海外中古建物の減価償却費を利用した節税スキームに対する令和2年度税制改正にはどう対応すれば良いか

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ハワイ等に所在する法定耐用年数を経過した高額不動産を購入して賃貸に出し、借入金利子(*)と減価償却費を利用した節税を図る高額所得者向け投資スキームが令和2年度税制改正で規制されることになりました。これは令和3年以降の国外中古建物から生じる不動産所得について適用されますので、既にこのスキームを実行中の方は何らかの対応が必要になります。但しことはそう簡単ではありません。この辺りを掻い摘んでご説明します。
(*)借入金利子のうち土地に係る部分については、措置法41条の4により損益通算に関する制限があります。為念。

1.海外中古建物の減価償却費利用に依る節税スキームの要諦
減価償却資産の耐用年数省令第三条①には、個人又は法人が事業の用に供する中古減価償却資産の耐用年数は、別表第一に拠らず次に掲げる年数に拠ることが出来ると定められています。
ⅰ)当該資産をその用に供した時以降の使用可能期間の年数
ⅱ)次に掲げる資産(前号の年数を見積もることが困難なものに限る)の区分に応じた年数
 イ.法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数の20%に相当する年数
 ロ.法定耐用年数の一部を経過した資産:法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数
住宅用木造建物の耐用年数は22年ですから、ⅱのイを適用すれば建築後22年以上経過した中古建物の場合、4年で取得価額の全てが減価償却できます。日本では耐用年数経過済みの木造建物に資産価値は認められませんので、これでも特段の不都合はありません。ところが欧米の住宅市場では全く事情が異なります。手入れが行き届いた中古建物であれば殆ど資産価値が減りませんので、評価額の50~60%が建物部分と言うケースも少なくありません。
日本の居住者である高額所得者が、ハワイに所在する築25年の別荘を2億円(建物の評価が6割)で購入して賃貸に出すとします。年間賃料は精々1千万円足らずですが、年間の建物減価償却費が3千万円にもなりますので多額の不動産所得の赤字が発生します。これを総合課税の給与所得や事業所得と損益通算すれば、合法的な節税が可能です。至って簡単なスキームと言えます。

2.令和2年税制改正のポイント
(1)個人が平成3年以降の各年において国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合に於いて、国外不動産所得の損失の金額があるときは、その損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は生じなかったものと見做す
 注1.「国外中古建物」とは、個人に使用され、又は法人の事業の用に供された国外にある建物で、建物償却費の必要経費算入額を次の方法に拠り算定しているものを言う。
  ⅰ)法定耐用年数の全てを経過した資産について、法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とする方法
  ⅱ)法定耐用年数の一部を経過した資産について、法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数を耐用年数とする方法
  ⅲ)その用に供した時以降の使用可能期間の年数を耐用年数とする方法(その耐用年数を国外中古建物の所在地国の法令における耐用年数としているものを除く)
 注2.「国外不動産所得の損失の金額」とは、国外中古建物の貸付による不動産所得の損失の金額で、その国外中古建物以外の国外不動産等から生ずる不動産所得の金額がある場合は、当該損失の金額を当該国外不動産から生ずる不動産所得の金額から控除してもなお控除しきれない金額を言う。
(2)上記(1)の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除される償却費の累計額からは、上記(1)によりなかったものと見做された償却費に相当する金額を除く

3.節税スキームを実行中の方はどう対応すれば良いか
一見すると上手い節税スキームに思えますが、所詮は中古建物の耐用年数簡便計算を使った減価償却費計上時期の調整に過ぎませんので、必ずどこかで税の取戻しが起きます。将来適用されるであろう総合課税の限界税率や分離課税の適用税率を踏まえた、周到な出口(物件売却)戦略が欠かせません。この際には日本のみならず、米国での課税にも留意する必要があります。こちらに関しては幣別稿「アメリカに所有する不動産に係る米国所得税の申告について」をご参照下さい。以下幣事務所が毎年の確定申告を受任している3パターンの事例を基に、具体的な対応策をご説明します。
海外中古建物の所有・賃貸を当面継続する
節税目的でハワイに別荘を買い、賃貸に出して不動産所得の赤字に依り多額の所得税還付を受けて居られる会社経営者の方です。平成29年秋から耐用年数4年で減価償却を行って居り、令和2年までは目論見通りの節税が可能です。然しながら今回の改正で令和3年には不動産所得の損失が認められなくなります。令和4年以降は減価償却費がゼロになるため、不動産所得が本業の所得に上乗せされより高い限界税率が課せられます。以降同様の状況が続きますが、こうした不都合は令和2年の税制改正に関わりなく予見されたところです。
海外中古建物を売却処分する
節税効果が得られなくなった時点で、別荘の賃貸を止め自己使用に切り替えるか、或いは売却するかの選択肢になります。所有期間5年以内の売却は短期譲渡として39.63%の分離課税が課せられるため、5年経過後に売却する必要があります。長期譲渡の税率は20.315%ですが、不動産所得の損益通算時の限界税率プラス住民税率より通常低くなるため、多少の節税メリットは残ります。
国外転出をして海外中古建物の所有・賃貸を継続し然る後に売却する
商社マンで、米国駐在中に中古住宅を購入して家族で住んでいたが、帰国後の5年間は賃貸に出し、昨年再び米国に単身赴任された方です。国外不動産所得があるため、弊事務所に確定申告の依頼に来られたもので節税等の意図は全くありません。給与が高いため、損益通算に依り相当額の還付を受けられました。減価償却費が無くなった後どうするか考えていた処、思いがけず転勤になりました。国外転出後に米国不動産を賃貸若しくは売却しても、日本での課税は一切ありません。一方米国での申告ですが、新築・中古、鉄筋・木造に関わらず建物耐用年数は27.5年と定められて居り、且つ1年超保有の賃貸用不動産(SECT.1231資産)の譲渡は長期キャピタゲインとなるため税負担は僅かです。実に運が良い方で、完璧な節税策になりました。
海外中古建物の所有・賃貸を継続しても何ら不都合がないケース
大学で教鞭を取って居られるご夫婦です。ジョイントテナンシーでハワイにコンドミニアムを購入され、自己使用しない期間は賃貸に出されています。不動産所得は赤字なので本来所得との損益通算による節税効果がありますが、これを目的とする投資ではありません。簡便法による耐用年数は9年ですが、不動産所得の赤字を大きくしたくないとのお考えで、米国の耐用年数27年を用いた減価償却計算により日本で申告しています。
この方の場合、所在地国の耐用年数を用いるため国外中古建物には該当せず、税制改正に拠る制約を受けません。現状の儘で所有・賃貸を継続することが可能です。
 
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