男Aのみです。
現状のまま相続が発生すると733百万円もの相続税支払いが必要になるため、顧問税理士の提案を基に(1)甲はAと代表取締役を交替し全株式をAに贈与する(2)これに先行して甲は自己所有の土地を3億円で非上場会社に譲渡する ことを検討しています。事業承継税制の特例と同族会社との土地取引が是認されれば、相続税支払いは3分の1の258百万円まで減額しますが、この節税プランを実行した場合にどの様な議論が考えられるでしょうか?
1.法人の役員から会社への土地の低額譲渡
法人は土地の時価と譲受け価額との差額2億円を受増益として申告します。これに係る法人税等(中小企業の実効税率25%)は50百万円です。一方相続財産が2億円減ります(土地▲5、預金+3)ので、Aの相続税(限界税率55%)負担は110百万円少なくなります。時価の2分の1以上の対価での譲渡ですので、甲に見做し譲渡所得は発生しません。
①法人の受増益(法人税法第22条の2⑥/相続税法第64条)
資産の時価と譲受け価額との差額が受増益になりますが、当該法人はこの規定通りに申告します。人格のない社団や持分の定めのない法人への一定の贈与に就いては、法人を個人と見做して贈与税が課税されますが、本件の場合は該当しません。
②役員の見做し譲渡所得(所得税法第59条①二)
時価の2分の1未満で法人へ資産の譲渡があった場合は、その時点での時価により資産の譲渡があったものと見做されます。然しながら本件は2分の1以上の対価での譲渡なので該当せず、従って土地の含み益に対する課税は生じません。
③同族会社の行為又は計算の否認(所得税法第159条)
同族会社の行為又は計算で、容認した場合は株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果になる場合は、税務署長の認定により否認できるとの規定です。本件が甲及びAの所得税負担を軽減するための取引でないことは明らかですので該当しません。
④同族会社の行為又は計算の否認(相続税法第64条)
同族会社の行為又は計算で、容認した場合は株主またはその親族の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果になる場合は否認できるとの規定です。甲及びAの意図は宅地を相続財産から外すことですから、議論になる可能性は否定できません。然しながら相続税負担を不当に減少させる行為として、どの様に否認するのでしょうか?
法人には低額譲受けの利益が有りますが、これに就いては適正に法人税の申告及び納付が行われます。法人を個人と見做して贈与税を課税(相続税法第66条①④)することも考えられますが、人格のない社団や持分の定めのない法人に限定された規定です。
そうすると売買取引の内容を否認するしか有りません。具体的には、取引そのものが無かったことにするか、時価の5億円で売買されたことにするかの何れかですが、明らかに無理があります。2.事業承継特例制度の特例適用
事業承継制度の特例ではこの種の相続税対策に歯止めをかけるために、有価証券・自ら使用していない不動産・現預金など特定資産の保有割合が総資産簿価の70%以上の会社を「資産保有型会社」として、認定贈与承継会社の対象から除外しています。また贈与前3年以内に先代経営者から「現物出資または贈与により取得した資産」の保有割合が総資産簿価の70%以上の会社も同様に除外されます。これらの要件を満たす金額範囲内での土地の譲渡に止める必要があります
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