居住用賃貸不動産に係る消費税還付スキームに対する令和2年度税制改正にはどう対処すれば良いか?

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アパートやマンションなどの居住用賃貸不動産の取得に係る消費税還付スキームが、令和2年度税制改正で完全に規制されることになりました。すでに還付スキームを実行中の方やご検討予定であった方が今後どの様に対処すれば良いかについて解説します。

1.消費税還付スキームの仕組み
消費税法には、”調整対象固定資産(1取引単位が1百万円以上の固定資産を言います)の課税仕入れ等を行い且つ比例配分法により仕入控除税額を計算したときに、第3年度の通算課税売上割合が著しく変動(変動率が5割以上且つ変動幅が5%以上)した場合は、第3年度に於いて仕入控除税額の調整をしなければならない”との規定(法第33条①)があります。これを掻い潜るための節税策への規制措置としては、平成22年度税制改正で設けられた「調整対象固定資産の仕入等を行った場合の課税事業者選択不適用届出の制限(法第9条⑦)」と、平成28年度税制改正で設けられた「高額特定資産(1取引単位が1千万円以上の調整対象固定資産を言います)を取得した場合の納税義務の免除の特例(法第12条の4)」があります。ところが別稿でもご説明した通り、これでは完全な抜け道封じにはなりません。
良く用いられる還付スキームに、不動産所有会社を設立して金・白金・パラジウムその他の貴金属取引を定款で事業内容に加え、売買を繰返して合法的に課税売上割合を調整する手法があります。幣事務所の顧問先にもこれで数千万円単位の消費税還付を受けた法人があります。私共は、アパート賃貸や病院など非課税売り上げが太宗の事業者が支払った課税仕入れに係る消費税額の還付を認めないのは不合理だと考えています。悪質な税逃れと批判する向きもありますが、そうとは思いません。

2.令和2年度税制改正での規制の内容
イ.住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの(居住用賃貸建物)の課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用を認めない。但し居住用賃貸建物のうち住宅の貸付の用に供しないことが明らかな部分についてはこの限りでない。
ロ.仕入税額控除の適用が認められなかった居住用賃貸建物を、課税仕入れの日を含む課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の末日までに、住宅の貸付け以外の貸付け又は譲渡をした場合には、それ迄の居住用建物の賃付け及び譲渡対価の額を基礎に計算した金額を当該課税期間又は譲渡をした日の属する課税期間の仕入控除税額に加算して調整する。
ハ.住宅の貸付け契約において用途が明らかでない場合でも、建物の状況等から人の居住の用に供することが明らかな貸付けについては非課税とする。
二.高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置の対象に、高額特定資産である棚卸資産が納税義務の適用を受けなくなった場合の調整措置を受けた場合を加える。

3.還付スキームを実行中の方或いはご検討予定であった方はどう対応すれば良いか
(ⅰ)既に還付スキームを実行中の方
2の改正イ及びロは、令和2年10月1日以降に居住用建物の仕入れを行った場合について適用されます。従って現在還付スキームを実行中の方は改正の影響を受けません。結果良しと言うことで、今後は第三年度の通算課税売上だけを注意すれば良いことになります。
(ⅱ)ご検討予定であった方
令和2年10月1日以降の居住用賃貸建物の仕入れであっても、令和2年3月31日までに締結した契約に係るものであれば2の改正イ及びロは適用されません。物件の売買契約等をこれに間に合わせることが考えられますが時間的にタイトです。これ以外のケースについては残念ながら還付スキームが完全に封じられました

 
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